|
|
「海を照らす光」 ★★★ |
|
|
第一次大戦が終結した後のオーストラリア、その南西端にある港町の沖合に浮かぶ孤島ヤヌス・ロック。そこには互いに愛し合う若い灯台守の夫婦だけが住んでいた。定期便は3ヶ月に一度、本土に戻れるのは任期明けの3年に一度という過酷な勤務。 灯台守であるトム・シェアボーンの妻イザベルは三度目の流産をしたばかりで、悲しみのどん底にいた。ちょうどその時、2人の耳に赤ん坊の泣き声が聞こえてきます。島にボートが打ちつけられ、父親らしい男は既に息絶えていたが、赤ん坊はまだ生きていた。 夫であるトムが諌めたにもかかわらず、イザベルは赤ん坊を離そうとせず、やがて2人は赤ん坊をルーシーと名付け、自分たちの子供として育て始めます。 しかし、任期明けの休暇で本土に戻った2人は、赤ん坊の母親が生存していて今なお赤ん坊の生存を信じ探していることを知って動揺します。とくにトムは事実を隠して他人を悲しむままにしていることにつき苦しみ続けます。 そしてついに秘密が暴かれる時が来る・・・・。 主要登場人物の誰一人として、善良でない人間はいません。だからこそ、皆がそれぞれに苦しむのです。そのことは、未だ4歳に満たないルーシーも例外ではありません。 心の内を振るわせられる衝撃と、身を割かれるような辛さをもたらす長編作品。 何が正しいのか、だれもその答えなど持ち合わせません。だからこそ苦しむ。そんな苦しみの中で出来ることと言えば、目の前にいる自分が大切に思っている人間を守ろうとするだけなのです。 数奇な運命が、本来それぞれ善良な人間であるにもかかわらず、善だけでなく悪の部分を引き出してしまいます。 生と死、善と悪、愛情と我欲、様々な感情が渦巻く圧倒的なストーリィに、読み手でさえも苦しみを覚え、その果てはただ安らかな結末がもたらされることを祈るばかりです。 心を震わせる傑作と言って誤りない一冊、是非お薦めです! |