Subject: [jungnet 00045] ユングへのUFOインタビュー
Date: Sun, 01 Nov 1998 22:53:39 +0900
From: A
 

 
 先日、実家の本棚をごそごそとやってみたときに、中学生の一時期に読んでいた
『UFOと宇宙』(ユニバース出版社)という雑誌のバックナンバーが何冊か出てき
ました。(^^;) もうほとんど「若気の至り」ですね。
 
 そのなかの一冊、1978・6月号に「UFO飛来学説 …UFOはどこから来るの
か?UFOの正体は何か?」という特集が組まれていました。ページをめくってみる
と、UFO宇宙飛来説・UFO異次元説・地球空洞説・UFO海底基地説・UFO空
中生物説・CIAとUFOなんていう項目が並んでいて、その中にちゃんと「ユング
とUFO」という項目があったんです。*(゚o ゚;)*
 冗談半分にその部分を見てみると、何とびっくり! その文章を書いているのは、あ
の文芸評論家の四方田犬彦氏だったんです。昔はこのようなことも書いていたんです
ねえ…。(^_^;)
 
 この文章には次のようなリード文が付いています。
 
  ──客観的に物質が存在しているという近代科学の主張自体が一つの信仰であり
 仮説だ。物質は人間が認識しない限り存在しないのだから──。認識論の視点から
 UFOに挑んだ心理学者ユングに筆者が四次元世界でインタビュー。
 
 ここでわかる通り、この文章はユングとの仮想の対話という形式で書かれていま
す。偶然なのか意識したのか、この方式というのは期せずして「人格化して語りかけ
る」というユング心理学的な手法であるように感じます。
 さっと目を通してみると、実のところ結構まとまっていて、こういった雑誌に寄稿
する文章にしてはかなり良心的な内容でした。特に、1978年当時に、ここまで内容の
文章を書くというのは、なかなかではないだろうかと思います。そこでこの文章の全
文を、ここでちょっと皆さんにご紹介したいと思った次第です。
 
 
 なお、以下の本文中“ ”で括られた部分は、原文では傍点によって強調されてい
る部分です。
 
──────────────────────────────────────
 
 ──ユング博士、私は先程、あなたが1961年に亡くなられた後で刊行された全2巻
1400べ−ジにわたる書簡集をペラペラめくっておりましたが、最晩年の10年間だけ
でも、博士がちょっと信じられないほどの多量のUFO書簡を残されたことを知り、
今さらにあなたのUFOに賭けていらっしゃった情熱の大きさに驚きました。
 
 ユング 私が『現代の神話・空飛ぷ円盤』を執筆したのは1958年だったと思うね。
あれを完成し終えた直後には、心が一時動転したことを憶えてるよ。何かが私の無意
識のなかで新しく発生したような感じだったな。
 
 ──同じ年に啓示的な夢を体験されたと聞きましたが、どのような夢でしたか。
 
 ユング 今でも忘れられない、実に不思議な夢じゃった。2つのレンズの形をした
金属性のUFOが、私の家の上を越えて湖の方へブーンと飛んでいくんだね。私がそ
れを何げなく家の中から見ていると、今度は別のUFOが私の方へ向かって飛んでく
るんだ。こいつは完全な円形で、4〜500メートルのところまで来て、しばらく留まっ
た後どこかへ行ってしまった。その後でもう1台来た。これはレンズ状で、なんだ魔
法の幻燈機のレンズじゃないか、後に幻燈機の話がついてるじゃないか、と思った。
 
 ──へえ−。
 
 ユング それからが面白いんだ。その幻燈機が映している映像が実は私である、と
いう気になったんだよ。半分夢から醒めながら、うつらうつらと考えていたんだ。私
たちは、UFOが私たちの心の投影だといつも考えているのだけれど、今や私たちの
方がUFOの投影になったんだ。私という映像は、魔法の幻燈からC・G・ユングと
して映しだされた姿に過ぎないのだとね。けれど、じゃあ映画技師はどこでどのよう
に器械を操作しているのだろう。それでまたうつらうつらしてると、彼が実は瞑想に
ふけっているインドのヨガ行者だという気になった。ああなるほど、彼が夢を見、私
とはその夢なのだ。彼の目が醒めた時、私は現世から存在しなくなっているだろう
と。この夢は、自伝に書く前に、UFOの夢を知らせてくれた友人に交換に手紙で知
らせたよ。
 
 ──博士は最初フロイトの弟子として精神分析の発展に努められたのですが、やが
てフロイトを離れ、独自の分析心理学の道を歩まれたわけですね。こうした経験主義
的で冷静な理論的研究の後ろに、今語っていただいたような神秘主義的な体験が強い
影を投げかけていたとは、非常に興味深く思います。『自伝』を拝見いたしますと、
幼ない頃から一生を通して、多くの超自然的事件を体験なさってますね。
 ところでUFOに関する博士の研究ですが、一体どのような契機で始められたので
しょう。私には、当時世界有数の知識人である博士がかくもUFOに傾倒され、その
見解が、発表された20年後の今日でも少しも色褪せず、むしろ前衛的積極的な意見
として評価されていることをうれしく思います。
 
 ユング ありがとう。私を自分のひい孫の世代である君にそう言われてうれしい
よ。現代の若者たちが理性の最先端を極めるあまりに、心理的貧血症にならぬとよい
のだがな。
 そう、私がUFOを研究しようと思ったのは1949年だった。いわゆる近代科学の
因果論的思考を越えて、新たな認識論的モデルを築こうと、錬金術の古文書を探索し
たり、中国の易経による占いを実践してみたりした頃じゃったな。ちょうどUFOが
脚光を浴びたのはあの頃ではなかったかね。
 
 ──1947年に目撃者ケネス・アーノルドが手記の中で「フライング・ソーサー」と
いう語を用いた時からでしょう。
 
 ユング あの忌まわしい第2次大戦が連合国側の勝利で終わり、アメリカとソ連を
両極として地球という球体が2つに分裂したのと同時期にUFOが全世界的に登場し
たことが問題だね。UFO目撃者が目撃者を呼び、噂が噂を呼んで、しだいにUFO
神話というものが形を取っていくのを傍から逐一観察しているうちに、私はどうやら
これは鉄のカーテンの存在とも相関しているような印象も持っていたのだよ。
 
 ──そう言えば、昔は、UFOは敵の秘密兵器であるという説が、資本主義圏と社
会主義圏を問わず叫ばれた時期もありました。
 
 ユング 1950年にジェラルド・ハードの『地球は狙われている』を読んで、非常に
面白かった。UFOは、私のような心理学着から見て、全人類的規模で脅成的な問題
だと、すぐさま判断したよ。
 
 ──心理学と言いますと?
 
 ユング 人間は皮膚の色が黒かろうが白かろうが、解剖してみれば同じ骨格をしと
るだろう。私は心の方も同じだと考えた。意識の表面では人間はみな別々なのだが、
無意識の暗く深い底では同じ構造を備えていると睨んだわけじゃ。
 人間は眠っている間に夢を見るね。私は医師として何十年の間、分裂症や神経症の
患者の夢を集め、そこに何か法則性が存在しまいかと考えてきたのじや、人間はなぜ
夢を見るのか、その夢は何を目的として無意識の奥底から意識の表面へと浮かびあ
がってきたのか、ここにはその人間にとって重大な意味が隠されているはずじゃ。夢
枕とか夢のお告げもあながち嘘偽りではない、と学問的に証明しようと理論を組み立
てたのだ。
 そのうち少しずつ夢の文法が解けてくると、人間は心理的に分裂感や不安を感じ、
悩んでいる時期にはその分裂を再びまとめ上げ心に全体的調和をもたらすために、無
意識的に丸いものとか球体を夢に登場させてしまうという仕組みに気づいたのだ。ヨ
モタ君は円を見てまずどう思うかね、完璧にまとまっとると感じるじゃろう。三角の
ように尖ってないし、触れても怪我をすることもない。円とは人間の心理において、
完全なるもの、統合的なものの象徴なのじゃ。心が混乱した現代人の夢や神経症の患
者の妄想に、何度も何度も円環のテーマが登場するのは、円によって心の秩序を回復
し人格を再統合しようと、無意識が意識に働きかけるからじゃな。
 
 ──そう言われてみますと、人類の長い文明史の中で円は常に高い地位にあったと
思います。中世のキリスト教では、中心ハイタルトコロニアルガ円周ハドコニモナイ
円球というのが神の定義でしたし、古代ローマの理想都市にせよ近代のユートピアに
せよ、すべて円型でなければいけませんでした。
 
 ユング 君の国の密教でいう胎蔵界曼陀羅も円環の重ね合わせをモデルとして宗教
的黙想へと人を導く装置だろう。円とか球というのは、全人類的規模において無意識
が所有している“かたち”なのじゃよ。私は、UFOが円形をしていると人から聞い
た時、すぐにこういった事実を思い出したね。
 
 ──ユング博士はズバリ言って、UFOが実在するとお考えですか?
 
 ユング 実在していないのかも知れないし、実在しているのかも知れない。そして
同時にその両方であるかも知れない。UFOに関してはこの3通りの立場があるじや
ろう。
 まず物理的に実在していないと仮定してみよう。キーホー少佐の体験記を読んだ頃
には、私は目撃者が多いわりには撮影された写真の数が少ないことを不思議に思っ
とったね。UFOが全く根拠のない噂でありあるいは集団幻覚だとしたらどうだろ
う。鳥の影の誤認でもよい。この時、UFOは物理的には実在していないのだが、や
はりその実在を熱狂的に主張しあう群衆の内面においては心理的な意味で確実に存在
しておる。この神話が、世界が冷戦状態に入った途端に、雨後の竹の子のように世界
各地で発生したことを考えてごらん。現代人は心の底で円形のUFOの存在を信じた
がっているのだ。
 
 ──渾沌と化した地球に、上空からスーッと完全な円球が降りてきて、全人類的規
模の救済を行う。こういった希望が無意識のうちに働いているわけですね。
 
 ユング この欲動を横尾忠則のように意識している人もいるし、逆にUFOなど絶
対に存在しないとムキになって主張する御仁もいよう。
 
 ──統計的には後者の方に、ある日突然、UFO体験をしてしまい動揺をきたす人
が多いですね。まさかあの人が……といった生真面目で常識的と判断されている市民
が、その後で熱狂的な肯定論者となるのも、抑圧されていた無意識が解放されたから
でしょうか。
 
 ユング だから巨大なUFO神話の背後には、世界に失われた円球的統一性を回復
させようといった宗教的心性が働いておるのじゃ。円盤に連れ去られたとか、恐ろし
い姿の宇宙人と出会った、という証言をよく考えてみれば、現実の地球の生活の混乱
したあり方に失望してどこか別世界的存在に救済を求める欲望と、それに対する禁忌
的恐怖が二重に焼き付いとるわけだよ。たとえUFO体験が睡眠や入眠幻覚によるも
のでなくとも、こうした無意識的欲動に基づいている以上、夢と同質のテクストとし
て、その隠された意味内容を探ることができるわけじゃ。
 
 ──ではUFOが物理的に実在していたとしたらどうなりますか。
 
 ユング その場合も同じじゃ。問題はその物理的存在に対する人々の反応の形だ
ね。もちろん私は天文学者ではないから学問的に確証はできなかったが、専門の心理
学をヌキにしても人間の認識のあらゆる水準において、UFOの客観的実在ははとん
ど疑いの余地のないことだよ。
 
 ──現実に宇宙人が地球に舞い降りてきたらどのような事態が生じるでしェう。
 
 ユング そうだね、他の星の人間と接触した時点で人類は、今まで自分でも気づか
ずにいた傲慢に気づき、「人間が人間にとって狼である」ような絶望的な情況に反省
の眼を向けるじゃろうな。私はF・ホイルの『暗黒星雲』とかJ・ウィンダムの『呪
われた村』といった小説を晩年愛読していたのだが、ああいったSFには、意識の貧
血症的迷路に陥った芸術的小説にはない高級な神話的思索があると感じたね。
 死ぬ前にはひと通り錬金術の問題もキリスト教の象徴体系の研究も解けてしまって
ね、ただ一つ解決できなかったのがUFOじゃ。私はひょっとしてUFOは機械的構
造を備えている物体ではなく、あれ自体で一種の生物ではないかと考えていたことも
あった。まあ、どちらにせよ、私は実在説に対して異を唱える気持はないね。ただ前
にも言ったように、現在の不十分な資料の段階で、はやくも簡単に実在を結論づけ
て、おとぎ話を声高に語りまわる現代人の心理のはうが興味深いということだ。
 
 ──先程、UFOについては3通りの立場があるとおっしゃられたのですが、最後
の1つとは何か教えて下さい。
 
 ユング これは人間の認識論にかかわる問題じゃ。詳しくは私が現代量子物理学者
のパウリ君と一緒に書いた『自然現象と心の構造』(海鳴社)を読んでほしいん
じゃ。この本で、私は、物事を実在する・しないの二通りに分けてしまう今までの科
学の考え方は駄目よ、と主張したのじゃ。人間の心の内側にある主観が外界の世界を
見て認識するという、近代の思考はもう古いのだね。Aが超きたからBが起きる、と
いう直線時間的因果率的考え方も狭い狭いと言ったのじゃ。そんな風に考えているか
ら、現代の科学はどこまで行っても、ESPや占星術の効力を科学的に証明できない
のだね。
 
 ──すると現代の科学が認めようとしない偶然の一致などというものは、本当はど
うなるのでしょう。
 
 ユング そこだよ、そこ。私は偶然の一致という現象にこそ、主観・客観という硬
直した二分法を越えた深い意味があるのだと思うね。仮にだよ、人類が意識下におい
て円環の到来を激しく希望しており、そこにちょうどぴったんこに物理的実在として
のUFOが到来したとしたら、この偶然の一致は一体誰によって操られていることに
なるのだろうね。それが誰なのかわからない、という点が大切なのじゃ。
 
 ──博士がごらんになったUFOとヨガ行者の夢と同じですね。私は、昔の中国の
哲人の話を思い出します。彼は夢の中で蝶に変身したことを後で思い返してひょっと
して今の自分とは、あの蝶の見ている夢に過ぎないのではないか、一体自分と蝶のど
ちらが本当の私なのかしらん、と迷ったのでした。
 
 ユング だから夢と現実とか、“あなた”とか私とかを厳密に区別しないで、物事
を認識したはうが、人間はより大きな自由を獲得できるわけじゃ。君が今話したこと
は、『荘子』に登場する話だな。私も老荘の道教思想は体質的に親しみを感じるね。
 
 ──J・ニーダム先生によれば、道教は科学的思考を積極的に取り込んだ世界唯一
の宗教だということですが。
 
 ユング なるほどねぇ。私は、UFOを解明するためには、逆に、科学は道教的思
考を大いに取り込まねば絶対に解けないと言っておきたいね。第一、客観的に物質が
存在しているという近代科学の主張自体が、一つの信仰であり仮説なんじゃよ。物質
は人間が認識しない限り存在しないのだし、その人間の意識は無意識と相関しあって
いるのだからね。物質などひょっとして、全て無意識から外部の世界への投影だと言
ってもいいくらいなのじゃ。ちょうど君にとって、すでに20年前に死んで現世には
物理的に実在していない私が、ホラ、君の限の前にすわってモナカをつまんでいるな
んてね。私は君の無意識の投影なのじゃろうナァ。
 
 ──新約聖書のコリント前書を思い出しますね。「今われらは鏡をもて見るごとく
見るところ朧(おぼろ)なり。されどかの時には顔を対(あわ)せて相見ん。今わが知ると
ころ全からず、されどかの時にはわが知られたる如く全く知るべし」
 
 ユング かの時には顔を対せて相見ん、か。フム、まさに<未知との第三種接近遭
遇>じゃな。君は今年の春のフリードリッヒ展は行っただろうね。画面の中央深奥の
球体(太陽や十字架)への感想を促す彼の絵画は、まさにスピルパーク監督の『未知
との遭遇』の救済志向にぴったんこじゃろう。この位の広い神話的視点にたたんと、
UFO現象は解明できぬと私は信じとるね。
 
 
(注釈)
 
ユングと錬金術
 ユングは自分の分析心理学の中世におけるモデルを錬金術の中に見た。『心理学と
錬金術』『神秘の結合』などの晩年の難解で大部の著作の中でユングは、男性と女
性、黒と白、塩と水銀といった相反するものの一致の原理に基づく錬金術は人間の意
識と無意識の統合をすぐれて象徴しているとし、錬金術師の求めた「賢者の石」はユ
ング理論の「自己」に他ならないとした。
 
ジョセフ・ニーダム
 1900年ロンドンに生まれ、ケンブリッジ大学で生化学を専攻、後に中国に赴き、中
国の科学と技術について研究、とくに道教に造詣が深い。
 
カスパール・ダヴィド・フリードリッヒ
 17世紀末〜18世紀前半のドイツの画家。当時ドイツ・ロマン主義の牙城のひと
つであったドレスデンを主な活動の舞台とし、特異で象教的な風景画を数多く残し
た。
 
──────────────────────────────────────
 
 「UFO出現!」「宇宙人とコンタクトを取った!」「宇宙人に実験された!」
「UFOの動力は反重力エネルギーか?!」 …というようなことを延々やっている雑
誌の中に、「現在の不十分な資料の段階で、はやくも簡単に実在を結論づけて、おと
ぎ話を声高に語りまわる現代人の心理のはうが興味深いということだ」というような
ことがさらりと書いてあったりすると、何だか面白いです。゙(^◇^)゙
 四方田氏はどんな思いでこの文章を書いていたのでしょうね…。(^_^;)
 

 
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