カレン・テイ・ヤマシタ作品のページ


Karen Tei Yamashita  1951年米国カリフォルニア州オークランドで日系三世として生まれる。ミネソタ州のカールトン・カレッジで英文学と日本文学を専攻。71年から1年半、日本文化と文学を学ぶために交換留学生として早稲田大学に留学。75年ブラジルの日系移民を研究するため奨学金でサンパウロに渡り10年間滞在。その間に結婚し、短編や戯曲を書き始める。1990年発表の「熱帯雨林の彼方へ」が全米での本格的デビュー作。現在カリフォルニア大学サンタクルーズ校創作科教授。

 


             

「熱帯雨林の彼方へ」 ★★★
 原題:"Through the Arc of the Rain Forest" 
       訳:風間賢二




1990年発表

2014年06月
新潮社刊
(2400円+税)

  


2014/08/02

  


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本書は、2012年新潮社のPR誌「波」にて瀧井朝世さんが偏愛本の一冊にして“オールタイムベスト”と紹介したことから、新潮社編集者の目に留まり復刊に至ったのだそうです。
どういう意味だか私はよく判らないのですが本書、
“南米マジック・リアリズム文学の大傑作”とのこと。

南米ブラジルを舞台に、多様な登場人物が集まってストーリィを織り成していきます。
まずは、子供の頃に遭った事故以来顔のすぐ前に回転する小さなボールを持つことになった日本人
カズマサ・イシマル。サンパウロに居住する従兄弟を頼ってブラジルへ。
(本書に登場する
「私」とは、何とそのボールなのです)
その頃アマゾンのジャングル奥地で
“マタカン”という天然のプラスチックが発見されます。その近くに住む老人マネは鳥の羽による安らぎを紹介して大評判。一方、足の不自由な少年に訪れた奇蹟の謝礼に裸足でマタカンへの巡礼行を果たした青年シコ・パコは、現代の<天使>として大評判になります。
そして若いブラジル人夫婦は伝書鳩を使っての商売が順調な滑り出し。さらに腕が三本ある白人男性のビジネスマンが登場するかと思えば、乳房が三つあるフランス女性の鳥類学者が登場するといった具合。

真に奇怪極まる奇想に満ちたストーリィなのですけれど、ブラジルのジャングルが舞台となればなんとなくそんなことがあっても奇怪ではないと、不思議に居心地が良いのです。
冒頭から、この先どんな展開へと進むのだろうかと、胸がワクワクして楽しい気分です。
しかし、登場人物たちは少しも変わらないにもかかわらずら、周囲の事情は次第に歪んでいきます。最終結末は少々切ない、と言わざるを得ません。
魔術世界のようなストーリィの向こう側には、素朴な生活と文化的生活との、個人の幸せと経済的成功との対比、そして豊かな自然と自然破壊との対立構図が見えてきます。
といって本書は決して文明批判小説ではありません。何が起きても不思議ない、枠に嵌らない世界の魅力を描き出したストーリィと言うべきでしょう。
是非このマジカルな魅力に触れてみて下さい。


第1部.事の始まり/第2部.発展途上の世界/第3部.さらなる発展/第4部.無垢の喪失/第5部.さらなる喪失/第6部.回帰

    


     

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