ケリー・バーンヒル作品のページ


Kelly Barnhill  1973年米国生、ミネソタ州在住。2人の子供が生まれてから短篇を書き始める。その後ジェローム基金、マックナイト基金等、数々の団体から奨学金を得て、創作活動を続ける。2017年「月の光を飲んだ少女」にてニューベリー賞を受賞。

1.魔女の子ども

2.月の光を飲んだ少女

 


  

1.

「魔女の子ども」 ★☆
 原題:"The witch's boy" 
   訳:佐藤見果夢


魔女の子ども

2014年発表

2019年07月
評論社

(1600円+税)



2019/08/03



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月の光を飲んだ少女が好評だったケリー・バーンヒルの2作目が刊行。ただし、発表はこちらの作品の方が先。

表題の魔女の子どもとは、本作で主人公となる
少年ネッド
そしてある問題が起きた後、ネッドと逃避行を共にするのが、表紙絵に登場している
少女アイン

本ストーリィの題材は魔法。といっても、その力で自分の望むままに全てを動かせるというどころか、とても厄介な存在。
“魔女さん”と呼ばれるネッドの母親は、その魔法を抑えつけ、管理しながらその力を利用して、村人たちの病気を治す等に役立てていた、という次第。

その母親が女王様に招かれて家を留守にしている間に、母親がネッドに預けていった魔法を奪おうと、山賊たちが襲ってきます。
その山賊王というのが、アインの父親、妻でありアインの母が死去した後、すっかり人間が変わり今や山賊王。

紆余曲折を経て、ネッドとアインは山賊たちから逃れる為、
仔オオカミを道連れとして逃避行、冒険行を繰り広げるというストーリィ。
そしてその先には、魔法の根源である巨石たちが・・・。

要は、少年少女と仔オオカミを主とし、女王様や征服欲に駆られた隣国の王たちを脇役に据えたファンタジー冒険物語。

それなりに楽しめましたが、「月の光を飲んだ少女」の面白さに較べると物足りなさは否めません。
しかし、最後はネッドとアインの新たな旅立ちに、心からエールを贈りたい気持ちです。

            

2.

「月の光を飲んだ少女」 ★★☆         ニューベリー賞
 原題:"The girl who drank the moon" 
   訳:佐藤見果夢


月の光を飲んだ少女

2016年発表

2019年05月
評論社

(1600円+税)



2019/06/18



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ファンタジー感溢れる題名に惹かれて読んだのですが、大正解。
児童向けファンタジー作品ですが、予想を超えた素晴らしさ、名品と言って過言ではないと思います。

長老見習いのアンテインたちが住む保護領では、魔女に町を滅ぼされるのを避けるため、毎年最初に生まれた赤ん坊を生贄として捧げることを続けてきました。
ところが
魔女ザン、何故保護領の人はいつも同じ時期に赤ん坊を森に捨てるのかと疑問に思いつつ、赤ん坊を拾い上げては自由市の人に託し、そこで皆大事に育てられ無事に成長していたというのが真実。
しかし、ある年捨てられた女の子の可愛らしさに、ザンはうっかり月の光を飲ませてしまいます。その結果、
ルナと名付けられたその子は魔法の力を持つこととなり、やむをえずザンは自分の手元でルナを育てることにします。
そのルナがまもなく13歳になろうとする時期、ザン、アンティンらにとって大きな出来事が生じます。それは・・・・。

本作の優れているところは、ストーリィの中に、愛情、人を大事に思う気持ちが満ち溢れていることです。もちろん、悪い魔女も登場しますから、その対比においてなおのことその素晴らしさが感じられるという次第。
また、アンテインや
エサイン、ルナと彼女を愛し守る魔女ザン、沼坊主グラーク、竜の子フィリアン、そして塔に囚われた狂女といった顔ぶれが実に多彩で魅力的。
そして何より素晴らしいと感じるのは、各主要登場人物がそれぞれの局面において、主人公に他ならないという内容を見せていること。

希望を持つことが出来るという喜び、幸せをつくづく感じた、という思いです。 是非お薦め!

   


   

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