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Fiona McFarlane 1978年生、オーストラリア・シドニー出身。シドニ―大学で英文学を専攻、ケンブリッジ大学で文学博士号を取得。また、テキサス大学オースティン校ミッチェナー・センターで学ぶ。2013年発表の「夜が来ると」にてニューサウスウェールズ・プレミア文学賞グレンダ・アダムズ賞、ヴォス文学賞、バーバラ・ジェフリーズ賞を受賞。シドニー在住。 |
「夜が来ると」 ★★ |
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2015年06月
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海外で多数の文学賞を受賞した長編小説。期待を以て読み始めましたが、捉え難いところもあるストーリィでした。 町から離れた海辺の一軒家に、夫の死後は一人暮らししている老婦人のルースが主人公。 彼女の元に自治体から派遣されたホームヘルパーと名乗って(ルースにとっては少女時代を過ごした懐かしいフィジー出身と自称)フリーダという女が訪ねてきます。 有り難いと思いつつ、次第にフリーダはルースへの遠慮を欠いた口を利くようになります。 フリーダが現れたのと時期を同じくしてルースは、夜中、家の中にトラの息遣いを聞くようになるのですが、その正体は? 1人暮らしの老女の元へ身元定かならぬ人間が入り込み、次第に老女を自分の思うままにコントロールしていくという話であれば然程珍しいとは思いませんが、本作品においては登場人物それぞれの関係が単純ではないところに特徴があります。 すなわち、ルースはフリーダを警戒しているようで、同時に頼りにしたいと思っているところがあります。またフリーダの方も、ルースを都合よく利用しているように見えながら真摯に彼女のために尽くそうとしている気配が窺えます。 ルースと長男ジェフリーの関係は、近そうでいて遠く、遠いようでいて近いのかもしれない。さらに、ルースが再会した娘時代の初恋相手リチャードは、頼りになりそうでいて実は頼りにならないのかもしれない。 そんな不安定さが、本ストーリィ全体を覆います。ルースが聞くトラの声は、そうした不安定さの象徴、警告音なのかもしれません。 サスペンスと情感、そして不安定さに満ち満ちた長編ストーリィ。捉え難さも当然のことでしょう。 |