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「息 吹」 ★★☆ ヒューゴー賞等 原題:"EXHALATION" 訳:大森望 |
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2019年12月
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ヒューゴー賞を受賞した3作を含む、第二短編集。 海外SF界には疎く、テッド・チャンについても本書で初めて知ったのですが、「あなたの人生の物語」の映画化作品「メッセージ」、主演のエミリー・アダムズが好きな女優さんだったため観ていました。いつの間にか接点はあったのですね。 ・本書に魅了されたのは、冒頭の「商人と錬金術師の門」。 「千夜一夜物語」的な構成で、舞台もバクダッド。 その魅力は、語りの面白さとSF要素の融合にあります。 そもそも「千夜一夜物語」の面白さって、不思議な話を物語って聞かせるところにあるのですが、その話がタイムトラベル、しかも起きた事実を変えることはできない、という前提付き。 そして作中掌篇「妻とその愛人の物語」がお見事、痛快です。 ・表題作「息吹」、さて主人公はどんな存在なのだろう?と想像を巡らせざるを得ないところが面白み。 人間ではないことは明らかです。人間が一切登場しないストーリィ、とのことですし。 ・「ソフトウェア・オブジェクトのライフサイクル」 内容は、来るべき近未来社会で当然に予想されるような出来事。 デジタル存在であっても、知能を持たせ躾という要素を導入すれば、いずれペットではなく子育てに共通してくるし、やがて人間とデジタル存在、アバターとの間にどれだけの違いがあるのか、という問題へと繋がっていきます。 興味深く面白いという面と同時に、警告要素も感じる中編作。 ・「大いなる沈黙」、成る程なぁ・・・。 全体を通して感じるのは、SF世界の冒険物語というより、SF的な着想をもって現実的な社会を描いた一冊、という印象です。 商人と錬金術師の門(ヒューゴー賞・ネビュラ賞・星雲賞)/息吹(ヒューゴー賞・ローカス賞・英国SF協会賞・SFマガジン読者賞)/予期される未来/ソフトウェア・オブジェクトのライフサイクル(ヒューゴー賞・ローカス賞・星雲賞)/デイシー式全自動ナニー/偽りのない事実、偽りのない気持ち/大いなる沈黙/オムファロス/不安は自由のめまい |