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「ぼくを忘れないで」 ★★ コスタ賞新人賞&大賞 原題:"THE SHOCK OF THE FALL" 訳:古草秀子 |
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2019年05月
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統合失調症の青年マシュー・ホームズ、19歳。 彼は、大好きだった3歳上の兄、ダウン症だったサイモンが事故死したことにつき、自分の所為だという罪の意識をずっと抱えている。 そのマシューが、その治療の一環として過去や現在を書き綴るという設定による長編。 統合失調症である青年の手記という設定ですから、ストーリィはきちんとした筋立てでは語られません。 時期も脈略なく前後しますし、どういう状況なのかよく把握しきれない、ということもあります。 また、実家を離れて友人ジェイコブと2人暮らし、マシューも介護施設で働き始めますが、ジェイコブが実家に戻ってからは家賃を賄うために出来るだけ働こうとして、病状を悪化させてしまうという顛末もあり。 マシューの祖母や両親の苦労は如何ほどと思いますが、それよりもマシュー本人が抱えている苦しみの底深さこそが胸に響いてきます。 その苦しみは、まさにマシューの手記に体現されているのですから。 そしてそれは、兄サイモンの面影をマシューがいつまでも忘れていない、ということでもあります。 本ストーリィに解決も、決着もありません。 マシューの病状が良くなったといっても、再び悪化することがあるかもしれないと、書かれているのですから。 マシューがいつまでも胸に抱える兄サイモンへの兄弟愛、そこに胸打たれる物語です。 |