Paul Lehr (1930 - 1998)

略歴

New York州White Plains生れ。Ohio州のWittenberg Universityで学んでBFAを得た後、Pratt Instituteにて絵画の勉強。この時の先生の一人がStanley Meltzoff。1958年にBantam Booksから出たSatellite E Oneの表紙絵を担当してSF画デビュー。The Saturday Evening Post、Time、Life等の一流誌の挿絵も手掛けた。初期はMeltzoffの画風をそのまま引き継いだが、60年代に入ると次第にシンボリックな要素を取り入れ抽象性が高くなっていく。60年代から70年代に入ると三日月型の星、尖った山、抽象化された群集等の要素を組み合わせた独特の画風を確立し、ペーパーバックの表紙を中心としてSFの表紙では最も多作の画家の一人となった。80年代後半から徐々に作品が減り始め1998年没。晩年は商売でなく、趣味としてSF画を描き始めた。それまでの集大成ともいえる素晴らしい出来の大きな絵が多く、亡くなったのが惜しまれる。キャリアの長さと作品量の多さから言うと、LehrはSFペーパーバックの表紙画家としてはRichard Powersと双璧をなすと思われる。

1950年代、つまり最初期のLehrのSF画は以下のもので全部だと思う。

*は絵の中にサインが確認できるもの。

**は本の中に画家名が明記されているもの。

著者

タイトル

出版社

出版年

1

Jeffery Lloyd Castle Satellite E One Bantam A1766 1958 Lehrのデビュー作。球の部分はピンポン玉、円筒形の部分はトイレットペーパーの筒でモデルを作って描いたとか。

2

**

Raymond J. Healy (ed) New Tales of Space and Time Cardinal C319 1958 初期の絵ではThe Door Into Summerといい、これといい妙な装置を好んで描いている。

3

Arthur C. Clarke The Deep Range Signet S1583 1958 こんなド真ん中にタイトルを入れられたのでは画家はたまったものではないが、幸いな事にScience Fiction Chronicles誌が1996年10月号の表紙に採用してくれた。誰かが原画を持っている訳で羨ましい!でも全体を出して欲しかったな。

4

Science Fiction Chronicles

October

1996

5

James Blish The Seedling Stars Signet S1622 1959 これは初期のLehrの最高作ではないだろうか。随所にMeltzoffの模倣が見られるが、そんな事はどうでもよいと思う程素晴らしい。

6

Robert A. Heinlein The Door Into Summer Signet S1639 1959 MeltzoffのThe Green Hills of Earthのコピーだけど、人間が他の部分と上手くマッチしていないと感じるのは、オリジナルが素晴らしすぎるせいか?

6

**

Satellite May 1959 初期でただ一つの雑誌表紙絵。同じ絵が数カ月後にThe Outward Urgeの表紙絵になっている。Satellite E OneやGalactic Clusterと同じ趣向。

7

John Wyndham & Lucas Parkes The Outward Urge Ballantine 341K 1959

8

James Blish Galactic Cluster Signet S1719 1959 あんまり面白くないですね。

9

Arthur C. Clarke The Other Side of the Sky Signet S1729 1959 これもMeltzoffのコピー(Race to the Stars)だけど、ひょっとするとLehrではないかもしれない。特徴あるサインがどこを探しても見当たらない。Lehrではないことを願いたい絵である。ゴム手袋にゴム長の不格好な宇宙服、下の方には宇宙水爆戦の円盤が。全体的に下手くそ。でも手に持ってる変てこな装置はやっぱりLehrかな。

10

Murray Leinster Four From Planet 5 Gold Medal s937 1959 後年のLehrからは考えられない様な具象画ですね。

11

Louis Charbonneau No Place on Earth Crest s342 1959 これもMeltzoffのコピー画だけどなかなか素晴らしい。The Seedling Starsと並ぶ初期の傑作。

1960年代初め、Meltzoffの影響から脱し自分のスタイルを模索し始めた頃の作品は、概ね暗い色調のものが多い。

著者

タイトル

出版社

出版年

1

Raymond Healy & J. Francis McComas (eds) Adventures In Time and Space Bantam F3102 1966 1960年代の前半はスタイルの変わり目で、この様な暗い色調の陰鬱なものが多い。

2

Isaac Asimov Pebble In the Sky Crest M1855 1971 1970年頃になると完全に新しいスタイルを定着させ、方々のペーパーバックやハードカバーの表紙を書きまくることになる。三日月型に光る星、尖った山々、奇妙な形の宇宙船、頭が光って群れる人々、等々一目見ただけでそれと分かる代わりにどれがどの表紙だったか覚えられないで困る。

3

John Boyd Barnard's Planet Berkley/ Putnam 1975

4

Stephen Tall The Ramsgate Paradox Berkley Medallion Z3186 1976

5

Analog Science Fiction/ Science Fact January 1979 LehrはそれまでSatelite誌のものを除き、描いた事のなかった雑誌の表紙を1978、1979年の2年間、Analog誌に集中的に描いている。

1980年代から時代の流れが変わったこともあるが、Lehrの表紙は減りはじめる。1990年代になると商業美術から離れ、「自分の為に」描く様になり、彫刻などにものめり込んでいたらしい。そのせいか晩年の作品は大きなものが多く、丁寧に描き込んであって、実に素晴らしい。

著者

タイトル

出版社

出版年

1

Tomorrow October 1996 LehrはこのTomorrow誌の表紙をかなり描いている。どれも晩年の緻密な描き込みと鮮烈な色彩が素晴らしい。

2

Di Fate Infinite Worlds 1997 SFアートを網羅的に紹介しているなかなか素晴らしい本。Di Fateは以前からMeltzoffとLehrを高く評価していたが、この本の中でもかなり大きく取りあげており、表紙はLehrのものを採用している。この絵は最晩年のものと思われるが、素晴らしい出来。中央の建造物?は初期のMeltzoff時代に回帰している様な感じがする。