マシュー・パール作品のページ


Matthew Pearl 1997年米国ハーヴァード大学英米文学科を首席で卒業。98年研究成果を評価され米・ダンテ協会からダンテ賞を受賞。2000年イェール大学ロースクール卒、現在は母校ハーヴァードでダンテを講じている。

 


  

●「ダンテ・クラブ」● ★
 
原題:"THE DANTE CLUB"  訳:鈴木恵




2003年発表

2004年08月
新潮社刊

(2400円+税)

2007年05月
新潮文庫化

  

2004/11/28

南北戦争直後、1865年のボストンが舞台。
国民的詩人ロングフェローを中心とする文壇の重鎮たちが、アメリカで初となるダンテ「神曲」の訳本を出版しようと、翻訳作業に勤しんでいます。そのために結成されたのが“ダンテ・クラブ”
しかし、ハーヴァード大学理事会の保守的勢力は、「神曲」を冒涜的な書物として、それを妨げようとする。
そんな状況下、市内で残酷な殺人事件が連続して発生します。そのやり方が「神曲」の「地獄篇」を模倣していることに気付いたのはダンテ・クラブの面々。このままでは「神曲」が葬られかねないと危惧した彼らは自分たちで犯人を突き止めようと探索に乗り出す、というストーリィ。

ダンテ・クラブもそのメンバーも実在であり、歴史上の事柄にミステリを絡ませた歴史・文学ミステリ。
ただこの大長篇、宣伝文句が立派な割りにかなり読みにくい。読み始めてすぐ放り出したくなったら、初めの1/3 位はえいやっと読み飛ばしてしまいましょう。それを過ぎると、全体像が見えてきて読み易くなります。
本作品のミソは、ストーリィの中でダンテ「神曲」の内容がそれとなく紹介されている点にあります。「神曲」を読んでいなくてもサワリを知ることが出来る、興味が起きれば「神曲」を読み出す契機ともなる、そんな含みがあるのでしょう。
もうひとつ興味惹かれるのは、ニュー・イングランドで初めて警察に採用された黒人混血の巡査ニコラス・レイの存在。誠実で明晰なレイは主要人物の中で唯一架空の人物ですが、なかなか魅力があります。活躍の場がいまいち少ないのが勿体ない。

「神曲」との関わり等相応の読み応えがありますが、読むにはシンドイところもあり、ちょっとお薦めしにくい作品です。
 

〔参考メモ〕
○ダンテ・アリギエーリ 1265〜1321
 イタリア・フィレンツェ生まれの詩人。「神曲」「新生」の作品、ベアトリーチェ(ダンテ9歳の時に出会う)へ永遠の愛を捧げたことで有名。
○「神曲」
 1307年頃執筆が開始され、死の直前に完成した大叙事詩。
 地獄・煉獄(天国に直ぐ行けない霊魂が浄めを受ける世界)・天国を巡る空想の旅を描いたもので、「地獄篇」「煉獄篇」「天国篇」の3篇から成る。地獄と煉獄の案内手は古代ローマの詩人ウェルギリウス、天国の案内手は永遠の恋人であるベアトリーチェ。
○ヘンリー・ワドワース・ロングフェロー 1807〜82
 アメリカの国民的詩人。ダンテ「神曲」の翻訳を行った(全3巻 1865〜67)。

 


   

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