出版社の紹介文によると、「“高校生が選ぶゴンクール賞”受賞作。時代と文明から取り残された小さな村ファラゴを舞台に、野生の孤児ホーマーと、彼をとりまく「心やさしき人々」が織りなす冒険と思索のオデッセイ」とのこと。
舞台はアメリカの小さな村、ファラゴ。時代は1972年末から73年の夏にかけて。
ですから本書は現代ものストーリィなのですが、このファラド、まるで中世におけるヨーロッパの田舎町を思わせるような舞台です。
主人公のホーマーは、各地を放浪したあとファラゴに戻ってきていろいろな手間仕事をして暮らす、いわばホームレスのような野生児。それでも本ストーリィ中で結婚を決意するに至るというれっきとした大人ですが、まるで子供と変わらぬ面影を幾度と泣く見せます。
意図せず今まで行動してきたことが結婚を機に職を得ることに役立ったり、いけないことをしてしまったと逃げ出すと実は村で英雄扱いされるような功績だったり。まるで子供の時のまま大人になってしまった、かつてのトム・ソーヤーやハックルベリー・フィンを見るようです。
本ストーリィの面白さは、まるでおとぎ話の村が舞台であるかのように個性的で心優しい人物が幾人も登場し、その人々の純粋さと、そこから自然に生じる愉快さをたっぷり堪能できるところになります。
ホーマーやその友人であるイライジャ、デュークが単純明快な人物であるのに対し、それと対照的に思慮深い存在が、過去に謎をもつ食料品店主の賢人ファウストーであり、売春宿で働くオフィーリアです。
前半、このファウストーが地道な味わいをもたらしているのに対し、後半ではオフィーリアが賢母というべき見事な存在感を示します。その圧倒感がホーマーの純朴さと相まって圧巻です。
それにしても、ファウストー、オフィーリアという彼らの名前が凄い。ゲーテ「ファウスト」、シェイクスピア「ハムレット」に登場する有名な人物と同じではありませんか。といっても、有名作品中の人物と違って、2人ともはるかに賢明で、地に付いた力強さがあります。
そうなるとホーマーは?と考えて思いつくのは、古代ギリシアの詩人ホメロス。
作者がそこまで意図していたのかどうかは判りませんが、主人公ホーマーが見事な語り部であることに間違いはありません。
気持ち好い人々が織り成す、まるでおとぎ話の中のことのような現代ストーリィ。
ストーリィを素直に心ゆくまで楽しめる一冊です。
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