ダニエル・ペナック作品のページ


Daniel PENNAC 1944年モロッコのカサブランカ生、フランスの作家。児童文学から大人向け作品まで幅広く活躍中。85年「人喰い鬼のお愉しみ」がベストセラーとなり、一躍人気作家となる。


1.人喰い鬼のお愉しみ

2.片目のオオカミ

3.カモ少年と謎のペンフレンド

 


   

1.

●「人喰い鬼のお愉しみ」● 
 
原題:"Au bonheur des ogres"     訳:中条昇平

    

     
1985年発表

1995年03月
白水社刊

(2524円+税)

 

2003/10/02

この作品が一大ベストセラーとなり、作者ペナックは一躍人気作家になった、続編も刊行されたという、“コミック・ミステリ”とのことですが、正直なところ、首を傾げてしまいます。
フランス文学を読んでいると、時折、笑いの感覚が自分のそれとはズレているのではないかと感じるのですが、本作品もまさにそんな一冊。

主人公はバンジャマン・マロセーヌ、百貨店の品質管理係です。といっても、担当名は肩書だけであり、実際は顧客の苦情を受けて、店内での叱られ役を一手に引き受け、顧客の同情をかって苦情を諦めさせてしまう、という役回り。
そのうえ、母親が男と出奔しては産んだ、腹違いの妹弟5人の面倒を一人で引き受けているという涙ぐましい青年。
そんな彼が、勤める百貨店店内での連続爆破事件の有力容疑者とされてしまうのですから、まさにマロセーヌは“生贄の山羊”と言うにふさわしい。そして、まさか爆破事件の理由がそれに関連していたとは。

本書の面白さは、ストーリィ展開の面白さより、むしろ言葉の端々、登場人物の行動ひとつずつ、ブラックユーモアと言うべきやりとり、そんな所にあるようです。
マロセーヌが右往左往する一方において、妹、弟たちは全く個性的かつ意気盛んで、愛すべき存在。その点も本作品の特徴でしょう。
マロセーヌの涙ぐましい青春物語であり、家族小説であり、同時にミステリという作品。しかし、正直な感想としては今ひとつ。

    

2.

●「片目のオオカミ」● ★★☆
 
原題:"L'CEIL DU LOUP"      訳:末松氷海子

  

   
1992年発表

1999年09月
白水社刊

(1500円+税)

 

2003/10/02

一応、児童向け小説ですが、内容はかなり深遠なものを含んでおり、むしろ大人こそ味わうことができる、と思います。

動物園にいる青い目のオオカミは、妹を助けるため人間に捕まった時に片目となり、それ以来孤高の姿を守っています。そんなオオカミの前に、毎日ずっと立ち尽くす一人の少年。
いつしか少年も片目をつぶり、片目同士で見つめ合ったオオカミと少年の間に、言葉にはできない会話が始まります。

まずオオカミがこれまでを語り、次いでアフリカという名の少年が自分を語るという展開ですが、物語自体はとても単純なもの。
しかし、孤高、常に仲間が集まるという行動の違いがあっても、オオカミと少年の2人には、逞しい生命力という共通性が感じられます。
そして物語を相互に語り終えた時、オオカミに少年への強い信頼が生まれ、オオカミの目に新しい世界が開きます。
ストーリィ云々ではなく、強い意志、相互への信頼感がそこに感じられ、思わず感動を覚えます。
たとえ逆境にあっても、大切なものを失わなければ、信頼、そして強い心を失わなければ、生きる価値はある。そんなことを訴える作品と感じます。
力強い感動を覚える、価値ある一冊。

オオカミと少年の出会い/オオカミの目/人間の目/ほかの世界

   

3.

●「カモ少年と謎のペンフレンド」● ★★☆
 原題:"Kamo L'agence Babel"      訳:中井珠子

  

   
1992年発表

2002年05月
白水社刊

(1400円+税)

 

2003/09/23

何という奇天烈な展開、何という仕掛けでしょうか。
中盤、ネートチカ・ネズナーノワという名前が登場するに至ってすべて判りましたが、思わず笑い出してしまいました。
その少し前から、何かひっかかるんだよなぁと思っていたのですが、そうかァそういうことだったのか。 

本書は、少年少女向けの作品。
カモ少年の母親は、ロシア系移民で10ヵ国語以上を使いこなすバイリンガル。それなのに、カモは英語の成績がからっきしダメ。業を煮やした母親はカモ少年と賭けをし、負けたカモはイギリスの女の子と文通をする羽目になります。結局すっかり文通に夢中になったカモは、その甲斐あって英語力が急速に上昇する、というストーリィ。
しかし、文通相手のキャサリーン・アーンショーというペンフレンド、何か変なんだよなぁ。カモの親友である“ぼく”は、不気味なものを感じて、カモの文通相手を調べ始めます。
その結果は、驚いたことに....。その事実に“ぼくは”震え上がるのですが、カモはキャサリーンにすっかり夢中。いったいカモは大丈夫なのか? そんなミステリ的面白さもあります。
文学好きなら、きっと転げまわって喜びたくなる一冊。
子供たちを本好きにするには、こんな本が一番でしょう。

※「カモ少年と謎のペンフレンド」、「カモの逃亡」、「カモとぼく」、「カモと世紀の名案」と、カモ少年ものはミステリータッチ4部作。

  


   

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