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1.消えた子供 2.終わりなき夜に少女は 3.われら闇より天を見る |
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「消えた子供-トールオークスの秘密-」 ★★☆ 原題:"TALL OAKS" 訳:峯村利哉 英国推理作家協会賞最優秀新人賞 |
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2018年10月
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小さな穏やかな町=トールオークスで、3歳の子供が消えるという事件が起きます。 母親ジェスはピエロの面をかぶった男が息子ハリーを家から攫って行ったと証言しますが、手がかりは全く掴めないまま。 ジェスが毎日のように町中を歩き回り、チラシ配りや聞き込みを続けていることから、町には不穏な空気が漂ったまま。 その一方、住民たちそれぞれのドラマ、彼らが抱えている秘密、苦痛等が明らかにされていきます。 副題の「トールオークスの秘密」とはそうした意味でしょう。 そもそも被害者の母親ジェスは夫マイケルとの間に大きな溝を抱えているらしい。高校生マニーは何故かギャングを気取ろうとしている。ジェスの叔母ヘンリエッタとロジャーの夫婦関係には何か亀裂が生じているらしい。巨漢ですが気の小さいジェリーは、脳の病気で死期近いうえに異常行動を続ける母親を抱えて苦労している。 そしてパティシエのフレンチ、自動車販売員のジャレッドは、人に言えない秘密を抱え込んでいるらしい。 消えた子供の事件を軸にしたミステリではありますが、それと同時にトールオークスという町の住人たちを描く物語にもなっています。 その点でアンダスン「ワインズバーグ・オハイオ」を思い出しますが、本作に登場する人物たちにはどこか愛嬌というか、可笑しみが感じられるところが面白い。 とくにマニー・ロメロ。メキシコ系だというのにマフィアを気取りますが、全然似合っていない上にヘマばかり。でも、親友エイブとの友情に篤いし、実はいい奴なのです。 一方、登場人物たちの夫、父親らはろくでなしばかりなのか。 最後、衝撃的で悲惨な事件の真相が明らかになりますが、その一方ではマニーやエイブ、ジェリーらの新しい出発が描かれます。 要は、どこにあっても不思議ない、ひとつの町、その町の住人たち大勢の物語なのです。 悲劇、喜劇、夫婦問題、家族問題、エトセトラ、あらゆるドラマが描きこまれている町を舞台にした群像劇。 読み応えたっぷりで、しかも面白い。これはお薦めです。 1.ピエロ/2.ピンストライプとシロアリ/3.タイガー/4.噂と腫瘍/5.ディスペアの町長/6.コツ/7.漸次撤退/8.演技/9.ソマリアのアリ/10.同じような灰色/11.最後のひとしずくまで/12.形成期/13.ハットに乗り込む/14.淫売とスカンク/15.居心地のいい闇/16.カモネギ/17.ファーストキス/18.田舎町という棺/19.容赦ない夏/20.燃焼/21.カーニバル/22.良い妻/23.乱暴なのは、なしで/24.婚礼/25.長い一日の終わり/26.カケス/27.針/28.プロム/29.始まり/30.終わり/31.強き者 |
2. | |
「終わりなき夜に少女は」 ★★ 原題:"All the Wicked Girls" 訳:鈴木恵 |
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2024年05月
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翻訳刊行としては3作目ですが、執筆順としては2作目。 1995年、米国アラバマ州の田舎町グレイス。 数年前、<鳥男>による連続少女誘拐事件が発生し、今も未解決のままであるその町で、一人の少女が「ごめんなさい」という書き置きを残して失踪してしまいます。 彼女はサマー・ライアン、15歳。双子の姉の方。 大人たちが懸命に行方を探しますが、見つからず。連続少女誘拐事件の再発なのか? ストーリーは大きく、2つのパターンを以て、交互に綴られて行きます。 ひとつは、サマー本人が第一人称で語る、失踪までのサマーの経緯。模範的な良い子という評判とは別の面が現れていきます。 もうひとつは、サマーの行方を追う現在ストーリー。 そして現在ストーリーも2つの流れに分けられます。 一方は、サマーとは対照的な性格で、不良少女といった風である双子の妹=レイン、そのレインの関心を惹こうとレインに協力するノア、その親友であるバーヴという高校生3人による探索ストーリー。 もう一方は、警察署署長であるブラックによる、連続殺人事件との関りも頭に入れながらの捜査ストーリー。 ミステリ&サスペンスという趣向であり、そのとおりの展開で進むのですが、本作の本質はミステリではない、と感じます。 本作から感じるのは、田舎町のどうしようもない閉塞感です。 とくにレイン、ノア、バーヴといった子ども世代に強く感じられます。 親たちが纏う、犯罪や暴力行為、酒といった問題。それらにノアたちが閉塞感や絶望感を抱くのも無理はない、と思わされます。 そもそも、3人の行動自体、親たちに任せておけない、信用できないという思いがあるのですから。 そして、その過程で、サマーや連続誘拐事件の被害者となった5人の少女たちの意外な面も浮かび上がります。その原因も、元をたどれば町の閉塞感にあるのではないか。 最後、ノアたちの前に少し道が開けたような印象を受けるのが救いです。 ある意味、「ワインズバーグ・オハイオ」らの作品に連なる、田舎町、そこに住む人々の物語ではなかったかと思うのです。 |
3. | |
「われら闇より天を見る」 ★★★ ゴールド・ダガー賞 原題:"We begin at the end" 訳:鈴木恵 |
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2022年08月
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30年前、一人の少女の死について責任を問われ、15歳で刑務所に収容、結果的に30年の刑期を終えたヴィンセント・キングがケープ・ヘイヴンの町に戻ってきます。 そのヴィンセントを喜んで迎えたのは、幼馴染かつ親友で、今は警察署長のウォーカー(ウォーク)ただ一人。 しかし、かつてヴィンと関わりのあった女性が殺害されるという新たな事件が発生。州警察はその現場にいたウォークを犯人として逮捕しますが、何故かヴィンは沈黙を通します。 そのため、ウォークは病の身にもかかわらず真相を突き止めるため、単身で捜査を進めるのですが・・・。 その一方、飲んだくれの母を抱え、幼い弟を守るため苦闘し続けているのが13歳の少女=ダッチェス。 周囲の理不尽に負けまいと、彼女が自分の心を奮い立たせるため口にするのが「あたしは無法者のダッチェス・デイ・ラドリー」という言葉。 ストーリィとしては過去と現在にまたがるミステリなのですが、本作品は大きく分けて2つの構造から成るストーリィと言って良い。 すなわち、一つはそれぞれの思いから事実を隠す、あるいは隠そうとしてきた大人たちの群像劇。 そしてもう一つは、ダッチェスを初めとする少年少女たちの群像劇です。 子どもの世界であっても、誠実な子がいる一方で、意地悪な子もいます。でも彼らの姿は単純です。 それに対し大人たちの世界は複雑で、善と悪が混沌としていると言っても良い。しかし、その煽りを受けて苦悶させられ続けているのがダッチェスとロビンの姉弟だとなれば、彼らは善人であろうと誠実だったと言えるのでしょうか。 最後に明らかになる真相は、ミステリという枠を超えて驚くべきもの、唖然とするばかり、と言う他ありません。 ダッチェスにとっては苦みの残る結末。でも、ダッチェスが“無法者”である限り、いずれ理不尽さに打ち克って強く生きて行ってくれるだろうという期待を抱きます。 圧巻の少女冒険遍歴&ミステリ。お薦めです! なお、原題は「終わりから始める」という意味。 1.無法者/2.大空/3.清算/4.愛惜 |