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Donatella Di Pietrantonio 1962年イタリア中部アブルッツォ州テーラモ生。86年ラクイラ大学歯学部卒業後、小児歯科医として働き始める。2011年、生まれ故郷の村を舞台にした処女小説「川のような母」にてトロペア文学賞、13年ラクイラ地震をテーマとして「美しきわが町」にてプランカーティ賞、17年「戻ってきた娘」にてカンピエッロ賞を受賞。 |
「戻ってきた娘」 ★★★ カンピエッロ賞 原題:"L'Arminuta" 訳:関口英子 |
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2021年03月
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一人娘として大事にされ、不満のない中流家庭で育ってきた主人公「わたし」は、13歳になった時に突然、両親は別にいると言われ実家に戻されます。 呆然とするままに戻された実家は、貧困家庭、母親の言葉遣いは荒く、3人の兄たちは粗暴。そして母親は赤ん坊の末っ子に手が掛かっているという状況。 部屋も一室に兄妹5人が押し込まれ、主人公はおねしょ癖のある妹と一つベッドで眠るしかない、という具合。 実の両親が死去し施設行きになるとか、両親の死後金持ちの一族が現れその元に引き取られるとか、そうしたドラマチックな物語は枚挙にいとまがありません。 が、本作はそれらとは違う。 父親・母親と信じていた相手が実の両親ではないと突然に告げられ、一方的に見も知らなかった実家に戻されてしまう。 しかし、これまでの事情、そして今回の理由を、誰も主人公に対して説明してくれないのですから。主人公にとっては、まるで品物のように受け渡しされたという思いだけが強まります。 生活レベルは明らかに陥落、いったい何時までここでの生活が続くのやらと、主人公は目の前が真っ暗。 そうした中で、家でも学校でも彼女の味方になってくれたのは、妹のアドリアーナ。ただそこには、姉への気遣いというだけでなく、姉の存在に自分の希望を賭ける気持ちがあったからでは、と思う次第です。 一方、母親が決して主人公に冷淡だった訳ではありません。母親には母親の事情があり、思いがあり、致し方ない現実もあったのでしょう。 一見、粗暴、救いのないような家族と思えますが、気づいてみれば、そこにも一筋の愛情が確かにあることが感じられます。 そして、姉妹が手を取り合って少しでも前に進もうとする姿が圧巻。彼女の切ない胸の内を聞くたび、何度息が詰まるような思いをしたことでしょうか。 是非、お薦め! ※「訳者あとがき」によると、作者が生まれた頃のイタリアでは、親同士の合意だけで、子沢山の家庭から子どものいない家庭に乳幼児が引き取られるということが頻繁に起こっていたらしい、とのこと。 |