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「凍る草原に鐘は鳴る」 ★☆ 松本清張賞 | |
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松本清張賞受賞のファンタジー小説。 とは言っても、冒険や闘いといったものはなく、舞台や設定が現実社会と違うだけといった、珍しいファンタジー。 主人公のマーラは、遊牧民族<アゴール>の生き絵師。 “生き絵”とは部族が集まった宴等の際に、草原に立てた額縁の中で演手たちが芝居を演じるもの。生き絵師とはその脚本家であり演出家といった役割。 そのマーラを突然に怪異が襲います。それは、目の前の人や動物がきちんと見えなくなる、というもの。その怪異はマーラだけでなくアゴール全員、そして定住民族の<稲城民>にも及びます。 怪異以来、すべての事が変わってしまう。 目がきちんと見えなくなっては、今までどおり羊を追いながらの遊の暮らしは難しい。族長ザルグは、稲城の禾王の提案に応じ、街を築いて暮らす道を選びます。 しかしそこには、アゴール民族を支配下に入れ強大な王として君臨しようとする禾王の野心が蠢きます。 事情あって稲城の街にしばらく留まることになったマーラは、禾王によって宮廷を追放された奇術師の苟曙(こうしょ)と出会い、稲城の暮らしを体験することになります。 世界に怪異が起きた時、人は世界が元に戻ることを待ち続けるのか。それとも新しい世界に順応して生きていく道を選ぶのか。 本ストーリィは、人はこうした時、どういう選択をすべきなのかと語り掛けてきているように感じます。 その意味で本ストーリィには新鮮さを感じますが、もうひとつリアル感を味わえなかったところが少々残念。 その辺りは、今後の作品に期待したいと思います。 |