古川日出男作品のページ


1966年福島県郡山市生、早稲田大学第一文学部中退。編集プロダクション勤務、フリーライターを経て98年「13」にて作家デビュー。2002年「アラビアの夜の種族」にて第55回日本推理作家協会賞および第23回日本SF大賞、06年「LOVE」にて第19回三島由紀夫賞、13年「南無ロックンロール二十一部経」にて鮭児文学賞、15年「女たち三百人の裏切り書」にて第37回野間文芸新人賞を受賞。


1.
gift

2.サマーバケーションEP

3.ゴッドスター

4.MUSIC

5.4444

6.冬眠する熊に添い寝してごらん

  


 

1.

●「gift」● 


gift画像

2004年10月
集英社刊

(1300円+税)

2007年11月
集英社文庫化

 
2005/01/03

「小説すばる」に不定期連載された「かわいい壊れた神」シリーズ16篇+書下ろし3篇、という掌編集。

冒頭の「ラブ1からラブ3」は、妖精の足跡をみつけようというストーリィ。おっ、これは面白そうだゾと思ったのもつかの間、次々と展開するストーリィに次第に??

日常的な生活でちょっとコケたようなストーリィから、東京湾岸が水没して孤立したお台場の大観覧車のゴンドラ同士に手話的言語が生まれるという空想的なストーリィ、そしてちょっと笑ってしまうストーリィまで。
主人公も多彩、ストーリィも多彩で、どこに共通点があるのか困惑してしまう。
日々の些細な出来事にも大きな出来事にもその先にはいつも神様の存在がある、という掌編集らしいのですが、うーん、そう聞かされてもまだ??。
出来事の大小、日常的・空想的にかかわらず、想像力に任せてストーリィを繰り広げていくには、そこにも神様の悪戯心あってこそ、ということでしょうか。

   

2.

●「サマーバケーションEP」● ★★


サマーバケーションEP画像

2007年03月
文芸春秋刊

(1714円+税)

2010年06月
角川文庫化

   

2007/04/03

 

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井の頭公園にある神田川の源流から出発し、神田川に沿って海まで歩く、というだけのストーリィ。
でも、それがとても気持ち良く楽しいのです。

主人公は、人の顔を見分けることができないのだという。したがっていつも相手の顔に視線を向けす、声で相手を把握している。そんな主人公だからストーリィはどうなる?といっても、特にどうということはないのです。
主人公が歩き始めた時から仲間に加わるものがいて、さらに歩いていく途中で加わり、時機を得て離脱するものがいる。
恩田陸「夜のピクニックも歩くだけなのに楽しいストーリィでしたが、本書の徒歩行は学校行事でもなく、強制されるようなことは一切ない。その分もっと気儘に楽しめる気分がします。
皆、任意に参加しているだけなのです。各々の目的も、冒険であったり、弁天様の呪いを解くためであったりと、別々の筈。
そんな中で最初から最後まで行動を共にするのが、主人公であると男性のウナさん、女性のカネコさん。近付き過ぎず、離れ過ぎないという3人の距離感がとても快い。
そして特筆すべきは、2度にわたり途中参加し離脱もする、「おじさん」の社長さんの存在。思いも寄らぬ展開を提供してくれるこのおじさんの存在なくしては、この物語はおそらく平坦なものに終わってしまったことでしょう。

ただ歩くということ、私は好きです。井の頭公園から東京湾までという行程、誰でも歩けそうで実際歩く人は殆どいないだろうけれど、身近にある旅というところも好い。
そしてこの短い旅を通じて、東京が無機質な都会ではなく、江戸から続く町であるということもまた感じられるのです。

  

3.

●「ゴッドスター」● ★★


ゴッドスター画像

2007年11月
新潮社刊

(1300円+税)

2010年11月
新潮文庫化

   

2007/12/17

 

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たたみかけてくるような作品。どんどん、どんどん。読み手の頭の中に。
これはどんなストーリィなのか。判らない。それでもストーリィは進んでいく。そしてどんどん深くはまっていく。

変わった小説だなァ、と思います。
読んでいて最初に気づくのは、文章がぶち切られているように短いこと。
その短い文章が、たたみかけるように連続してストーリィが作られていきます。
主人公はOL。つい最近、妊娠中の実姉が交通事故で死んだらしい。そして主人公は叔母さんになり損ねた。
しかし主人公は、街中で一切の記憶を失い、信号機をずっと見ている9歳位の男の子を拾います。そして家へ連れて帰り、食器の使い方、トイレの使い方まで教えて、以後我が子のように世話をすることになります。
そして実際、カリヲと名付けた子供に「ママ」と呼ばせる。
やがて主人公は、カリヲは実際に若くして産んだこと、結婚したのだけれど離婚したという記憶をこしらえてしまう。
2人は空いた時間、あちこちへと母子のように出かけていきますが、やがてカリヲが知り合ったのは、メージという初老の男性。
その男性はヒロブミという名前の犬を連れ、自分は明治天皇であると名のり、港湾の倉庫街にいる仲間たちは彼のことを「だいげんすい陛下」と呼ぶ。

これは、主人公の意識の中の物語なのでしょう。
現実であるのかもしれないが不思議。それでもカリヲと本当の母子のように固く信頼し合っている様子は微笑ましい。
しかし、明治天皇まで登場してきてさらなる展開が始まると、これは現実なのか。それとも狂気の世界にはまり込んでいく途中のことなのか、と思えてきます。主人公の、働いている間とか日常的な世界が少しも描かれませんし。

ストーリィとしてどうなのかは判りませんが、稀な味わいある作品としてとても面白く感じられるのです。
たたみ掛けてくる言葉、リズム、そして意識。そこから生まれるストーリィ。主人公、カリヲ、メージという3人の人物。そして最後の思いがけない出来事。
これぞ変り種、という小説に興味のある方、お薦めです。

  

4.

●「MUSIC」● ★★


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2010年04月
新潮社刊

(1600円+税)

2012年11月
新潮文庫化

 

2010/05/30

 

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独特の文章スタイル、いきなり切り替わる展開、時々自分がどこを読んでいるのか判らなくなり戸惑うこともありましたが、本作品の疾走感、格別な味わいです。

主な登場人物は、
・かつて猫の数を数える競技で天才的な能力を発揮し、今は猫笛を操り猫語の共通語確立を目指す中2少年、佑多
・かつて“港区うさねこ戦争”に関わった過去を持つ、足の速い少女、祐多と同学年の美余
・飢えて死にかけていたところを祐多に助けられ、それ以来佑多とブラザーの関係を結んだ野良猫=スタバ。そのスタバは、必殺技を次々と繰り出し鳥を屠り続ける天才的な武闘派猫。
・さらに、男女2重人格を持つ北川和身&北川和美に、怪しげな計画を企みつつスタバを狙う手長男のJIが、本ストーリィにおける主だった登場人物&猫。

一歩一歩、地歩を固めて都内を歩く佑多。スタバに出会って魅せられた美余と佑多との出会いは、必然的と言いたく、楽しい。
恋人を失って彷徨う和美の行方は掴みにくいのですが、JIはスタバや佑多たちにとって悪役として登場。
その中でも群を抜いたキャラクターはもちろん、スタバ。野性味溢れ、闘争心旺盛なスタバに魅了されること、疑いなし。
そしてついに舞台は、東京からかつての都=京都へ。

現実的に考えると不自然なところ多々あるストーリィですが、そんなことはお構いなし。単なるファンタジーとして考えてしまえば良いこと。
とにかく、スタバや佑多、美余が醸し出す疾走感が素晴らしい。
その疾走感に浸っているだけで、楽しい、爽快。
とくに終盤、スタバが何と空を飛ぶシーン以降が圧巻です。
(その飛び方を知る興奮、読んだ人だけの特権です)
活字を追っているだけにもかかわらず、手汗握る興奮を味わう、とはまさにこのことか!と思う次第。

途中戸惑っても、どんどん読み進んでください。最後の40頁余りで、一気に面白さの視界が開けますから。

   

5.

●「4444」● ★☆


4444画像

2010年07月
河出書房新社

(1400円+税)

2010/08/15

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河出ウェブマガジンに44週にわたって連載された44の短編集の単行本化。

構成がもうひとつ理解できないままなのですが、4年4組が44ストーリィのベースにあるらしい。
4年4組+44篇=「4444」というのが、題名の所以か。

安東という教師がいて、4年4組の生徒たちがいる。
そしてストーリィの今は、小学4年の頃から10〜20年経った今なのか、それとも両方の時間が交錯している世界なのか。
いずれにせよ、4年4組が教師+生徒たちで構成されたたった一つの世界だったのに対し、44篇のストーリィにおいて各篇の主人公たちはもはやバラバラの世界にいる。
その対比を考えると、懐かしくもあり、時間の推移を感じることもあり。
一つ一つのストーリィの意味より、全体から浮かび上がって来る雰囲気をどう感じるか、という短篇集のように感じます。

      

6.

「冬眠する熊に添い寝してごらん」 ★★


冬眠する熊に添い寝してごらん画像

2014年01月
新潮社刊

(1600円+税)


2014/02/14


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蜷川幸雄氏のために書き下ろされた長編戯曲。

まず熊猟師猟犬、それが出会った熊母子が登場。
そして時代を越え熊猟師の4代下の
川下一(はじめ)多根彦の兄弟、さらに女詩人のひばりらが登場。
何がどう関わり合うのかよく理解できないままにストーリィは展開していくのですが、まるで暴走!?、といった感じです。
何故に暴走がもたらされるのかと言えば、その素にあるのは、怒りかあるいはエネルギーか。

熊猟師が生きた時代、熊が安心して冬眠できる山があったのに、石油を掘るために山が犠牲となり、さらには現代、原子力発電の不具合により生きるもの全てにとっての環境が損なわれる。
怒りの根底には、生きるものをないがしろにしている現代の社会構造があるのか。
本作品の抱えている勢いは、舞台となって初めて具体的に感じられる、そんな気がします。
戯曲は読むものではなく、やはり舞台の上で演じられるのを観るもの、本作品については特にそう感じます。

   


  

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