パトリック・ネス作品のページ


Patrick Ness 1971年米国バージニア州生、南カリフォルニア大学卒。99年渡英。YA向け3部作“Chaos Walking Trilogy”シリーズの第3巻でカーネギー賞を受賞。また、シヴォーン・ダウド原案による作品「怪物はささやく」にて2012年カーネギー賞およびケイト・グリーナウェイ賞、YA向け<混沌の叫び>三部作の第一部「心のナイフ」にてガーディアン賞およびジェイムズ・ティプトリー・ジュニア賞、ブックトラスト・ティーンエイジ賞、第二部「問う者、答える者」にてコスタ賞児童書部門、第三部「人という怪物」にてカーネギー賞・ケイト・グリーナウェイ賞を受賞。

 
1.
怪物はささやく

2.
心のナイフ−混沌(カオス)の叫び三部作 第1部−

3.
問う者、答える者−混沌(カオス)の叫び三部作 第2部−

4.人という怪物−混沌(カオス)の叫び三部作 第3部−

 


                

1.

●「怪物はささやく」● ★★★     カーネギー賞、ケイト・グリーナウェイ賞
 
原題:"A Monster Calls"   原案:シヴォーン・ダウド   訳:池田真紀子


怪物はささやく画像

2011年発表

2011年11月
あすなろ書房

(1600円+税)

2017年05月
創元推理文庫化

  

2012/07/31

  

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両親が離婚して母親と2人暮らしの少年=コナー・オマリーの元を、ある夜イチイの木の姿をした怪物が訪れます。
怪物は、これから訪れる度に3つの物語をコナーに語って聞かせる。そしてその後は、少年が4つめの物語を話さなくてはならないと言う。
一方、コナーは学校で、優等生とそのとりまきからひどいイジメを受けていた。幼馴染の少女
リリーのみがコナーのことを心配していますが、コナーは自分の母親のことを同級生に話してしまったリリーのことを許していなかった。
 
題名と紹介文からはホラー小説のような印象を受けますが、内容はまるで大違い。
病気の母親を気遣い、学校では孤独とイジメに耐える13歳の少年の魂の救済を描いたストーリィ。
怪物は、少年が自ら呼んだものだという。その秘密はいったいどこにあるのか。
また、怪物が語る3つの物語もどこに意味があるのか、正直なところ判り難いです。それらがすべて繋がって読者の前に明らかになるのは、終盤に至ってから。
様々な思いを自分の胸の内に閉じ込めていた13歳の少年の、その狂おしい胸の内が怪物のようだったとも、ついに爆発させた怒りが怪物のようだとも言えますが、要は得体のしれない感情こそ怪物であるということなのかもしれません。
コナーが一人抱えていた秘密が明らかになった時、その恐怖、苦しさに圧倒されます。どれ程苦しいことであったことかと。
そのコナーが救済されるのは、隠してきた思いをついに口に出すことによって。読み手もまたコナーと共に救われた気がします。

 
原案者:Siobhan Dowd 1960年英国ロンドン生、オックスフォード大学卒。デビュー作“A Swift Pure Cry”にてブランフォード・ボウズ賞を受賞。2007年逝去。遺作が死後刊行され、「ボグ・チャイルド」にて2009年カーネギー賞を受賞。

                   

2.

●「心のナイフ−混沌(カオス)の叫び1−」● ★★  訳:金原瑞人・樋渡正人
 
原題:"The Knife of Never Letting Go(CHAOS WALKING TRILOGY#1)" 
               ガーディアン賞、ブックトラスト・ティーンエイジ賞

  
心のナイフ画像
 
2008年発表

2012年05月
東京創元社刊

上下
(各1900円+税)

  

2012/08/11

  

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<混沌の叫び三部作>第1弾という作品。
主人公の
トッド・ヒューイットは、殖民惑星の町プレンティスタウンで暮らしている13歳。この町でたった一人の子供だが、間もなく大人となる時期を迎える。
かつて先住民スパクルと争い打倒したが、スパクルが撒いた細菌の所為で男性半分と女性全員が死に、さらに頭に浮かぶ考えがノイズとして漏れ出し、皆に聞こえてしまうという事態になっている。おかげでトムの飼い犬であるマンチーまで言葉をしゃべるという始末。
しかし、ある出来事に遭遇したことからトッドは、養い親に急かされ理由も分からないまま町を逃げ出すことになります。そしてトッドが沼地で出会ったのは、何と女の子。
追いかけてくる町の首長たちから、女の子と共に逃走を続けるトッド。何故トッドは逃げなくてはならないのか。プレンティスタウンが隠してきた秘密とは?
トッドと少女
ヴァイオラは逃げ通すことができるのか。そして2人を待ち構えている運命は?

息もつかせぬ展開に加え、謎がさらに謎を呼ぶストーリィ。
表題にある“ナイフ”がどういう意味を持っているのかというと、そのナイフをトッドがどう使うのかが本ストーリィの鍵となっています。
また、トッドを執拗に追う
司祭アーロンの目的は何なのか?も、もう一つの鍵となっています。
さて、主人公2人、逃げ切れると思ったのですが・・・・。
本物語、この後どうストーリィは展開していくのか。これはもう、読むしかありません。

             

3.

「問う者、答える者−混沌(カオス)の叫び2− ★★☆ 訳:金原瑞人・樋渡正人
 
原題:"The Ask and the Answer(CHAOS WALKING TRILOGY#2)"  コスタ賞児童書部門

  
問う者、答える者画像
 
2009年発表

2012年11月
東京創元社刊

上下
(各1900円+税)

    

2013/08/27

  

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<混沌の叫び三部作>第2部
前作の第1部ではどういうストーリィになるのか全く予想付かずという感じで、面白い物語なのかどうか少々迷うところもあったのですが、この第2部は迷うことなくとても面白い!と断言できます。
ひたすら逃げ続けてきた
トッドヴァイオラは、やっとたどり着いたヘイヴンでついに「総統」と名乗り始めたプレンティス首長の手に落ちます。
それから紆余曲折を得て、トッドはプレンティス総統から指示されるまま、その息子の
ディヴィと共に先住民スパクルに対する強制労働の番人を務めさせられることになります。一方ヴァイオラは、プレンティス総統に対抗して反政府テロ運動を繰り広げる女性=ミストレル・コイル率いるアンサー部隊に加わることとなります。
この世界で唯一信じられるのはお互いのみという思いを共有するトッドとヴァイオラでしたが、トッドを懐柔しようとする総統、ヴァイオラを懐柔しようとするコイル、果たして正義はどちらにあるのか。あるいは総統、コイルともに正義はないのか。
まるで予想がつかない状況の中でストーリィはスピーディに一転二転していきます。まさに息をつかせぬ緊迫感、何も信じられない状況の中で、トッド、ヴァイオラは一歩二歩と追い込まれていきます。
その面白さと言ったら、格別のものあり。

なお表題は、非政府組織の
アンサー部隊(答える者)と、それに対抗するためプレンティス総統が立ち上げたアスク部隊(問う者)を並べたてたものでしょう。
第三部ではどのような展開が待つのか。予想がまるでつかない以上、読むほかない、でしょう。

                 

4.

「人という怪物−混沌(カオス)の叫び3− ★★☆ 訳:金原瑞人・樋渡正人
 
原題:"Monsters of Men(CHAOS WALKING TRILOGY#3)"  
               カーネギー賞、ケイト・グリーナウェイ賞

  
人という怪物画像
 
2010年発表

2013年09月
東京創元社刊

上下
(各2300円+税)

    

2013/10/12

   

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<混沌の叫び三部作>第3部
先住民スパクルが大規模な反乱を起し、
プレンティス総統率いる軍隊と壮絶な戦闘を繰り広げます。
言葉を持たず、牛馬程度の知能しかないと人間が蔑視していたスパクルのどこに一体、組織的な半乱行動、攻撃を敢行する程の力が潜んでいたのか。ここにきて人類側が優勢とはとても言えない状況に至ります。
そんな中移住船団の偵察隊として到着したのが、ヴァイオラもよく知る
シモーヌブラッドリーの2人。
スパクルの苛烈な攻撃に晒され危機的な状況だというのにプレンティス総統とミストレル・コイルの2人は騙し合いによる主導権争いを一向に止めようとしない。ヴァイオラと今やプレンティス総統から息子扱いされているトッドの2人は、どう行動しようとするのか。シモーヌとブラッドリーの本来第三者であった筈の2人はどちらに組するのか、スパクルに対する行動をどう決めるのか。そしてまた、スパクルの指導者である
スカイ、トッドに個人的恨みを深くするスパクルの一人=リターンこと1017はどう行動しようとするのか。先の展開は全く予想もつかず、混乱と苦悩ばかりが交錯するかのようです。
結局最後は、ヴァオイラとトッド2人の選択と行動が全てを終結へと導いていきます。しかしそれは容易いものではなく、ヴァイオラとトッド、各々2人が目の前に立ち塞がった苦悩を乗り越えてこそのこと。

全く人間というのは複雑で厄介なものです。人の為と言いつつ、いつしか自分の為、自分の思い込みによる正義へと迷い込んでいきます。プレンティス総統とミストレイル・コイル、さらにはスパクルの1017も同様な存在といって過言ではありません。
人間は何故こうまで“怪物”のようになれるのか。
2人間の信頼と、自分の為ではなく各々相手の為にという強い思い、諦めない努力が、徐々に道を切り拓いていきます。
少年少女のSF的冒険小説という枠を超え、新世界を創り上げるための過酷な2人の試練・冒険&建国ドラマ、という風です。
<カオスの叫び・三部作>各巻で趣向を変えながら、壮大な人類ドラマという風格で読み応えたっぷり、下巻に入ってからはもう一瞬も目を逸らすことができない、といった具合です。

本書最後に置かれた
付録短篇「新世界」は、ヴァイオラが両親と共に先陣を切る上陸班に選ばれ、偵察機事故で墜落、ヴァイオラが一人でこの地に足を降ろすに至った経緯を描いた篇。
この付録短篇に嵌まると、本物語の最初から再び読み返したくなるといった困ったことになります。(苦笑)

      


         

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