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Valerie Perrin 1967年フランス生、作家・脚本家。映画「男と女」の監督クロード・ルルーシュのパートナー。2015年作家デビュー。第二長篇である「あなたを想う花」はフランスで多数の文学賞を受賞し、ベストセラー。 |
「あなたを想う花」 ★★☆ |
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2023年04月
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ブルゴーニュの小さな町の墓地管理人である女性、ヴィオレット・トゥ−サン。 墓地管理人という仕事は一般的に嫌がられそうな気がしますが、彼女は、訪れる人のない墓もきれいに手入れし、また墓を訪れた人を居心地の良い管理人小屋で迎え、その話に耳を傾ける。 質素な生活ながら、彼女は墓地管理人という仕事を愛し、亡くなった人にも墓参りに訪れる人に対しても誠実を尽くしています。 そうしたヴィオレットは、何と不幸な生い立ちの元に育ち、不実な夫へ長年に亘り奉仕するように生きていたことか。 それでも誰も恨まず、自分のできることを精一杯して生き、娘のレオニーヌをどれだけ愛したことか。それなのに・・・。 ストーリィは、ヴィオレットの現在と、彼女のこれまでの人生を並行して描きながら、さらに並行して様々な人物の人生の一片を彼ら彼女らの視点から(主人公として)語らせるという、相当に複層的な構成。 上巻を読んでいた時は、上下2冊に及ぶようなストーリィなのだろうかと疑問に思っていたのですが、下巻に至ると思わぬミステリ要素が加わり、ヴィオレットに不実で自分勝手な夫だったフィリップの意外な内面が明らかになっていくのに伴い、面白さが格段に増していきます。 ヴィオレットの人生は果たして幸せだと言えるのでしょうか。不幸もありましたが、誰に対しても誠実に生きてきた彼女の周りには、いつの間にか寄り添ってくれる人たちがいた、と感じます。それは、夫フィリップやその両親らに比べると対照的です、何をもって幸せと言えるかを含めて。 冒頭、ジュリアンという男性が、亡母の遺言によりその遺灰を夫ではない男性の墓に納めるためヴィオレットの元を訪ねてくるところから、ヴィオレットにとって新たな時計が刻み始めます。 ジュリアンの母イレーヌとガブリエル・ブリュダンという弁護士の長年に亘る不倫愛を、イレーヌが遺した日記をもって語られる部分、それだけでも充分に読み応えのある恋愛譚です。 すべての謎、真相が明らかになった時、ヴィオレットには新たな人生が幕を開けるのでしょうか。 彼女の娘レオニーヌもきっとそれを望んでいるに違いないと思いた気持ちです。 慎ましく生き、強い魂を持った女性、ヴィオレットの人生に魅了されるストーリィです。お薦め。 ※スケールの違いから比べるのはどうかと思いますが、ヴィオレットには、ロマン・ロラン「魅せられたる魂」のアンネット・リヴィエールをふと思い出させられる処があります。 |