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1.希望が死んだ夜に−仲田蛍シリーズNo.1− 2.境内ではお静かに−縁結び神社の事件帖− 3.あの子の殺人計画−仲田蛍シリーズNo.2− 4.境内ではお静かに−七夕祭りの事件帖− 5.境内ではお静かに−神盗みの事件帖− 6.陽だまりに至る病−仲田蛍シリーズNo.3− 7.少女が最後に見た蛍−仲田蛍シリーズNo.4− |
1. | |
「希望が死んだ夜に」 ★★ |
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2019年10月
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14歳になったばかりの中学2年生=冬野ネガが、同級生である春日井のぞみを殺害した容疑で逮捕されます。 逮捕されたネガはすんなり殺害を自供しますが、何故か動機については黙秘を貫く。 お互いに「希望、希(ねが)う、希む」という言葉から名前を付けられた2人の間に一体何があったのか。 教師も同級生たちも、2人の間に交友は全くなかったと証言していた。それなのに何故・・・、また2人の関りは? 捜査にあたる刑事は、神奈川県警刑事部捜査一課に配属されたばかりの警部補=真壁巧。冬野ネガの境遇が貧困な母子家庭と知りますが、それは自分も同じだった。ネガには努力が足りなかったと見方は厳しい。 その真壁とコンビを組むことになったのは、刑事事件であるのに異例にも多摩警察署生活安全課少年係の巡査部長=仲田蛍。 桑島管理官は仲田の能力を評価しているが、同署の刑事連中は彼女を「変わり者」、やたら<想像>ばかりしたがると嘲笑的。 真壁と仲田による事件捜査の展開と並行して、冬野ネガと春日井のぞみのこれまでが、ネガの回想として語られていきます。 この事件の根底にあった真相は、真壁の思惑を全く超えたものだった・・・。 本作の紹介文に“社会派青春ミステリ”とありましたが、本作の内容はまさにそのとおり。 冬野ネガと春日井のぞみの2人に何があったのか追求していく展開では、2人の過酷な現実があきらかになっていきます。 その一方で、生活保護申請への壁、役所の“水際作戦”、学校教師の無理解等々、貧困家庭の厳しい現実が描かれます。 ミステリとしても、2人の中学生の切ない青春劇としても、読み応えのある一冊。 最後は転々し過ぎと感じますが、お薦めです。 |
2. | |
「境内ではお静かに−縁結び神社の事件帖−」 ★☆ |
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2020年01月
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神社を舞台、美少女の巫女を探偵役にした、気軽に読める連作もの日常ミステリ。 舞台となる神社は、横浜・元町にあり源義経を祀る<源神社>。最近は恋愛パワースポットとして人気を集めている様子。 その源神社でバイトをすることになったのが坂本壮馬。教職を目ざしていたのですが、挫折し大学まで中退。一人娘だった琴子の婿養子となり源神社の宮司となった11歳上の兄=栄達から誘われて、という事情。 その壮馬の教育係に指名されたのが、札幌市にある神社の娘で、源神社で巫女を務めているクールな17歳の美少女=久遠雫。 その久遠雫、兄の栄達が太鼓判を押す名探偵。しかし、雫本人曰く、自分には人の気持ちがわからない、と。 そんなことで、雫をホームズとすれば、助手ワトソンの役を務めるのが壮馬、という次第。 日常ミステリの中身は、まぁまぁというところでしょうか。 それより、雫と壮馬という若い凸凹コンビのやりとりが楽しい。 そこはそれ、若い2人の間に親密になる可能性はあるのやら、という興味を否応なく抱えさせられるのですから。 ・「境内ではお静かに」:無人の阿波野神社で深夜大騒ぎが行われているという苦情。雫と壮馬が早速出動します。 ・「端午の節句はご家族で」:源神社恒例の子供祭りを中止しろという脅迫状。一体誰が? 何の目的で? ・「移転を嫌がるご事情は?」:駅周辺開発で菊野原神社に移転の要請。その交渉で、幼馴染の担当者と神職が大喧嘩? ・「彼のお好みとは違うかと」:鳥羽真准教授に紹介され、就活難航中の薬学科の学生=若槻奨輝が相談に。 ・「あなたの気持ちを知りたくて」:久遠雫自身の謎が明らかになる巻。雫と壮馬の関係、少しは前進するのやら。 1.境内ではお静かに/2.端午の節句はご家族で/3.移転を嫌がるご事情は?/4.彼のお好みとは違うかと/5.あなたの気持ちを知りたくて |
3. | |
「あの子の殺人計画」 ★★ |
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子供の貧困をテーマにした「希望が死んだ夜に」に続く、子供への虐待をテーマにした問題提起型、社会派ミステリ。 期待以上の読み応えでした。 川崎駅近くの路上で、大手風俗店の女性オーナー=遠山菫・49歳が殺害されて発見されます。 容疑者として、かつて遠山の店で風俗嬢として働いていた椎名綺羅・28歳が浮上しますが、彼女には犯行時刻に家にいたというその娘の証言があった・・・。 捜査に当たるのは「希望」と同じく、県警捜査一課の真壁巧警部補。そして今回真壁の相棒となるのは、所轄署刑事課に異動してまだ一年ながら期待を集める宝生巡査部長。 ミステリと言いつつ、犯人像は椎名綺羅に絞られた形で真壁の捜査は進みます。 しかし、本作の主眼は捜査より、“躾”だと冷水シャワーを長く浴びせ続ける“水責めの刑”を母親から度々与えられている小五の少女=椎名きさらのストーリィに引き込まれます。 そこで登場するのが、これもまた「希望」に続き、多摩警察署生活安全課の仲田蛍巡査部長。この仲田の登場があってから、本ストーリィがぐっと密度を上げたように感じられます。 虐待を母親の愛情がなせる躾と信じて疑わない少女の純粋無垢な心情が切ないくらいに痛ましい。 しかし、自分もかつて親から虐待を受けていたという男子同級生=翔太の言葉から、ついにきさらは母親の行動が虐待以外の何物でもないと知ります・・・。 最後、予想もしなかった作者の仕掛けが明らかにされますが、それが気にならないのは、彼女たちの過酷な運命に衝撃を覚えざるを得ないからです。 きさらたちに救いの道はあるのか、どうしたら救われるのか。 読み甲斐ある社会派ミステリの一冊、お薦めです。 |
4. | |
「境内ではお静かに−七夕祭りの事件帖−」 ★☆ |
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2021年03月
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横浜元町にある源神社を舞台にした日常ミステリ、第2弾。 ホームズ役はクールな美少女巫女の久遠雫、そしてワトソン役は雫への恋心を抑えられない坂本壮馬。 前作については日常ミステリと紹介しましたが、本書ではラブコメ・ミステリという印象が強くなっています。 <開帖+4篇+閉帖>という全体を通じて、ストーリィの軸になっているのは雫と壮馬の関係、のようですから。 前作の鳥羽真准教授に代わって登場するのは、壮馬が高校時代に付き合っていたが結局フラれた1歳年上の遠野佳奈。 そしてもうひとり、雅楽の龍笛奏者という上水流(かみずる)。 佳奈、父親と二人で学習塾を営んでいる所為か、壮馬をもう一度教職の道に戻そうと働きかけてきます。一方、上水流は雫の巫女舞で伴奏をしたいと、雫による再度の巫女舞を何とか再現させようとします。 源神社の雰囲気に馴染んだ所為か、雫&壮馬のコンビが似合ってきた所為か、二人の仲が注目を集めてきた所為か、前作より楽しめた気がします。 今後も続くシリーズの様子。多分、また読むことでしょう。 ・「おやめになるなら、その前に」:佳奈が突然現れ、問題を抱えている少年を救って欲しいと壮馬に学習塾の臨時講師を依頼。 ・「子の心親知らずですか?」:小6の璃子、父親が何か悪い金稼ぎをしているのではないかと、雫と壮馬に相談。 ・「フィギュアのご慰霊は難しく・・・」:兄が大切にしていたフィギュアを恋人の沙也加が勝手に炊き上げ依頼。その理由を解明してほしいと、弟の白露から雫に謎解きの依頼。 ・「たとえ、あなたがいなくても」:雫、壮馬のいる前に佳奈を呼び出します。その目的は・・・。 開帖/1.おやめになるなら、その前に/2.「子の心親知らず」ですか?/3.フィギュアのご慰霊は難しく・・・・/4.たとえ、あなたがいなくても/閉帖 |
5. | |
「境内ではお静かに−神盗みの事件帖−」 ★★ |
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横浜元町にある源神社を舞台にした恋&ミステリ、第3弾。 冒頭、今日こそ久遠雫に想いを告白しようとした坂本壮馬でしたけれど、汐汲坂高校へ無事入学した雫がイケメン男子を連れて帰って来たと思ったら、いきなり「紹介します」「わたしのカレシです」と宣言し、壮馬は呆然。 さらに、源神社の御神体、源義経由来の<今剣>を盗んだという犯行文と共に、納めていた木箱が空という事件が判明。 兄であり現宮司の栄達、事件解決を「雫ちゃんに任せたい」と言い、雫は「頑張りましょう、壮馬さん」と。 御神体盗難の謎解き、事件解決が本巻全体を通じるストーリィとなりますが、それと並行して3つの事件が雫と壮馬の元に持ち込まれるという構成。 御神体盗難なんて神社にとってはとんでもない話ですが、御神体を目にできるのも宮司だけという定めがあることから警察にも相談できないという、究極の危機。 雫と壮馬と二人で事件解決に奮闘するのかと思えば、何故かその度に雫のカレシとなった清宮聖哉(なんと人気アイドル)も行動を共にする、というフシギな展開。その辺りも本巻の面白さの一つです。 また、解決過程における心理的駆け引きも十分面白い。 ・「必勝祈願は誰のため?」:汐汲坂高校剣道部の部内試合、部長の等々力透と清宮の実力差は相当あった筈なのに、その勝負の結果は・・・。 ・「御朱印のお取り扱いは慎重に」:福印神社の巫女=坂下芽衣からの依頼。その背後に、小山田宮司の外国人に対する偏見が・・・。 ・「神前結婚式をなさるなら」:清宮の元カノである藤森美鈴から、兄と恋人が源神社に正式参拝するのを断って欲しいと、強い要求。一体、何故? ・「ご神体はこちらです」:事件の真相が明らかに・・・。 開帖/1.必勝祈願は誰のため?/2.御朱印のお取り扱いは慎重に/3.神前結婚式をなさるなら/4.ご神体はこちらです/閉帖 |
6. | |
「陽だまりに至る病」 ★★☆ |
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貧困問題をテーマにした「希望が死んだ夜」、子どもの虐待をテーマにした「あの子の殺人計画」に続く、神奈川県警本部の真壁巧警部補と多摩警察署生活安全課の仲田蛍巡査部長が協力して事件解決に取り組む、社会派ミステリ第3弾。 今回のテーマは“コロナと貧困”です。 小学五年生の上坂咲陽(さよ)、向かいのアパートに住む同級生の野原小夜子が、父親が仕事に出ていったきり帰ってこず困っているらしいことを知り、償いの気持ちと「困っているひとがいたらなんとかしてあげないといけない」と母親の言葉を思い出し、自分の家に誘います。 しかし、コロナ感染が広がり、友達とも接触しないようにと言い出した母親に小夜子のことを告げられず、そのまま自室に小夜子を匿うことになります。 一方、ラブホテルで起きた若い女性の殺人事件、小夜子の父親がその犯人ではないかという疑いを抱いたことによって、ますます咲陽は苦しい思いをすることになります。 それに対して小夜子、自分の家より余っ程居心地が良いとばかりに楽しんでいる? 小夜子の父親の行方を追う真壁は、咲陽が小夜子を匿っているのではないかという疑いを抱きますが・・・。 ラブホテルで死んでいた鈴木夏帆・21歳も小夜子も、貧困に苦しめられています。ただし、夏帆と小夜子ではその原因が異なりますが、それでも貧困の問題は共通です。 「咲陽の章」は咲陽の側から、「真壁の章」は捜査側から、そして「咲陽と真壁の章」は事件解決の章。 そして本作で一番注目したいのは、最後の「小夜子の章」。 事件渦中における小夜子自身の思いが語られます。それが彼女の本心かと思うとショックですが、それから後が良い。 小夜子と咲陽が2人だけで向かい合う場面は、事件とは別の、もう一つの謎解きですから。 なお、仲田蛍巡査部長、最初に登場しただけで、中々事件捜査には登場しません。もっと早く仲田が加わっていたら、こんなに長引くことなく事件は解決していただろうにと思わせる処が、仲田の存在感であり、魅力です。 真壁巧警部補と仲田蛍巡査部長、中々得難いコンビ。 本シリーズが今後も続くよう、祈っています。 咲陽の章/真壁の章/咲陽と真壁の章/小夜子の章 |
7. | |
「少女が最後に見た蛍」 ★★ |
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生活安全課の女性警官“仲田蛍”シリーズ第4弾。 毎回、私が楽しみにしているシリーズです。 女性警官というとすぐ思い浮かぶのは誉田哲也さんの<姫川玲子>ですが、本シリーズの<仲田蛍>、私は姫川玲子以上に好きかもしれません。 今回は短篇連作とあって、これまでの3作品とまた異なった構成あるかもしれないと楽しみ。 ・「十七歳の目撃」:高校の同級生が強盗を働いた現場を目撃した黒山弘明。弁護士志望であるにも関わらず彼が警察に口をつぐんでいる理由は、脅されたからだけなのか。仲田蛍、その推理力も刑事はだし。 ・「初恋の彼は、あの日あのとき」:小五の頃の仲田蛍を知ることのできる篇。仲田蛍が現在のようなキャラクターに転じるきっかけとなった逸話が語られます。 ・「言の葉」:元アイドルの国会議員事務所に腐った林檎を投げつけた中学生。犯人が分かっていながら何故、仲田蛍は問い詰めないのか。初めてコンビを組まされた刑事の国枝は、仲田蛍の行動に不審を抱く。 ・「生活安全課における仲田先輩の日常」:万引きの現行犯で捕まった中学生、万引きしたのは仲田蛍に再会したかったからと答えるが、本当なのか? 仲田蛍の洞察力が光る一篇。 ・「少女が最後に見た蛍」:仲田蛍を敬愛する後輩の聖澤真澄、蛍の顔色が悪いことを見て働き過ぎで倒れてしまうのではないかと心配。県警の刑事である真壁に協力を依頼します。 そんな折、ちょっとしたトラブルを起こした女性=来栖楓が仲田蛍の顔を見て驚愕。お互いに凝視し合う人にはどんな関係があったのか。 中学の時に出会った桐山蛍子(けいこ)と仲田蛍。蛍は来栖楓から酷いイジメを受けていた蛍子を何とか助けたいと思っていたが、結局中途半端に終わり、蛍子は自殺してしまった。 悔いを抱えたままの仲田蛍のため、真壁が見つけ出した事実は・・・・? この表題作が圧巻。仲田蛍は、高校時代から既に“仲田蛍”だった。仲田蛍が悔いとして抱える秘密を明らかにした一篇。ファンなら是非お読み逃しなく! 十七歳の目撃/初恋の彼は、あの日あのとき/言の葉/生活安全課における仲田先輩の日常/少女が最後に見た蛍 |