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Tana French 1973年生、米国ヴァーモント州出身、アイルランド居住。俳優の仕事を経て2007年「悪意の森」にて作家デビュー。同作にてエドガー賞(アメリカ探偵作家クラブ賞)・アンソニー賞・マカヴィティ賞・バリー賞の各ミステリ文学賞の新人部門を受賞。20年刊行「捜索者」は米ニューヨーク・タイムズや英ガーディアン等各紙で年間ベスト・ミステリに選出。 |
「捜索者」 ★★★ |
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2022年04月
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主人公は。元シカゴ市警の刑事だったカルヴィン(カル)・ジョン・フーバー、48歳。 ある経緯からアイルランドの小さな村郊外の土地を買い、一人で移住してきます。 そのカルの前に現れたのが、トレイという13歳の子ども。行方知れずになった兄ブレンダンの行方を捜してほしいと、執拗にカルに頼んできます。 しかし、母親も友人たちも、ブレンダンは単に村を出て行っただけと言う。なお、そのトレイのレッディ一家は、何故か村人たちから除け者にされているらしい。 それでも聴き込みを続けていくうち、カルにはブレンダンの行動の中身が見えてきます。それと共にカルは、自分の行動を押し留めようとする村からの圧力を感じるようになります。 いったい村にはどんな秘密があるのか・・・。 ジャンルとしてはミステリであることに間違いはありません。 しかし、本作はそれに留まらず、もっと大きなドラマを描いています。 出版社の紹介文に「ジョン・フォードの詩情。アイルランドの情景を描く大作ミステリ」とありますが、まさにそのとおり。 アイルランドの広い郊外地を背景にしたカルの暮らしぶり、隣人マートや村に溶け込んでいくカルの姿には、魅せられるものがあります。 そしてそれらを超えて本作の根幹となっているのは、カルとトレイの交流であることに間違いありません。 2人の間には年齢を超えた対等な友情が生まれたように感じますし、それと同時に生き方や行動の仕方についてカルがトレイを導こうとし、トレイがそれによって成長していくという姿が見られます。 片や家族関係をしくじったカル、片や家族関係に恵まれていないトレイ、だからこそ2人の繋がりには尊いものを感じます。 ※かつての名作西部劇「シェーン」、その最後でシェーンは少年の前から去って行きますが、本作のカルはこの地に留まり、引き続きトレイにとって信頼できる大人として居続ける、ということでしょう。 |