有沢佳映
(かえ)作品のページ


1974年生、昭和女子大学短期大学部卒。群馬県在住。「アナザー修学旅行」にて第50回講談社児童文学新人賞受賞。


1.
アナザー修学旅行

2.
かさねちゃんにきいてみな

 


   

1.

●「アナザー修学旅行」● ★★☆       講談社児童文学新人賞




2010年06月
講談社刊

(1300円+税)

 

2010/09/04

 

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様々な事情で修学旅行に行けなかった中学3年生6人+αの、代替授業に登校した3日間を描くストーリィ。

中学の修学旅行、もちろん行きました、奈良・京都。その時もたぶん、何らかの理由で参加できなかった生徒はいた筈。でも、そんなことは記憶にまるで残っていません。
ですから本作品の内容を知った時、誰もが見過ごしていたスポットを見事に突かれた、という思いがして興味を覚えました。

とはいうものの、登校して一つの教室に集められた6人。クラスもバラバラで顔を知っているという程度で親しいということもない。それを表すように、座る席もバラバラに点在、という風。
皆が修学旅行中の時間を何とか過ごすだけですから、何のドラマがある訳でもない、そんなに知っている連中でもないし。
それなのに、何かが起こり、6人が結束して事に当らなくてはならないという場面が生じるという展開が、巧妙。

これまで顔を知っている程度だった同学年生と親しく交わり、意外な面で意識しているところがあったり、という点が面白い。
また、彼らの間で交わされる会話が楽しい、気持ち好い。
親しい同級生と泊まりがけで観光地を巡るという修学旅行の楽しさを味わうことはできなかったけれど、知らない同学年生と最後にはまるで一つのチームのような連帯感を共有したという点で、やはりこれは“もう一つの修学旅行”と言えるのでしょう。

ただ、親しくなったとはいえ、それはこの3日間だけのこと。来週になればまた元に戻るだけという主人公の締めが秀逸。
変にハッピーエンド、友情物語に終わらせない点が実に良い。

舞台設定といい、各人のキャラクターといい、清新な中学生ストーリィ、是非お薦めです。

           

2.

「かさねちゃんにきいてみな」 ★★




2013年05月
講談社刊

(1400円+税)

  

2013/07/08

  

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アナザー修学旅行以来、待望の第2作。
本書内容は、小学生たちが集団登校する様子を11月〜12月に亘り毎朝描いたもの。

主人公となるのは、間宮小学校
“南雲町二班”の5年生=ユッキーこと上原孝行。来年は班長になるのが確定的ですが、同じ登校班の下級生5人はそれぞれ問題のある子たちばかり。
しかし、現在班長の6年生=
かなえちゃんこと深町累は誰に対してもうんざりしたりしない。そのうえかなえちゃんが一言「ちゃんとして」と言えば、皆がそれに従うという風。
来年かなえちゃんに代わって班長になっても、そんな風にうまく皆をまとめていく自信がないと、今から頭を抱えている。

ありきたりの毎日、その朝の光景を描き重ねていく作品ですが、仲間内であれこれ言い争ったり、毎朝ワイワイガヤガヤと煩いばかり。それでも視点を変えてみると、2年生から6年生までの小学生だけという小さな世界の中で、皆が生き生きとしている姿がとても印象的です。
いいなぁと感じたのは、班の中でこそ悪口を言ったり問題児扱いしたりしていても、他の班から自班の誰かを攻撃されれば皆で一致団結して仲間を守ろうとするところ。
こうした同胞感を貴重な経験となって子供たちの成長の糧になってくれればいいなぁと祈りたくなります。
 
※なお序盤にユッキーが洩らす、班長は女子の方がいい、女子の方が大人だから、という言葉は素直に納得できます。
男子の場合はどうも強引に従わせようとするところがありますから(包容力がない所為?)。

       


   

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