崔 実(チェ・シル)作品のページ


1985年生、東京都在住。2016年「ジニのパズル」にて第59回群像新人文学賞を受賞し作家デビュー。同作にて第33回織田作之助賞、第67回芸術選奨文部科学大臣新人賞を受賞。


1.ジニのパズル

2.pray human

 


           

1.
「ジニのパズル ★★☆         群像新人文学賞


ジニのパズル

2016年07月
講談社刊
(1300円+税)

2019年03月
講談社文庫化



2016/08/14



amazon.co.jp

東京→ハワイ州→オレゴン州と渡り歩いてきて、今またオレゴン州の高校で退学処分になりかけている少女パク・ジニ
そのジニがホームステイ先の婦人ステファニーに対して、今なお自らを苦しめている重荷=5年前の出来事についてようやく語り始める、というストーリィ。

主人公のジニは在日朝鮮人。小学校は日本の私立学校に通っていたものの、中学進学にあたって朝鮮学校に転じます。
朝鮮語で授業が行われる朝鮮学校の中で朝鮮語ができないジニの疎外感は言うまでもありませんが、ジニが違和感を持ったのは各教室に掲げられている金日成・金正日父子の肖像画。
それまで自由な日本社会で暮らしていたジニが、その日本の中での北朝鮮社会を確立している朝鮮学校に息苦しさ、気持ち悪さを感じるのは当然のことと言えるでしょう。
折しも北朝鮮がテポドンを発射、思わぬことからジニ自身がそのために日本人の男3人から迫害を受けることになります。

何故誰も声を上げないのか、朝鮮学校だからといって何故北朝鮮の行動是非を論じてはいけないのか。
たった一人、学校内で“革命”を起したジニの行動は、純朴な中学生として否応のない、心の底からの叫びであったと感じます。

本作品は著者の体験に基づくものだと思います。
それだけに在日朝鮮人という立場の中途半端さ、難しさをリアルに訴え、それに決して負けまいとする少女の悲痛な青春小説として極めて鮮烈。ジニの魂からの叫びに圧倒される思いです。
是非、お薦め!

                  

2.
「pray human ★★


pray human

2020年09月
講談社

(1500円+税)


2020/10/26


amazon.co.jp

芥川賞候補となった主人公は、意外な人物から電話を受ける。
それは、主人公が17歳の時に入院した精神科病院で患者たちのボス株だった女性=
安城さん
見舞いに通うようになった主人公は、その安城さんからの強烈な言葉に、これまでの自分のことについて語り出す、というストーリィ。
精神病院で一緒だった仲間たちのこと、共感し合い親友という関係であったにもかかわらず彼女を自殺から救えなかった悔い、性的悪戯を受けた過去・・・。

精神病院に何故入院していたのか、退院したのは治療が終わったからか、といったことは余り語られません。
そのため、精神病院に入院していたという事実だけが強く印象付けられます。

読み終えて強く感じたことは、生きるという平凡なことに苦しんできた主人公たちのこと。
何故苦しんでいたのかと言えば、それは生きようとしていたからこそなのではないでしょうか。
たとえ苦しむことが色々あっても、強く生きる、本作からはその強いメッセージを感じます。

ジニのパズルに続く、若い女性の切実なストーリィです。

           


   

to Top Page     to 国内作家 Index