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●「斧」●
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サスペンス小説といっても、通常のサスペンスとは趣向が異なります。なにしろ、本書の主人公は、被害者でも探偵役でもなく、加害者そのものなのですから。 原題の“AX”とは「斧で切る」から転じて「クビにする」「解雇する」という意味があるとのこと。 主人公パーク・デヴォアは、製紙会社の主任だったがリストラにより失職中、しかも転職の目処も立たないという苦しい状況。そんな彼が職を得る手段として決意したことは、職を得るうえで自分のライバルになりそうな人物6人、そして自分が就く筈の職に現在ある相手を次々に殺していく、というもの。 あまりに自分勝手な考え方、と呆れてしまうような発想です。しかし、失業が長く続くと、真綿で首を締められるような圧迫感が生じてきます。夫婦関係だって、今までどおりには行かない。 デヴォアは、もうそれ以外の方法はない、自分及び家族を守る為には必然的な行為だと思い詰めていく、その狂気さには薄気味悪さを感じます。そして、それはリアル感にも繋がっています。 本書はそうした雰囲気を味わう作品、ある意味ではブラック・ユーモアとも言えます。 |