ジョーン・エイキン作品のページ


Joan Aiken  1924〜2004年。英国イースト・サセックス州生。父親はピューリッツァー賞受賞詩人のコンラッド・エイケン、妹も作家のジェーン・エイケン・ホッジ。大人向けのホラーストーリィやファンタジー短篇集、詩、戯曲を出版。69年ガーディアン賞、72年エドガー賞を受賞。2004年逝去。

1.月のケーキ 

2.お城の人々 

 


               

1.

「月のケーキ」 ★★
 原題:"Moon cake and other stories"   
     訳:三辺律子


月のケーキ

1998年発表

2020年04月
東京創元社
(2000円+税)



2020/06/24



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幻想的、あるいはファンタジー、という雰囲気の短篇集なのですが、実際に読んでみるとその読後感はそんな簡単なものではありません。
確かにストーリィ自体は、幻想的だったりファンタジー的であるのですが、肝心なところで実に現実的なのです。

表題作の
「月のケーキ」。祖父の住む村に滞在している少年トムのところに魔女のような雰囲気を纏った女性が訪ねてきて、時計の針を戻す、元の状態に戻すという効力のある<月のケーキ>を作る手伝いをしろ、と言うのです。
最後、トムの一言が愉快。これじゃあ、ファンタジー小説にはなりませんよ。

「バームキンがいちばん!」では、スーパーを経営している主人公の父親は売上さえ増やせるなら何をしたっていい、という雰囲気ですし、「怒りの木」では豊かな農地で暮らす住人たちを追い出して森にしてしまおうとし、「おとなりの世界」ではせっかくの平和な暮らしをゴルフ場造成のために打ち壊してしまおうとする。
いずれも現代社会の商売優先、利益優先という風潮への辛辣な批判のようです。

「オユをかけよう!」は愉快。やはり人の言いなりになるのではなく、自分の頭でしっかり考えないと。
「ドラゴンのたまごをかえしたら」では、融通の利かないドラゴン退治者を好きなままにさせたお蔭で後で苦労。最後の募集文言に笑ってしまいます。

パワハラ、セクハラ批判もありますし、最後の
「にぐるま城」は戦争回避努力を怠ることへの皮肉でしょうか。

月のケーキ/バームキンがいちばん!/羽根のしおり/オユをかけよう!/緑のアーチ/ドラゴンのたまごをかえしたら/怒りの木/ふしぎの牧場/ペチコートを着たヤシ/おとなりの世界/銀のコップ/森の王さま/にぐるま城

          

2.

「お城の人々」 ★★
 原題:"The People in the Castle"   
     訳:三辺律子


お城の人々

2016年発表

2023年12月
東京創元社
(2000円+税)



2024/03/05



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幻想、おとぎ噺、幽霊・・・多彩な短篇集、第3弾。

一般的に幻想、幽霊というと、暗いイメージが浮かびますが、エイキンの短篇集はそんな簡単にひとくくりにできるものではありません。その点は
月のケーキと同様です。

明るくあれ、暗くあれ、どうあっても可笑しみがある。そんな処がエイキン短篇集の魅力です。

「ロブの飼い主」:意識不明状態となった少女に寄り添おうとする愛犬。不気味さよりも愛おしさあり。
「携帯用エレファント」:これは奇矯、でも愉快。
「よこしまな伯爵夫人に音楽を」:結末に笑ってしまう。
「ハーブと自転車のためのソナタ」:結ばれなかった恋人たちの幽霊、恋の成就は叶うのか。
 
「冷たい炎」:死んだ息子の願いを踏みにじる強面の母親。果たして勝利はどちらの手に?
・「足の悪い王」:老夫婦と息子夫婦が向かった先は? 奇妙な切なさと可笑しさあり。
「最後の標本」:何と言えばいいのだろうか、この真相を。
「ひみつの壁」:コウムインがめざす壁。その成否は?
 
「お城の人々」:妖精の王女と人間の医師との間に交わされた恋。その結末は・・・。
「ワトキン、コンマ」:運命的な出会いを描く話。相手が幽霊だろうと素敵な出会いであることに変わりなし。

10篇の中で私が特に好きなのは、
「ロブの飼い主」「ハーブと自転車のためのソナタ」「お城の人々」「ワトキン、コンマ」の4篇です。

ロブの飼い主/携帯用エレファント/よこしまな伯爵夫人に音楽を/ハーブと自転車のためのソナタ/冷たい炎/足の悪い王/最後の標本/ひみつの壁/お城の人々/ワトキン、コンマ

      


   

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