エリザベス・ボウエン作品のページ


Elizabeth Bowen  1899〜1973 17世紀以来のアングロ・アイリッシュ地主階級ボウエン一族の末裔としてアイルランドのダブリンに生まれる。その後まもなく渡英。20代の初めから小説を書き始め、73歳で没する迄に10篇の長篇小説と 100篇余りの短篇小説を書く。文芸評論等も手がけダブリン大学、オックスフォード大学から名誉博士号を授与される。

 


 

●「あの薔薇を見てよ−ボウエン・ミステリー短編集−」● ★☆
                 訳:太田良子




2004年8月
ミネルヴァ
書房刊

(2500円+税)

 


2006/03/14

「20世紀英国文壇切っての短篇の名手がミステリータッチで括る抉る人生の真実20編」というのが、本書帯の紹介文。

本書冒頭の小池滋さんの紹介文によると、アガサ・クリスティーが圧倒的な人気を得ているのに対しボウエンが人気を得られなかった理由は、結末が明示されず、謎は謎のまま読者の前に放り出されるためだろうとのこと。
最初の2篇、「あの薔薇を見てよ」「アン・リーの店」を読むとまさにその通りと感じます。
しかし、その後は読んでストーリィをつかむのに苦労した、というのが正直なところ。
何でかなぁと思うと、ひとつには短篇の割りに人物名が多く登場し、誰が主人公になってストーリィがどう展開するのか、始まりの段階でつかみ難いこと。そしてもうひとつは、作者が結末へと読者を誘うことなく、放り出しているような語り口であること。そのため、ちょっとでも注意力を欠いてストーリィをつかみ損なうと、まるでストーリィの意味が判らないまま結末に至ってしまい途方に暮れることの繰り返し。
私の集中力の無さの所為だと言われればその通りで情けなく思うばかりなのですが、日本で人気が今ひとつ出なかったという理由も納得できるのです。
それにしてもボウエンの作品は一筋縄ではいかない。改めて読み直すと、やっとストーリィの深さが知れるのです。

私が魅力を感じたのは、ハッとさせられる部分のある「あの薔薇を見てよ」「アン・リーの店」「針箱」
予想外の結末が楽しめる「割引き品」、不気味な「手と手袋」のほか、少女レイチェルの友達さがしを描いた「チャリティー」「ザ・ジャングル」の切り口も鮮やか。
そして本書中の白眉は「林檎の木」。少女らしい愚かさと悲惨な結果を対照的に描いた本篇は、まさに凄い!のひと言。

あの薔薇を見てよ/アン・リーの店/針箱/泪よ、むなしい泪よ/火喰い鳥/マリア/チャリティー/ザ・ジャングル/告げ口/割引き品/古い家の最後の夜/父がうたった歌/猫が跳ぶとき/死せるメイベル/少女の部屋/段取り/カミング・ホーム/手と手袋/林檎の木/幻のコー

  


 

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