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Judith W. Taschler 1970年オーストリアのリンツ生、同ミュールフィアテルで育つ。外国での滞在や幾つかの職を経て大学に進学、ドイツ語圏文学と歴史を専攻。家族と共にインスブルック在住、国語教師として働く。2011年「Sommer wie Winter(夏も冬も)」にて作家デビューし、現在は専業作家。14年「国語教師」にて2014年度フリードリヒ・グラウザー賞(ドイツ推理作家協会賞)長編賞を受賞。 |
「国語教師」 ★★★ フリードリヒ・グラウザー賞 |
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2019年05月
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出会えたことは幸運、読めたことを幸せに思う傑作。 その驚きと興奮たるや、草原でのんびりしていたら、その下に壮大な地下都市が広がっているのを発見した、そんな気分です。 クサヴァー・ザントは作家。マティルダ・カミンスキは女子ギムナジウムの国語教師。共に54歳。 かつて2人は、大学で知り合ってから16年間にもわたり一緒に暮らす恋人同士だった。しかし、クサヴァーが突然アパートを出てセレブ令嬢と婚約発表、マティルダを一方的に捨てたという形で2人は別れていた。 それが、ティロル州の催す<創作ワークショップ>の企画で、偶然2人が再会することになります。 冒頭、ワークショップ前のメールのやりとり、単純にクサヴァーは再会を喜び、マティルダは彼が自分にした非道な振る舞いを辛辣に突き付けます。このメール部分、間を置かぬ2人のやり取りは、つい興奮させられてしまう程、本当に面白い。 次いで、2人の語り合いによるストーリィ展開へと進んでいきます。お互いの思い出、再会時の会話、そして2人がお互いの創作物語を相手に語った聞かせる、という構成。 その過程で、クサヴァーの辛い過去が明らかになります。それは誘拐だったのか、息子ヤーコプが1歳半の時に失踪したままになっているという出来事。 クサヴァーが語る話は、祖父リヒャルトが2人の女性の間で揺れたという物語。そしてマティルダの語る話は、その幼い頃から男をずっと監禁しているという物語。 一体、真実なのか創作なのか、思わずゾクゾクっとします。 それから後は、予想もできなかった展開へ・・・・。 ドイツ推理作家協会賞受賞作ですから、一応ミステリというジャンルに分類される作品かもしれませんが、そのストーリィ内容、クサヴァーとマティルダという元恋人2人の人生まで描き出す展開は、ミステリの域をはるかに凌駕しています。 そして、メール、語り、手紙といった道具立てによりストーリィを綴っていく構成は臨場感に溢れ、真に素晴らしい。 そして予想もしなかった真実、ストーリィの収め方の見事さ、完全に脱帽です。 最後、マティルダ、そしてクサヴァーの心情が、ストーリィから溢れ出すように伝わってきて、圧巻の一言。 是非、お薦め! |