朝井まかて作品のページ No.2



11.残り者

12.落陽

13.最悪の将軍

14.銀の猫

15.福袋

16.雲上雲下

17.悪玉伝

18.草々不一

19.落花狼藉

20.グッドバイ

【作家歴】、実さえ花さえ、ちゃんちゃら、すかたん、先生のお庭番、ぬけまいる、恋歌、阿蘭陀西鶴、御松茸騒動、藪医ふらここ堂、眩

朝井まかて作品のページ bP


輪舞曲(ロンド)

朝井まかて作品のページ bR

 


           

11.
「残り者 ★★


残り者

2016年05月
双葉社刊

(1500円+税)

2019年06月
双葉文庫



2016/06/08



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幕末、官軍への江戸城明け渡し。
一橋邸に移る
天璋院(篤姫)と彼女に従う女たちを最後に江戸城は空城になった筈・・・・なのですが、何故か大奥に残った5人の女たち。

5人が企みをもって残った訳ではありません。それぞれの思いに引きずられ、あるいは個々の事情によってたまたま5人が顔を揃え、一晩を一緒に過ごすことになったという次第。
そうした偶然に合わせるかのように5人の大奥での格もマチマチです。
主人公というべき
りつは呉服之間勤めで仕立物担当の奥女中、御膳所勤めのお蛸は料理番、御三之間のちかは大奥で位階を極めようと心に決めていた若い娘、江戸ものをとかく馬鹿にするもみぢ静寛院宮(和宮)に従って京から下ってきたやはり呉服之間勤めの奥女中。そして最後は、天璋院の傍近く仕え信頼の厚かった御中臈のふき。りつ・ちか・ふきの3人は20代で、他の2人は年配者という具合です。

5人それぞれの事情が描かれていきますが、何故5人が他の人々と同一行動を取らず大奥に残ったかというと、要は大奥以外にもはや自分の居場所はなく去り難かった、ということ。
現代に置きかえ、これで一生安泰と思って就職した上場会社が突然倒産して働き場所を失うというショックを想像してみれば、彼女たちのショックが判るというものです。

幕末における女性史の一幕をさらりとユーモラスに描き出しているところは、朝井まかてさんらしい妙。
その後の彼女たちの頑張りに、拍手したい気持ちです。


1.呉服之間の「りつ」/2.御膳所の「お蛸」/3.御三之間の「ちか」/4.御中臈の「ふき」と、呉服之間の「もみぢ」/5.御針競べ/6.宵越しの理由/7.戦装束/8.残り者

  

12.
「落 陽 ★★


落陽

2016年07月
祥伝社刊

(1600円+税)



2016/08/02



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明治天皇崩御後、東京の地に明治天皇を祀る神宮、神宮の森を造成する計画について語った物語。

直木賞受賞以降目覚ましい勢いの朝井まかてさん、上手い処に目を付けたなぁというのがまず感じた事。この歴史的な出来事を小説にしようとは、これまで誰も考え付かなかったことではないでしょうか。
今や当たり前にしてそこに存在する広大な
明治神宮。その神宮がどのようにして造成されたのか。如何にも興味を惹かれる題材です。

本書の主人公は、大手新聞記者の座を失って今は四流新聞“
東都タイムス”の記者となり、時に暴露記事をネタに相手を脅して金を稼ぐこともある瀬尾亮一。明治天皇崩御後、皇城前の広場に額ずく多くの人の姿に「何故?」と疑問を抱きます。
一方、同僚の女性記者=
伊東響子は、神宮造営計画を個人的に追いかけ続け、瀬尾にも協力を求めてきます。
社主で主筆の
武藤笙月は、エセ新聞に似合わないネタと言いつつ、いつしか2人に引きずり込まれます。

全く知らなかった歴史的事実を知る、というのは常に楽しいものですが、本書ストーリィはそれに留まりません。
明治天皇はどんな人間性を備えた人物だったのか、天皇の遺志により御陵地は京の地に定められたのに、何故東京で神宮が造成されたのか、その意味は何処になったのかを描き出すストーリィとなっています。

読み応え十分な一冊。神宮造営という出来事に興味があるかどうかによって読後感は異なるかもしれませんが、お薦めです。


(青年)/1.特種(スクープ)/2.異例の夏/3.奉悼/4.神宮林/(郷愁)/5.東京の落胆/6.国見/7.落陽

     

13.
「最悪の将軍」 ★☆


最悪の将軍

2016年09月
集英社刊

(1600円+税)

2019年10月
集英社文庫



2016/10/20



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「最悪の将軍」とは少々ショッキングな題名ですが、いったい誰のことかといえば・・・徳川五代将軍・綱吉
と聞けば、それだけで納得してしまうのは、きっと私だけではないことと思います。
生類憐みの令による庶民への過酷な負担、吉良上野介と浅野内匠頭の刃傷沙汰に対する不公平な裁定、といったことで綱吉に対する悪評はまぁ一般的なイメージと思います。

そんな訳で是非読んでみたいという気になるものではありませんでしたが、そこは朝井まかて作品だから読んだようなもの。
本書は、その五代将軍・綱吉の生涯を、綱吉自身ならびに京の公家出身であるその
正室=信子の視点から描いた長編。

見る角度を変えると、見える景色もまた変わる。本作に描かれる綱吉像はまさにその典型的な例と思えます。
大名たちの利権より“民の安寧”を政の主眼とし、「武」による政治から「徳」による政治への転換を意図した辺り、為政者としての清さを感じる程です。
実際に綱吉治世の前半は、善政と評価されているらしいと知ったのは、本書を読んだからこそのこと。

このところ矢継ぎ早に新作を刊行している朝井まかてさんですが、面白い題材をいろいろと掘り起こしているなぁという印象。本書の綱吉もその一つです。


1.将軍の弟/2.玉の輿/3.武装解除せよ/4.萬歳楽/5.生類を憐れむべし/6.扶桑の君主/7.犬公方/8.我に邪(よこしま)無し

                

14.

「銀の猫 ★★


銀の猫

2017年01月
文芸春秋刊

(1600円+税)

2020年03月
文春文庫



2017/02/11



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江戸時代の老人介護問題を描いた連作風長編。
あの時代に長生きとは?と思うのですが、江戸の町は長寿の町。子供はふとしたことで呆気なく死すけれど、50歳過ぎまで生き延びれたその後はたいてい長生きなのだというのが、冒頭の弁。

主人公の
お咲は出戻り。3年前から口入屋「鳩屋」に属して“介抱人”の仕事をしている。
老人介護故に汚物を扱うこともあるし肉体的にもキツイ介抱人の仕事を何故お咲が引き受けているのかというと、稼ぎが女中奉公よりはるかに良いから。
そしてお咲が稼ぎの良い仕事が必要な理由はというと、ずっと妾奉公してきて浪費癖のある母親=佐和が、婚家の舅に無心して多額の金を融通してもらっていたという出来事があり、お咲が代わってその借金を返済し続けているため。

現代だろうと江戸時代だろうと、老人介護ともなれば、それぞれ様々な事情や状況があるもの。
介護される側、そして介護する側、様々なドラマが連作形式で描かれていきます。
それと同時に、お咲と困りものの母親・佐和との対立関係も一冊を通して描かれますが、これもまた見物。

実の親だから介護するのが当然、実の子だから介護を求めて当然と決めつけてしまうからお互いに不満が大きくなってします。
プロの介抱人の力を借りるのもまた必要なことと思います。
その点は、江戸時代も現代も変わることはない筈。

認知症あり、同性愛関係あり、介護ノウハウ本の出版ありと、時代設定は江戸ですけれど、現代ものを読むのと気分は全く同じです。
そうした中、変わった隠居道楽を始めたおぶんの存在が、平面的になりかねなかった本ストーリィを救っています。

※なお、題名の「銀の猫」とは、お咲が心の支えにしている、元舅からもらった坐り猫の根付のこと。


銀の猫/隠居道楽/福来雀/春蘭/半化粧/菊と秋刀魚/狸寝入り/今朝の春

              

15.

「福 袋 ★★☆        船橋聖一文学賞


福袋

2017年06月
講談社刊

(1600円+税)

2019年07月
講談社文庫



2017/07/13



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朝井まかてさん初の短篇集。

冒頭の「ぞっこん」、何やら不思議な感覚を味わいましたが、読み進む毎にどんどん面白さが募っていくところが、本短篇集の圧倒感ある魅力。
このところ歴史事実を踏まえた本格長編、といった作品が続いていたのですが、本書は市井もので完全なフィクション。その分、伸び伸びとした解放感があるように感じられます。
どの篇も登場人物たちが楽しい。人間というものの面白さ、可笑しさが存分に描かれているところが、面白くって堪りません。

「ぞっこん」“わら栄の御前”と呼ばれるのは筆? 筆が語るある職人夫婦の物語。不思議な面白さ。
「千両役者」:脇役止まりの役者=花六の前に贔屓客として現れたのはしょぼくれた唐辛子商人。さてその顛末は・・・。
「晴れ湯」:松乃湯の一人娘=10歳のお晴、稼業を助けようと三助の勤めをし始めますが・・・。
「莫連あやめ」:現代的な、勝ち組娘グループと地味コンビ娘の対決劇。終盤での思わぬ逆転劇は、痛快というか、それとも仰天したと言うべきか。(笑)
「福袋」:大喰い選手権を江戸市井もの小説で味わうようなストーリィ。その結末がなんとも心憎い!
「暮れ花火」:羽織裏専門の絵師であるおゆうと、2人の男とのやりとり。おゆうの強さと可愛らしさに見惚れる思いです。
「後の祭」:神田祭を舞台に、長屋の家主を務める徳兵衛が右往左往させられるストーリィ。最後のオチの一言が笑えます。
「ひってん」:かけがえのない仲間だった2人が選んだ道は対照的。どちらが良いとは言えないからこそ味わい深い。

本書を読みながら思い出したのは、初期作品の
すかたん
同作を思い出させる味わいの良さとユーモアがどの篇にも溢れていて、お見事!と言って過言ではない出来栄え。
時代小説ファンかどうかにかかわりなく、是非お薦め!


ぞっこん/千両役者/晴れ湯/莫連あやめ/福袋/暮れ花火/後の祭/ひってん

              

16.
「雲上雲下 ★★        中央公論文芸賞


雲上雲下

2018年02月
徳間書店刊

(1700円+税)



2018/03/08



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どことも定まらぬ場所に、樹木のごとく大きな身体を晒しているのは、枯れることのできない“草”。
その草に駆け寄ってきたのは、ちぎられたためかのように尻尾が短い
子狐
子狐は親し気に、馴れ馴れしく、
「草どん」と草を呼び、話をねだります。するとどうしたことか、自分でも思わぬことに草は「昔の昔・・・」と語り出し、子狐が「あいあい」と合いの手を入れて、流れ出すように懐かしい話が始まります。

私の世代なら子供の頃に親しんだであろう、日本の<昔話>を現代に蘇らせた一冊。
もちろん、ただ単純に<昔話>を再現しているのではなく、そこは朝井まかてさんが現代風にアレンジし、組み合わせたストーリィに仕立て上げています。
古く懐かしい世界の中に新しさがあり、新しい物語の中に懐かしい昔話が織り込まれているという風ですので、楽しいことしきりです。

何で今、こうした物語を朝井さんが?という疑問は、
「章ノ三」を読めばわかります。
私が子供の頃は、<昔話>との出会いが、物語の面白さを知る入り口になっていたと思います。今の子供たちはどうなのでしょうか。
単なる<昔話>の復活ではなく、<昔話>が忘れられ、消えてなくなってしまうことに警鐘を鳴らす作品、そう受け留めるべきでしょう。
子供の頃に親しんだ<昔話>を思い出して懐かしみ、嬉しくなる一方で、改めてその貴重さ、大切さを感じた次第です。


章ノ一 小さき者たち
草どんと、子狐/団子地蔵/粒や/亀の身上がり/猫寺
章ノ二 勇の者たち
通り過ぎる者/お花/湖へ/小太郎
章ノ三 物語の果て
草どんと、子狐と山姥/神々の庭/空の下

                         

17.
「悪玉伝 ★★        司馬遼太郎賞


悪玉伝

2018年07月
角川書店刊

(1600円+税)



2018/08/24



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大坂の商家における跡目争いが、何と大坂だけに留まらず、江戸にまで波及する大疑獄事件に発展した、迫真の時代ものサスペンス・ストーリィ。

大坂の商人である
木津屋吉兵衛は、父親の生家である炭問屋を継いだものの贅沢を尽くし今や行き詰まり寸前。
そんな状況の中、実兄である
辰巳屋久佐衛門急死の連絡を受け、吉兵衛は辰巳屋に駆けつけます。
ところが大番頭である
与兵衛は、事々に吉兵衛を排斥するかのよう。さらに姪=伊波の婿である乙之助はまるで役立たず。
大阪奉行所の裁きも受けて無事に兄の跡目を継ぎ辰巳屋の主となった吉兵衛でしたが、乙之助の実父である泉州の廻船問屋である
唐金屋与茂作が江戸表に吉兵衛を訴え出るとは・・・。

そこから、たかが町人の跡目争いに過ぎなかった出来事が、大坂だけでなく江戸表の武家たちまでを大きく揺るがす大疑獄事件に発展していきます。

どちらかというと明るい基調の作品が多い朝井さんですが、本作については冒頭から不穏な気配に満ちています。
どうもこういう雰囲気は苦手で、早く抜け出したいと読み急ぎましたが、ついに吉兵衛が江戸へ送られて入牢させられる事態にまで至ると、そんなことは言っていられません。
ハラハラドキドキ、果たして結末はどうなるのかと、現代サスペンスもの以上の緊迫感。

(以下、少々ネタバレ)
江戸表では、
吉宗の命を受けた大岡越前忠相も登場。
その忠相は祀り上げられた感のある寺社奉行という立場である故に、直接の当事者とはなりません。
そんな立場が、忠相をして客観的な視点の持ち主として位置付けられているところが、中々憎い仕様。

根っからの大坂商人と、公儀と結びついた政商との時代もの対決ドラマ、といって良いでしょうか。
最後まで意地を貫いた吉兵衛に拍手を送りたいところですが、犠牲になった人の多さを考えれば、読後感はすっきりしたもの、とは到底言えません。


※さて、表題の「悪玉」とは、誰のことなのか・・・。

1.満中陰/2.甘藷と桜/3.白洲/4.鬼門/5.依怙の沙汰/6.辰巳屋一件/7.波紋/8.弁財天

                

18.
「草々不一 ★★☆


草々不一

2018年11月
講談社刊

(1650円+税)



2018/12/12



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上手いなぁ・・・。そして、何と面白い。
知らず知らずのうちにどの篇でも惹き込まれてしまっています
何と言ってもストーリィ運び、構成が上手い! とにかく書かせたら達者ですよね、朝井まかてさんは。
どの篇でも、登場する人物が揃いも揃って生き生きとし、表情に富んでいるところが楽しい。
そして、何ということもないストーリィの中に、サスペンス風味やミステリ風味がちょっぴり添えられていて、なおのこと興味をかき立てられます。

船橋聖一文学賞を受賞した
福袋も逸品でしたが、本短篇集も同様の趣向で、同作それに負けず劣らず魅力的。
「福袋」が江戸の庶民たちを描いているのに対し、本作は江戸で生きる武士たちを描いています。その意味で「福袋」と本作は好一対と言って良いでしょう。

また、武士となれば、武家社会にあってあれこれとしがらみが多いもの。そんな中で何とか生き抜いているという気配を感じさせられるのですが、それはそのまま現代の会社社会に共通するものを感じます。その点でも見逃せない一冊です。
「福袋」と併せ、是非お薦め!

「紛者」:武士の風上にもおけない紛い者と嘲られ、離縁され脱藩して、江戸で年上の芸者に食わせてもらっている信次郎。思わず助けた武士の一言が・・・。
「青雲」:家督を継いだ真吾、小普請組として組頭の屋敷に日参しますが、職を得るのは所詮運や巡り合わせか・・・。
「蓬莱」:家格上位の家から望まれ婿養子に入った平九郎。初夜の場で新妻の波津から3つの条件を突き付けられ・・・。
「一汁五菜」:御台所膳所の台所人でありながら、町家の料亭で包丁人という裏稼業を持つ山口伊織。秘めた思いは・・・。
「妻の一分」:大石家の愛犬=唐之介が語る、内蔵助の妻女であるりくの一分とは・・・。
「落猿」:八作藩の江戸留守居役を務める奥村理兵衛、国許の妻にも離縁され江戸屋敷の長屋でずっと独り暮らし。勤めを担うその覚悟とは・・・。
「春天」:剣術師範の娘に生まれずっと剣一筋だった芙希も、明治の世で既に40歳。芙希が抱えて来た思いは・・・。
「草々不一」:武芸第一、ひらがなが読めれば漢字など誰かに代読・代筆させれば十分として生きて来た前原忠左衛門。妻のが突然病死し、腑抜けになった気分。その直が遺した一文。しかし、漢字交じりのその文を忠左衛門は読めない。息子・清秀のことで詫びとは、如何なることが認められているのか・・・。

8篇の中で、鍵となる出来事の面白さと、夫婦の情愛が豊かに感じられる「蓬莱」と「草々不一」2篇、特に好きだなぁ。


紛者(まがいもの)/青雲/蓬莱/一汁五菜/妻の一分/落猿/春天/草々不一

           

19.
「落花狼藉 ★★


落花狼藉

2019年08月
双葉社

(1600円+税)



2019/09/11



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江戸の不夜城、遊郭“吉原”
惣名主となる
庄司甚右衛門が公儀から「売色御免」の許可を得ての創設期から、火事による吉原全焼、公儀の命令により浅草田圃へ移転してからの更なる繁栄の時まで、70年にわたるその変遷を描いた歴史ストーリィ。

主人公となるのは、捨て子だったのを甚右衛門の
西田屋に拾われて育ち、後にその年若い女房となった花仍(かや)
ストーリィは、初代甚右衛門をはじめ創設期の吉原を支えた主だった者たちの没後も長生きし、大女将として2代目、3代目甚右衛門の西田屋を見守り、ひいては吉原遊郭の姿を見続けてきた花仍の視点から描かれます。

決してドラマティックなストーリィがある訳ではありません。
真の主役は、吉原遊郭そのものです。
その意味で本作は、吉原の70年にわたる変遷を描いた歴史絵巻、と言うのが適切でしょう。

その吉原を、単に男が欲を発散した場所と蔑視するなかれ。
疑似恋愛、廓言葉、花魁(太夫)と禿という職種?等々、ある意味ひとつの文化としてとても面白いものがあります。
その辺りも、本作を読めば多少なりとも知ることが出来ます。

私が“吉原”に興味を惹かれるようになった切っ掛けは、
隆慶一郎のデビュー作吉原御免状から。
同作は今読んでも十分面白い。これを機会に是非お薦め。


1.売色御免/2.吉原町普請/3.木遣り唄/4.星の下/5.湯女/6.香華/7.宿願/8.不夜城

                

20.
「グッドバイ ★★




2019年11月
朝日新聞出版

(1600円+税)



2019/12/04



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実在の人物、大浦慶(1828〜1884)の生涯を描いた作品。
 
長崎の油商・大浦屋を祖父から継ぎ、26歳で主となった
希以(けい、後に「慶」)。
油商だけでは先の展望がないと新たな商売の道を模索していた希以は、異人たちの話から茶葉の需要をつかみ、ついに
英吉利商人ヲルト相手に茶葉の輸出事業を成功させ、隆盛を掴む。
 
茶葉交易の先駆者になったというだけでなく、欧米との交易が輸入主体であったところに茶葉という大きな輸出商品を生みだしたところに、希以の偉業があったようです。
しかし、事業というものは、大成功のあとに大失敗もあるものなのでしょうか。<
遠山事件>により慶は大きな挫折を味わわせられます。
茶葉輸出事業で常に慶の片腕となってきた
友助が、その時に慶の傍らにいたら・・・とつい思ってしまいます。
 
外国商人である阿蘭陀人
テキストル、英吉利人ヲルトガラバアと取引を展開しただけでなく、幕末という時代に近藤長次郎坂本龍馬、大隈八太郎(重信)岩崎弥太郎とも交流した大浦慶。
その足跡は、単なる商人ではなく、といって政商でもなく、政治の世界で動いた坂本龍馬らと並行する形で、事業という方角から当時の日本を切り拓いていった傑出した人物の一人、と言うべきなのでしょう。
また、成功した時より、失敗した後にこそその人物の真価が問われるという言葉も、まさに大浦慶のためにあるように感じられます。

大浦慶という実在の人物を、その事実に沿って描いた作品であるため、ストーリィそのものには余りインパクトを感じませんが、
大浦慶という人物が日本の歴史上に存在したことに、何やら誇らしい気持ちでいっぱいになります。

女性による、豪快で痛快、そして爽快な歴史ビジネス小説です。

1.祝砲/2.照葉(てりは)/3.風月同天/4.約束/5.逆波(さかなみ)/6.波濤

    

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