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「アウシュヴィッツの図書係」 ★★☆ |
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ナチスがユダヤ人を根絶やしにするため設けたアウシュヴィッツ強制収容所。 その第二強制収容所に設けられた家族収容所31号棟には、収容されたユダヤ人の子供たちのための学校、そして図書館があった。 しかし、それはあくまで極秘のこと。ナチスにそれを知られたらすぐ取り潰され、関係者は処刑されるのは必須。 ナチスに対して毅然と対応する収容者たちのリーダー=フレディ・ヒルシュによってそれらは作られたものですが、図書館にある本は僅か8冊のみ。 その本を日中貸出し、夜には回収して隠し場所にしまう“図書係”にヒルシュから任じられたのは、14歳のチェコ人少女エディタ・アドレロヴァ(ディタ)。 それからディタは、勇気を奮って本を守り続けます。 内容もバラバラで傷んでいる8冊の本について、今なら何の価値があるだろうかと思うところですが、何もない収容所においてそれはどんなに貴重なものであったことか。 現にディタは、本を守ろうとすることで勇気を持ち続けることができ、また時々それらの本を読むことによって希望を捨てずに、過酷なアウシュヴィッツ収容所での少女時代を生き抜くことができたのですから。マニング「戦地の図書館」でも感じさせられたことですが、たった一冊の本でもどんな大きな力を持っているかを思うと、その感動はとても大きい。 アウシュヴィッツ収容所等での生活がどんなものであったか、リアルかつ克明に描いたその実情は、目を逸らしてはいけないものであると思いますし、小説という形で今なお訴え続けられるべきものであると感じます。 なお本書は、小説とはいえ、実際にアウシュヴィッツ収容所で図書係を務めた実在の女性=ディタ・クラウスの経験に基づくフィクションとのこと。 強者の傲慢な残虐性、弱者の悲痛な叫び、過酷な状況を生き抜いた勇気、そして本の持つ力を余すところなく描き出した一冊。 お薦めです! |