エドワード・ラザファード作品のページ


Edward Rutherfurd 英国ソールズベリー生。ケンブリッジ大学・米スタンフォード大学で学ぶ。1987年、故郷ソールズベリーを舞台に先史時代から現代まで連綿と続く家系を大河ドラマ形式で描いた長篇小説「セーラム」にて、文壇デビュー。91年にはロシアを舞台にした「ルスカ」、2000年には英国南部の広大な森林地帯ニュー・フォレストを舞台にした「フォレスト」を発表。

 


         

●「ロンドン(上下)」● ★★
 原題:"LONDON"  
   訳:鈴木主税/桃井緑美子





 

1997年発表

2001年08月
集英社刊
上下2冊
(各5000円+税)

 

2001/12/31

ロンドンを舞台に、紀元前のケルト人時代から始まり、現代にまで至るという、長大な歴史絵巻というべき小説。21章=21の物語から、本書は構成されています。
ケルト人時代に始まり、カエサルのイングランド遠征、ノルマン人の征服王ウィリアム一世時代と、次々に時代は進んでいきます。そして、各物語の登場人物はずっと同じ家系に属し、時代を経るに従い次第に家系の数は増えていく、という設定。
ただし、常に物語の主要登場人物であるといっても、必ずしも歴史における主人公ということではありません。性格も気弱だったり、不道徳な人間だったり様々。また、身分・境遇等の有為転変も様々です。
したがって、歴史物語における主人公というより、歴史の中にまさに在った人物たち、と解すべきでしょう。

この長大な物語が面白くなるのは、時代を重ね、歴史自体が面白くなり、同時に家系が増え互いに交錯するようになってからです。
その初めは第5章「ロンドン塔」の辺りから。
そして、「売春宿」「ロンドン橋」にてちょっとしたラブ・ストーリィを味わい、カトリックとプロテスタントが英国内で激突する下巻「グローブ座」「神の火」「ロンドン大火」辺りで、面白さは最高潮に達します。
この辺りは、独立した中篇小説として読んでも、充分にスリリングな面白さが味わえる部分です。

第11章「グローブ座」では勿論、シェイクスピアらが登場。
他にもジェフリー・チョーサー(「カンタベリー物語」)サミュエル・ピープス(「サミュエル・ピープスの日記」)ヘンリー八世からジェイムズ二世に至る歴代の英国王等、実在人物の登場にも事欠きません。
そして、「ラヴェンダー・ヒル」・「クリスタル・パレス」にて描かれる薄気味悪い商売は、まさにディケンズ「我らが共通の友のストーリィそのままです。

歴史というと、とかく出来事だけを捉えがちですが、こうした小説で読むと、歴史のそれぞれの中に人間ドラマがあったことをつくづくと感じます。また、架空の主人公たちに混じり、実在の人物が登場すると、あたかもこれらのストーリィが歴史的事実としてあったかのように感じるのですから、面白いものです。
「婦人参政権」・「ロンドン大空襲」は現代史という範疇ですから、それまでの章とはまた違った感動がありました。
古くからイングランドの中心であり、産業革命発端の地として、常に混乱と雑踏の中心であった都市であったからこそ、“ロンドン”という都市の面白さがあります。

歴史の醍醐味と、様々の時代における歴史ストーリィの面白さを堪能できる作品。ただし、極めて分厚い著書ですから、興味を惹かれない部分は適当に飛ばしながら読むのも良いでしょう。
私がお薦めするのは下記のうち青字の章です。

【上巻】
1.河/2.ロンディニウム/3.十字架/4.征服者/
5.ロンドン塔/6.聖人/7.市長/8.売春宿9.ロンドン橋
【下巻】
10.ハンプトン・コード/11.グローブ座/12.神の火/13.ロンドン大火/14.セント・ポール大聖堂/15.ジン横丁/16.ラヴェンダー・ヒル/17.クリスタル・パレス/18.カティ・サーク号/19.婦人参政権/20.ロンドン大空襲/21.河

  


 

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