朝吹真理子作品のページ


1984年東京都生、慶應義塾大学前期博士課程在籍(近世歌舞伎)。2009年「流跡」にて作家デビュー。10年同作品にて堀江敏幸氏選考によるドゥマゴ文学賞を最年少で、11年「きことわ」にて 第144回芥川賞を受賞。※仏文学者の朝吹三吉氏は祖父。


1.
流跡

2.きことわ

 


      

1.

●「流 跡」● ★★       ドゥマゴ文学賞


流跡画像

2010年10月
新潮社刊

(1300円+税)

2014年06月
新潮文庫化



2010/11/12

2011/02/13



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「・・・結局一頁として読み進められないまま、もう何日も何日も、同じ本を目が追う」という書き出しから始まるストーリィ。
繰り返し読み進もうとするが、いつしか意識は綴じ目をつきやぶって本の外に流れ出していく・・・・。

意識は川のように流れていき、妄想あるいは幻覚かもしれませんが、主人公をしていろいろなキャラクターに作り替え、まるで人生の流れのように形作っていく。
とはいうものの、ストーリィはどこかに行き着く訳でなく、結末がある訳でもない。本書はこうしたストーリィである、こうした作品であるという確かな感触を得られないまま、要はよく判らず、という一言が正直なところ。
ドゥマゴ賞、いつも風変わりな作品が受賞しているようなんですよね。
※なお、本作品に興味を持ったのは、サガン作品の訳者である朝吹登水子さんの兄である仏文学者・朝吹三吉氏、著者はその孫であるということから。

(2011.02.13)
先の読書に悔いが残っていたため、再読。
前回は、ストーリィを追おうとしてしまったことがまず間違いだったと思います。
本作品から流れ出してくるのは、言葉、そして言葉のながれ、羅列。
普段見ることもなかったような言葉が、幾度もごく自然な様子で顔を出します。
やたら難しい言葉を避け、漢字をさけてひらがな遣いが増えている現在の風潮を背景に、逆にそうした言葉がリズムや品格を醸し出し、楽しく感じられます。もちろん、文章の端正さがあってこそのこと。
ストーリィの行く末を気にすることなど、本作品にあっては本来不要のことなのでしょう。
どこまでも流れていく文章の中にあっての文章へのこだわりと清さ、清流に手を浸すような喜びを感じる一冊。

             

2.

●「きことわ」● ★★☆       芥川賞


きことわ画像

2011年01月
新潮社刊

(1200円+税)

2013年08月
新潮文庫化


2011/03/03


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貴子(きこ)永遠子(とわこ)、春子と貴子の母子が葉山で夏を過ごした頃、一緒に時間を過ごした間柄。
当時、貴子は8歳、小学3年生。一方の永遠子は15歳、高校1年生。
お互いの身体が絡まって、どこからが貴子でどこからが永遠子か判らなくなるように、くっついて眠り込んだこともあった。
その時から25年、葉山の家を整理しに来た貴子と永遠子との再会ストーリィ。

25.年ぶりの再会だというのに、2人はすぐに昔からずっと一緒だったようにやり取りします。
あの頃よく利用した店も、今も全く変わらずにそこにあります。
まるで25年という年月を軽々と飛翔して、25年前と現在がぴたっとくっついた感じ。
ただ、ストーリィ自体は、本作品においてそれ程重要ではありません。本作品で惹かれるのは、ストーリィよりむしろ文章です。
端正で美しい文章。一旦そこに気付くと、そのリズムの良さに捉われ、魅せられてしまいます。
再会した2人が時間に捉われず、融通無碍に現在と過去を行き来するかの雰囲気が、また気持ち良い。
これはもう、理屈ではなく、文章を肌で感じる気持ち良さ。

文章そのものを味わう楽しさ、という点では流跡と共通しますが、具体的に2人の女性が登場してのストーリィである分、読み易い。お薦めです!

     


   

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