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「神さまの貨物」 ★★☆ 原題:"La Plus Precieuse des Marchandises" 訳:河野万里子 |
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2020年10月
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2021年本屋大賞翻訳小説部門2位。 上記賞に関係なく、書店店頭で見た時から気になっていた作品なのですが、ようやく読むことが出来ました。 森の中に住む木こりの夫婦。世界大戦のためにあらゆるものが占領されたうえ、強制労働にも駆り出され、夫婦の生活はとても貧しいもの。 そんな中でもおかみさんは、時折通り過ぎる貨物列車に「子どもを授けてください」と祈り続けていた。 そしてある日、貨物列車の小窓が開いたかと思うと、おかみさんに託すとでもいうように、ショールに包まれた赤ん坊が雪の上に投げられます。 そしておかみさんは、神さまの贈り物としてその女の子を懸命に守り、育てていこうとするのですが・・・。 ファンタジー小説のようですが、背景にあるのはホロコースト。 ぼかされてはいますが、ナチスによるユダヤ人虐殺を基にしていることは明らかです。 貨物列車はユダヤ人を収容所に移送するためのもので、せめて一人だけでも救いたいと思った父親が、おかみさんの姿を認めて託そうと決意した、という経緯。 しかし、おかみさんの前には幾多の困難が・・・。 衝撃的だったことは、「人でなしに心はない」「人でなしどもに死を!」という木こりたちの言葉。何という言葉が人々の口に乗せられていたことか。そうした事実が怖ろしい。 一方、母親や双子の兄弟と一緒に死なせた方が幸せだったのかと悔やむ父親の苦悩も、実にリアル。 小さな女の子を守り、生き延びさせるためにどれだけの犠牲が払われたことか。 しかし、そうした一人一人の思いが世界を存続せしめていくのだと、祈るような気持ちを以て感じます。 |