トルーマン・カポーティ作品のページ


Truman Capote 1924〜84年、アメリカの作家。ルイジアナ州ニューオーリンズ生。7歳の時に両親が離婚し、孤独な幼少年時代を過ごす。45年短篇「ミリアム」にて注目され、48年長篇「遠い声 遠い部屋」にて名声を博す。また、66年カンサス州田舎町で実際に起きた一家4人の惨殺事件に取材した「冷血」を発表し話題となる。そのほか代表作として、オードリー・ヘップバーン主演による映画化で評判となった「ティファニーで朝食を」(1958)あり。84年薬物使用が原因とみられる肝臓病により59歳で死去。

 
1.
ティファニーで朝食を

2.クリスマスの思い出

3.あるクリスマス

 


  

1.

●「ティファニーで朝食を」● ★★
 
原題:"Breakfast at Tiffany's"        訳:村上春樹

 

  

1958年発表

2008年02月
新潮社刊

(1200円+税)

2008年12月
新潮文庫化

  

2008/03/20

 

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高校時代に本書を読んだのは、オードリー・ヘップバーン主演映画がきっかけでした。
当然、手に取った新潮文庫の表紙を飾っていたのは、黒いドレス姿のオードリー。そして覚えている感想といえば、とらえどころのないストーリィだった、ということぐらい。原作と映画で結末に違いがあるとは知っていますが、映画は今に至るも観てないままなので、その違いを具体的には知らず。ある程度想像はつくというものですが。
それから約35年が経っても、名作という評価は未だ少しも色褪せていないらしい。そんな本作品を村上春樹さんが新訳ということですから、この際再読してみようと思った次第。

第二次大戦下のニューヨークが舞台。作家志望の主人公が住むことになったアパートで、1階下に住んでいたのがホリー・ゴライトリー。郵便受けの名札入れには「ホリデー・ゴライトリー 旅行中」と書かれたカードが。
この「旅行中」という言葉が今なお新鮮。ある意味で憧れに近いし、芭蕉言うところの人生にも通じますし。
もっともホリーにそんな哲学的発想がある訳ではないようで、物事に束縛されず自由気侭、在りたい自分のままでいたい、というだけ。そして、NYに定住している訳ではないという意味で「旅行中」ということらしい。
そんなホリー、何をどうして暮らしているのかもうひとつ正体不明、かつとらえどころのない女性です。
いわばNYという都会に出現した魔女と妖精の中間にあるような魅力を振り撒きながら、それでいてれっきとした生身の女性、という存在であるような。
そうしたホリーを象徴的に表した言葉が「いつの日か目覚めて、ティファニーで朝ごはんを食べるときにも、この自分のままでいたいの」という有名なセリフ。(※今回村上さんは、題名とは別に「朝ごはん」と訳している)
ホリーというキャラクターとこの名セリフだけで、既に本作品は燦然と輝く古典的名作に成り得ている、と思います。

なお、“ティファニー”はニューヨーク五番街にある高級宝石店であって、もちろん食堂などはない。今更言うまでもない有名店ですが、私がそうと知ったのも思えばこの作品のおかげです。
※これを機に映画作品の方も観てみるかなぁ・・・。

ティファニーで朝食を/花盛りの家/ダイアモンドのギター/クリスマスの思い出

    

2.

●「クリスマスの思い出」● ★★☆
 
原題:"A Christmas Memory"     訳:村上春樹/銅版画:山本容子

 

  

1956年発表

1990年11月
文芸春秋刊

(1571円+税)

 

2007/11/22

 

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本書ではあるクリスマスの1年前、主人公バディーが親友と最後に過ごしたクリスマスのことが描かれます。

バディが親友だという彼女は、60歳を越したスック。バディとはすごく遠縁のいとこ同士なのだという。
11月のある朝が来ると彼女は高らかに宣言します。「フルーツケーキの季節が来たよ!」と。
そして2人はいそいそとクリスマスケーキを作る準備にとりかかえるのです。
毎年2人は小遣いやちょっとした稼ぎをちびちびとその費用のために貯金しているのだという。
そして出来上がったケーキは、友人たちに送られるのだという。たった一度しか会ってない、あるいは一度も会ったことのない人に送られることの方がむしろ多いという。
ケーキ作りが終われば森へクリスマス・ツリーを切りに出かけ、クリスマス当日は2人が贈り合った凧を空高く揚げて喜ぶ。

何と無心で、単純で、邪気のないクリスマスだったことか。
そんなクリスマスだからこそ、忘れられない貴重なクリスマスの思い出となるのでしょう。
年を重ねれば重ねる程、その思い出は燦然と輝いていくもののように思います。
しかし、それはいつまでも続くということは許されず、やがてバディーは寄宿学校に入れられ、残されたスックはいつしか弱ってしまう。
小説とは思えないような散文的なストーリィですが、読了後思い返す度にじわじわとその思い出が深まっていくように感じられます。

     

3.

●「あるクリスマス」● ★★
 
原題:"One Christmas"        訳:村上春樹/銅版画:山本容子

 

  

1982年発表

1989年12月
文芸春秋刊

(1262円+税)

 
2005/12/24

まとまった作品としてはカポーティ最後の作品とのことですが、ストーリィとしてはクリスマスの思い出の1年前、主人公バディー6歳の時のクリスマスを描いています。

バディーは両親が離婚したため、アラバマの母親の実家に預けられ、そこで大家族の中で暮している。親戚の中でバディーが誰よりも大切に想っているのは、祖母の従姉妹であるスック
そんなバディーが6歳のクリスマス、彼は父親に招かれてニューオーリーンズの父親の家で過します。
父親の家に滞在中の夜中、バディーはクリスマスプレゼントを用意している父親の姿を見てしまう。サンタはいない、ということをはっきり知った訳です。
サンタを信じていた純真な子供時代からの脱却。うとましさしか感じていなかった父親のそんな姿を見た主人公と、子供に知られてしまった父親の、各々の淋しさが印象的です。
そんなバディーを諭すスックの言葉はどこまでも優しく温かい。

本書は少年時代のクリスマスの思い出を描いた、忘れ難い佳作です。

  


   

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