最初はそんなに面白いと思えなかったものが、読み進む内にジワジワとその面白さが効いて来る。
そんな一筋縄ではいかないユーモアがいかにも英国流。
主人公は、68歳になってもまだなお現役バリスター(法廷弁護士)のホレス・ランポール。
本書はそのバリスター=ランポールが活躍する、滲み出るような英国風ユーモアにちょっぴりミステリ味を加えた法廷もの連作短篇集。
このランポール、決して格好いい弁護士ではありません。
服装はといえばヨレヨレだし、金にならないのに刑事事件好き。おかげで長年弁護士をしているというのに勅撰弁護士の栄誉も受けられず、そのうえ最古参だというのに所属弁護士事務の所長の座を後輩に奪われてしまう。また、前所長の娘である妻ヒルダに<絶対服従のお方>という称号を奉っている、という人物。
おまけに起死回生の一手で逆転勝訴を得ることもあれば、依頼人の思いがけない裏切りで敗訴に甘んじることもある。
それでも常々ワーズワース等の詩を引用して周囲を困惑させつつ自らは困難にも動じないといった、味わいある人物なのです。
ランポールという主人公も魅力なのですが、英国独特な裁判制度の面白さもまた、本シリーズの魅力のひとつ。
何たって法廷では、法曹家たちがガウンにカツラという服装で裁判を競うのですから。
また、英国の弁護士にはソリシター(事務弁護士)と上記バリスターという2種類があって、訴訟手続を代行するソリシターの依頼を受けて法廷における弁護活動をするのだとか。
その刑事事件法廷でも、ふたを開ると訴追側と弁護側が同じ事務所に所属する弁護士だったりするのですから、??と思うことも度々。
ですから本書に描かれる法廷での様子は、まるでお互いにゲームの勝負を競っているような雰囲気なのです。
ランポール自身、反対尋問する時の快感が捨てられないというのですから、正義は二の次なのかも。(笑)
悪党一家にいつも無罪を勝ち取ってくれる弁護士と頼りにされているところは釈然としませんが、的を外さない推理力と大胆な行動で鮮やかに裁判に勝ってみせるところは颯爽たるものです。
そんなランポールの強さを支えているのは、「絶対に有罪を認めるな!」という信条。だからまた逆転も有り得るという次第。
まさに「ランポールの狡猾さを侮るなかれ」、それこそ本書の面白さ、魅力の原点です。
ランポールと跡継ぎたち/ランポールとヒッピーたち/ランポールと下院議員/ランポールと人妻/ランポールと学識深き同僚たち/ランポールと闇の紳士たち
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