ソン・ウォンピョン作品のページ


孫元平  1979年韓国ソウル生、映画監督、シナリオ作家、小説家。西江大学にて社会学と哲学を学び、韓国映画アカデミー映画科で映画演出を専攻。2001年第6回シネ21映画評論賞、06年「瞬間を信じます」にて第3回科学技術創作文芸のシナリオノプシス部門を受賞。16年初の長編小説「アーモンド」にて第10回チャンビ青少年文学賞、17年「三十の反撃」にて第5回済州4・3平和文学賞を受賞。

 


             

「アーモンド」 ★★★      チャンビ青少年文学賞
 原題:"Almond" 
     訳:矢島暁子




2016年発表

2019年07月
祥伝社

(1600円+税)



2023/05/09



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主人公のソン・ユンジェは十六歳の高校生。生まれつき偏桃体(アーモンド)が小さく、喜怒哀楽といった感情を覚えることがない。そのためいつも無表情。
それでも祖母とシングルマザーの母親に守られて育ってきたが、ある日通り魔に襲われ、祖母は死に、母は植物状態となり、ひとりぼっちになってしまう。
保護してくれる家族を失い、ユンジェはいきなり大勢の中に放り出されることとなり、試練に向き合うこととなります。
しかし、元々感情のないユンジェは淡々と日々を過ごすだけ。

そんなユンジェが出会ったのは、転校生の
ゴニ(ユン・イス)。幼い時に両親の元から引き離され、不遇な育ち方をしたゴニは、ようやく実の父親に引き取られたものの、粗暴な少年になっていた。
感情のないユンジェと何かと感情を爆発させるドニ、対照的でありながら、皆から疎外されているという点で共通します。
ユンジェとドニ、2人が出会ったところから、徐々に2人に変化が生まれます。
それぞれハンデを負わされた少年2人の友情と成長物語。

感情というものは、人を人たらしめる重要な要素ですが、かえってそれにより苦悩やトラブルを引き起こされる、といった厄介なものなのかもしれません。
もし感情がなかったら、もっと正しい目を持つことができるのでしょうか。
ユンジェは、ドニの暴言に惑わされずドニの本質を見ようとします。一方、ドニは自分を色眼鏡で見ることのないユンジェに親近感を抱いたよう。

人を色眼鏡で見てしまう、見られてしまうことの危険性、怖さ、不幸を、まざまざと考えさせられた気分です。
最後はとんでもない展開が待ち構えていますが、感情を持たず無表情だったユンジェが、そうした行動を取るに至った、ということに驚きと感動を覚えます。

ユンジェという、障害はあっても真っ直ぐな性格をもち、そのとおり行動する少年のことがとても愛おしい。
そしてユンジェと彼を囲む人たちに、幸あれ、と祈りたくなります。 是非、お薦め。


プロローグ/第一部〜第四部/エピローグ

      


   

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