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Paola Peretti 1986年イタリア生。大学では哲学と文学を専攻。15歳の時に徐々に視力が失われていく難病「スターガルト病(若年性黄斑変性)」と診断される。目が見えるうちに物語を書きたいという夢を実現するためにライティングスクールに通い始める。2018年「桜の木の見える場所」にて作家デビュー。 |
「桜の木の見える場所」 ★★ |
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2019年11月
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10歳になる少女のマファルダは、スターガルト病(若年性黄斑変症)という難病の結果、網膜の損傷により視力低下、半年くらい後には失明に至るという宣告を受けている。 光を失い、暗闇に閉ざされる、どんなに不安で恐ろしいことでしょうか。この過酷な現実からどこかへ逃げ出したいと彼女が思うのも当然のこと。 そのマファルダ、自分の視力の変化を、学校にある桜の木が見える距離で測っています。 そしてその桜の木こそ、マファルダが逃げ出したいと思っている場所。父親の愛読書であるイタロ・カルヴィーノ「木のぼり男爵」の主人公コジモと同じように、木の上で暮らしもう地上には降りたくないと願っています。 でも、そんなマファルダを強く支えてくれる人たちがいます。 学校の用務員でルーマニア人女性のエステッラは、事実をまっすぐ直視したうえでやりたいことのリストを作ってみたら、と勧めてくれます。 また、従兄弟アンドレアの彼女であるラヴィーナは「どんなことがあってもあきらめちゃダメ」と強く励ましてくれます。 そして学校で元気者のフィリッポは、マファルダの視力低下を知ったうえで、できることを一緒にしようと誘ってくれます。 不安に揺れ、自分の殻の中に閉じこもろうとしがちなマファルダを、自分たちのできる範囲で支えようとする彼らの友情が素晴らしい、そして何と愛おしいことか。 それに対し、マファルダの両親は、娘のことを心配するあまり、かえってマファルダの気持ちを理解するのが難しくなっている様子です。 本物語は、実際に同じ難病を宣告され、失明の恐怖を抱えた作者の実体験に基づいた物語とのこと。 目の中から明かりが完全に消えてしまう前に「少なくとも一冊は本を書く」という夢を実現するためライティングスクールにも通ったうえでのデビュー作だそうです。 失明の恐怖、周囲の人の励まし、素朴で静かな感動を覚える作品です。お薦め。 |