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「グレゴワールと老書店主」 ★★ 原題:"Gregoire et le vieux libraire" 訳:藤田真利子 |
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2021年02月
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8割が合格するというバカロレア(高等学校教育終了を認証する国家試験)に落第してしまった落ちこぼれ青年のグレゴワール・ジェラン18歳は、母親のコネで市役所に就職、老人ホーム<ブルーエ>にて介護職員として働くことになります。 そこでグレゴワールは、パーキンソン病を発症して書店を閉め、施設に入所した元書店主=ムシュー・ピキエに出会います。 自部屋の壁4面をすべて本棚とし、3千冊の本に囲まれて暮らしながらも、病気のため手が震えて自分ではもう本が読めないのだという。 そこでグレグワールは、今まで本をろくに読んだことがないというのに、毎日一時間ムシュー・ピキエのために本を朗読してあげますと提案する。そうすれば自分は厨房でのキツイ仕事から逃れられるし、ピキエはもう一度読書を楽しめるからと。 単なる仕事逃れから始めた朗読でしたが、思いがけず朗読はグレグワールに新しい世界を開いていきます。 そしてそれは、グレゴワールだけではなく、ピキエにおいても諦めていた冒険に挑むチャンスをもたらしていく。 与えられる者と与えられる者のストーリィということではなく、相互に与え合うストーリィになっているところが本作の良さ。 何しろ、老人ホームに入居していた老人たちが生き生きと喜びの声を上げる、という場面もあるのですから。 そして終盤、グレゴワールは、ピキエから自分の果たせなかった夢を託されます。 それは、老人ホームという狭い世界からさらに広い世界へと、グレゴワールの背中を押すものでした。 その踏み台になったのが、朗読であり、本であったというのが、読書好きにとっては嬉しいこと。 |