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1.第四の手 2.あの川のほとりで |
●「第四の手」● ★☆ |
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2009年12月 2002/10/03
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主人公のパトリックは、大衆向け番組のTVジャーナリスト。 インドでサーカスを取材中、うっかりライオンに左手を食われてしまい、一躍“ライオン男”として有名になります。 そんな彼の前に、死んだ夫の左手を提供しようと、ドリスという未亡人が現れます。そこから始まるラブ・ストーリィ。 元々パトリックは、なんとなく女性を惹きつけてしまうというタイプの男で、いつも女性側から誘われる、というのが定例パターン。 ところが今回、左手を与えるその条件であったかのように、移植手術の寸前ドリスにのしかかられ、子種を奪われてしまいます。 ドリスの側からすると、出産後はもうパトリックに用済みというばかりなのですが、パトリックの方はドリスに恋焦がれてしまう。まるで初めて恋を知った高校生、といった如くです。 そんなパトリックの打って変わった純情ぶりに、真剣な恋物語とはいえ、どこか笑いを誘われます。ドリスに惹かれる一方で、他の女性と相変わらずの関係を続けたりしているのですから。 また、ドリスの方も、妊娠したいばかりにという部分があって、こちらもコミカル。 結局、パトリックにとっては、真実の愛を知ったことにより漸く自分の人生をつかみとることができた、というストーリィ。彼にとっては、左手を失うより余程大切なものを手に入れた、ということでしょう。 本作品については、喜劇的要素の強い純愛ストーリィと受け取るべき。その方がきっと読み易いと思います。 |
●「あの川のほとりで」● ★★☆ |
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2012/01/22
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半世紀の及ぶ長大な親子の物語。 みっしりと字の詰まった 400頁の上下2冊となると、手に取るには勇気も要りますが、本作品、本当に面白いです。読み応え、読み甲斐、ともにたっぷり。 ただ、私はついつい読み急いでしまいましたが、じっくり読むことをお勧め。 というのは本作品、単純に時系列では進むことがありません。各章で時間は大きく進みますが、詳細が省かれていたこと、隠されていた秘密がが後から回想をもって語られることがしばしば。そうした展開に物語の奥深くについつい引き込まれていく、という風なのです。 ストーリィ、木材伐採地で暮らす12歳の少年ダニエルは、熊と間違えて父親の情婦だったインディアン女性を殴り殺してしまう。 父親ドミニクは息子を守るため、即座に逃亡を決断します。理由は彼女と一緒に暮していた治安官からの復讐を恐れるが故。 そこから始まる、バチャガルポ父子の長い逃避行を描く物語。 作品から伝わってくるのは、息子を何としても守ろうという父親の強い愛情です。それはドミニクとダニエルの関係だけではなく、ダニエルの息子ジョーに対する関係にも共通します。父子の逃避行に協力する同郷の樵ケッチャムのバチャガルポ父子に対する愛情も、父子の関係に近いものがあります。 ドミニク、ダニエル、ジョーとも、奇しくも母親、妻を早くに失います。また、追跡を恐れて居所を転々とするが故に父子2人とも女性との関係を長く続けることができない、それだけに父子の関係には濃いものが感じられます。 そうした中でドミニクはコックとして成功し、ダニエルは小説家となり有名人となる。でも最後、ダニエルには悲劇が待ち構えています。 成功と濃密な女性関係、一方で家族の悲劇。結果的にバチャガルポ父子の一生は幸せであったのか、不幸であったのか、そのどちらかに決めつけることなどは到底できません。 最後、神さまがダニエルに新しなスタート地点を与えたような結末が素晴らしい。心憎いばかりです。 新しい勇気を、作者がダニエルだけでなく読者にも与えてくれるようなエンディング。是非お楽しみに。 ※ダニエルが小説家として発表していく数々の作品、自伝的にも思われ、執筆していく過程は興味大です。ダニエルには作者アーヴィングと共通するところも多くあるそうで、それ故に“半自伝的大長編”と言われる次第。読み処いっぱいです。 1954年ニューハンプシャー州コーアス郡/1967年ボストン/1983年ヴァーモント州ウィンダム郡/2000年トロント/2001年ニューハンプシャー州コーアス郡/2005年オンタリオ州ポワント・オー・バリル・ステーション |