安澄加奈
(あずみかな)作品のページ


1987年長野県安曇野市生、明治薬科大学卒。2007年「願いの神さま」にてジャイブ小説大賞で奨励賞を受賞。11年「いまはむかし」にて作家デビュー。


1.いまはむかし

2.はるか遠く、彼方の君へ

3.水沢文具店


4.幸せを呼ぶ物語、つづります。−水沢文具店−

5.天秤の護り人

 


           

1.

「いまはむかし〜竹取異聞〜 ★★☆


いまはむかし

2011年10月
ポプラ社刊
(1500円+税)

2013年09月
ポプラ文庫化



2011/11/10



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「竹取物語」を題材に、定められた運命と戦い、自分の手で新たな道を切り開こうとする少年少女たちの姿を描いた、古典ファンタジー。
ストーリィ構成も登場人物のキャラクターもしっかりしていて、中々の読み応えです。
作者の安澄加奈さん、現役の大学生で本作品が作家デビュー作ということですが、大したものだと素直に感心します。

時は都が平城京に移った頃。
乱暴なことが嫌いな
佐伯弥吹17歳は、武官の実家を家出をしてきたところ。その弥吹を追って同じく家を出てきたのが、幼馴染である薬師の娘=朝香
その弥吹と朝香が偶然に出会った2人の少年=
アキキヨ、何と2人は月の世界から地上に降りたかぐや姫を代々守ってきた月守の末裔だという。
かぐや姫を奪って巨大な富を手にしようとした者たちによって
竹取の里が滅ぼされ、生き残ったのは2人のみ。かつてかぐや姫が月から携えてきた5つの宝、今となっては争いの元になっているだけ。見つけだして月に返却し、かぐや姫の伝説に終止符を打とうというのが2人の決意。
弥吹と朝香、そんな2人と共に宝探しの旅をすることになりますが、その過程で思いもしなかった事実が明らかになり・・・。

どうにもならない運命に翻弄されながらも、自分の歩むべき道は自分で切り開こうとする少年少女たち。その4人の人物造形が実に好い。
また、旅、冒険、そして自分の道探しというコンセプトが明瞭でテンポも良いので、ストーリィも小気味良いのです。
そのうえ「竹取物語」という日本古来の伝承話が基になっているのですから、愉しいことこの上ありません。

「竹取物語」の面白さを現代的に蘇らせ、膨らませたという点で見事な一冊。お薦めです。

                

2.

「はるか遠く、彼方の君へ ★★


はるか遠く、彼方の君へ

2014年05月
ポプラ社刊

2016年09月
ポプラ文庫刊

ピュアフル
(864円+税)



2017/05/06



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京都に修学旅行に来ていた桐谷夕鷹(ゆたか)は、博物館で古い剣を目にした途端、周囲の景色が一変します。何と周囲で炎が燃え上がる場所に立ち、刀を振り回す甲冑を着けた者たちに囲まれていた。一体なにが・・・・?
夕鷹を危険な状況から救い出したのは、何と
源義経。夕鷹は現代から8百年も前の源平合戦時代にタイムスリップしていた。
夕鷹の他にも
遠矢宗一、そして阿南華月という女子高校生が同じく修学旅行中の京都からこの時代タイムスリップしていた。

本作は、源平合戦時代を舞台に、高校生3人の成長を描く青春ストーリィ&歴史時代小説。
幼い頃に両親に死なれ里親を転々とし、現在の里親や同級生たちから「気味が悪い」と言われる夕鷹は特別ですが、遠矢、華月にもそれぞれに抱えた悩み、悔恨があることが語られます。
さらに実は夕鷹と華月、幼い頃に出会っていたというのがミソ。
死が近い存在であったこの時代で3人は常に、どう行動するか、何のために生きるか、自分の意志で決めることを迫られます。

義経、白拍子の
、弁慶、佐藤継信・忠信兄弟、那須与一と源氏物語でお馴染みの面々に加え、3人を利用して歴史を変えようと企む平家側に組する陰陽師の安倍晴信、遠矢が恋する美弥姫等々と、顔ぶれは賑やかです。
随分久しぶりに“源義経”物語に戻ってきたという懐かしさがあり、歴史物語としてそれなりに楽しめました。

最後、3人は奇跡的に現代世界に戻ることができ、ある行動に出るのですが、正直言って尻切れトンボ感が残るのは否めず。
しかし、文庫化の際に3人の3年後を描く掌篇
「未来の今を生きる君へ」が追加されており、青春成長ストーリィとしてようやく得心が出来た、という思いです。
※好み次第だと思いますが、私は夕鷹&華月のストーリィ、好きです。


1.一ノ谷/2.都/3.熊野/4.厳島/5.屋島/6.壇ノ浦/7.彼方/未来の今を生きる君へ

                 

3.

「水沢文具店−あなただけの物語つづります− ★★


水沢文具店

2017年03月
ポプラ文庫刊

ピュアフル
(660円+税)



2017/04/05



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アンソロジー「明日町こんぺいとう商店街2」に収録された読み切り短篇「水沢文具店」から発展した連作風作品とのこと。

明日町こんぺいとう商店街にある古びた水沢文具店、入り口である硝子戸には
「ペンとノートをお買い上げの方、ご希望があれば話を書きます。オーダーメイドストーリー」という張り紙がはられている。
小学校の講師勤め2年目の
藤原栞は、通りがかりにその張り紙に目を止め、水沢文具店に足を踏み入れます。
店の主人は20代半ばくらいの青年、
水沢龍臣。しかし、暗い雰囲気のうえに無口、そのうえちっとも愛想がない。
それでも龍臣が書いたストーリィによりちょっと元気になれた栞は、度々水沢文具店に通うようになり、常連客の一人に。
そこから栞も、ストーリィの依頼を受ける度、龍臣と共に各依頼者が抱える問題に関わるようになっていきます。

「十二色のチョーク」:依頼者は、自信を持てずにいる栞。
「花柄シャープペンシル」:イジメに遭いクラスで孤立している中一女子の高橋優希
「金飾りの万年筆」:最近作品が書けないでいるという若手人気作家の間宮清一
・「瞳の色のガラスペン」:亡き祖父の友人であった
清さん
「白いノート」:龍臣と同様、期待された高校野球部のエースでありながら、故障で野球ができない身となった瀬川洸介

商店街を舞台、ハートウォーミングな連作ストーリィ、こうしたパターンの作品は今や数多くあるように思います。
その中で本作は、“オーダーメイドストーリィ”という道具立てが何といってもミソ。
でも私としてはそれ以上に、安澄加奈さんが作り出している優しさに惹かれます。
不器用な人間としては、うまくいかず悩むこと、後悔することは数え切れず。それでも「それでいいんだ」と言って貰えれば、それから先に向かってどれだけ勇気づけられることか。

不器用な人間だからこそ持つ温もりが、とても愛おしい一冊。


十二色のチョーク/花柄シャープペンシル/金飾りの万年筆/瞳の色のガラスペン/白いノート

                

4.
「幸せを呼ぶ物語、つづります。−水沢文具店− ★☆


幸せを呼ぶ物語、つづります。

2018年04月
ポプラ文庫刊

ピュアフル
(660円+税)



2018/05/07



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「ペンとノートをお買い上げの方、ご希望があれば話を書きます。オーダーメイドストーリー」とい水沢文具店シリーズ(になったのかな?)第2弾。

基調は前作と同じ。
「店主に話を書いてもらうと、悩みが解決するらしい」とSNSに書き込まれたおかげで、悩みを抱えた人たちが祈るような気持ちで、水沢文具店、店主の水沢達臣の元を訪ねてきます。
元々人と向き合うのが苦手な達臣ですが、かつては客、今は一応恋人同士となった小学校講師の
藤原栞の助けを借りながら、依頼に応じていきます。
なお、本作ではそれに加え、教員になるための教員採用試験に向けて頑張ろうとする栞と、恋人関係になっても不器用者同士故に中々関係が進展しない達臣と栞の様子が描かれています。
恋愛達者より、少しずつ恋愛を進めていく2人の姿が愛おしい。

「灯りともす野帳」:依頼者は、ヒキコモリになってしまった弟のを心配する姉の
「万華鏡クレヨン」:亡くなったおばあちゃんが遺した言葉が判らないと、笑わなくなってしまった幼い女の子=絵茉
「ヒーローの消しゴム」:クラスで男子のイジメにあっている女子=深山朝陽を助けたいと願う常連小学生の菊原貴哉
「名前のないインク」:薬剤師の秋川詠司
「オリジナル物語帳」商店街の秋祭り、達臣と栞が担うことになったのは、紙芝居。

明日町こんぺいとう商店街という舞台設定もあるのでしょうか、達臣に物語を依頼した人たちと達臣・栞という、人と人との繋がりが広がっていくような様子が本シリーズでの嬉しいところ。


灯りともす野帳−蓮/万華鏡クレヨン−絵茉/ヒーローの消しゴム−貴哉/名前のない色インク−詠司/オリジナル物語帳−栞と龍臣

              

5.
「天秤の護り人(まもりびと) ★★


天秤の護り人

2022年05月
ポプラ文庫

(720円+税)



2022/06/28



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珍しくも薬剤師を主役にしたお仕事小説、いやミステリ?

主人公の
五十嵐善・25歳は薬剤師。勤めていた薬局が閉鎖となったため、信州山間部にある三須々市の基幹病院となっている上鞍総合病院の薬剤部に転職したばかり。
その善、ある秘密を抱えています。それは、これから起きる、人の命が危険にさらされる場面を事前に見てしまう(
予徴)という能力。
しかし、この能力は善をずっと苦しめて来た。そんな善が転職した総合病院は、まさに人の命を救う現場・・・。

前半は、お仕事小説風。
善の指導役となった2歳年上の先輩薬剤師・
武原朝希に指導されながら善の奮闘する姿が描かれます。
医療小説は数多くありますが、薬剤師が主役になるのは珍しい。先輩薬剤師の一人で小説書きでもある
山吹あずさ曰く、薬剤師は主人公になりにくい、自らの奮闘で人の命を救うという仕事ではないから、という言葉には納得です。

後半、善と朝希の2人が15年前に起きた事件に関わっていたことが明らかになると、それから後はミステリ小説の展開。

やはり、薬剤師、薬剤師の仕事だけでは小説に話になり難いのでしょうか。善の能力、ミステリはそのための要素かと感じます。
しかし、武原朝希という若い女性の医師顔負けの活躍には、惚れ惚れします。薬剤師という仕事の重要性を強く感じさせられる部分です。

お仕事小説になりきれなかった点で物足りなさが残りますが、薬剤師を主人公に据えた意欲は高く評価したいと思います。

       


   

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