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「哀しいカフェのバラード」 ★★☆ 原題:"The Ballad of the Sad Cafe" 訳:村上春樹 銅版画:山本容子 |
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2024年09月
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カーソン・マッカラーズという作家、本作で初めて知ったのですが、村上春樹さん、本作がマッカラーズ3作目の翻訳という。 「ひどくうらぶれた町だ」という印象的な一文から始まるストーリー。 田舎町ですが、ずっとうらぶれた町であった訳ではなく、一時期は賑やかなこともあった町。 それをもたらした人物、そして破壊した人物、都合3人の人物が絡んだ顛末、その根底にあった奇妙な相関関係が描かれます。 一人はミス・アミーリア・エヴァンズ。雑貨屋と醸造所を営み、町一番の裕福な女性。体格も筋肉も男性並みで、何でも一人でやってのけてしまう。ただ、人付き合いが苦手なのが欠点。 そのミス・アミーリアの元を突然訪ねてきて、居候として迎え入れられたのは、自称従兄弟だと名乗るせむし男、ライモン・ウィリス。ミス・アミーリアから「カズン・ライモン」と呼ばれることになります。 そのライモンが何故か住民たちの間で人気者となり、雑貨屋は<カフェ>へと姿を変えます。 しかし、ミス・アミーリアがかつて結婚した相手であり、結婚してすぐ家を追い出され、犯罪者となって服役していたマーヴィン・メイシーが、彼女に仕返しするため町に戻ってきた処から、暗雲が垂れ込めます。 ミス・アミーリア、魅力的な女性という訳では決してありませんが、そのキャラクターが傑出していて実に面白い、惹きつけられる登場人物。 近寄りがたいけれど善人であるアミーリア、典型的な悪漢であるメイシー、そしてその間でうろつくせむし男のライモンと、まるで紙芝居の中の人間関係を見るようです。 最後の結末はひどく哀しいものですが、だからこそミス・アミーリアが皆にもたらしていた賑わいが心に残ります、永遠にというくらいに。 またそれは、本物語の余韻が読者の心にも残る、ということ。 本作 150頁程の小説ですから手に取りやすい。お薦めです。 |