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ブナ観察紀行(白神山地・岳岱〜藤里駒ヶ岳)

エゾアジサイギンリョウソウオオカメノキヤマブキショウマアキノハハコグサヒメジョオンハクサンシャクナゲニッコウキスゲ何だろキンコウカウラジロヨウラクミヤマナラミネカエデゴゼンタチバナヨツバヒヨドリシシウド?タカノツメ?ショウキランナワシロイチゴウバユリネジバナヒルガオヒメアカタテハキカラスウリメマツヨイグサ|


《プロローグ》

 ブナ林を見て回るとしたら白神山地は欠かせない。ほぼ1年前に行くことを決めて準備を進めていた。『ブナとブナ林を見に白神山地へ行く』、この言葉を何度話したことだろうか。言わばこの言葉がこの山旅を作った。

【日 程】:1995年7月19日夜(水)〜23日(日)
【山 域】:白神山地(秋田県側)
【山 名】:(藤里)駒ヶ岳 1,157.9m
【ルート】:7/20木 岳岱〜黒石沢登山口〜藤駒(田苗代)湿原
      7/21金 〜駒ヶ岳〜樺岱ピーク〜樺岱登口〜猿ガ瀬
      7/22土 〜熊の岱
【天 候】:7/20木 曇り一時雨、7/21金 晴れ(頂上時々ガスに包まれる)
      7/22土 晴れ
【メンバー】:単独
【地 図】:田代岳、中浜(5万分の1)。弘前(20万分の1)
【タイム】:下記(…は乗り物、〜が歩き)※自然観察モードで参考にならず。

 7/19 自宅(大阪西淀川) 17:10〜阪神千船 17:20…JR大阪駅 17:45…
  水 (JR寝台特急日本海1号)…

 7/20 06:25 東能代駅 06:55…(各駅)…07:11 JR二ツ井駅 07:25…(秋北
  木 バス)…07:55 藤琴 08:30…(タクシー)…09:30 岳岱風景林(一周
    半観察)〜岳岱の北端 12:24〜12:37 林道に出る 12:43〜13:30 休憩
    (昼食) 14:00〜林道終点 14:03〜黒石沢登山口 14:13〜藤駒湿原に
    入る 14:24(観察)〜16:00 テント場(キャンプ)

 7/21 テント場 06:35〜東又方面分岐 07:03〜08:17 樹林帯を抜ける(休憩)
  金  08:45〜09:05 駒ヶ岳山頂 09:33〜トラバースに入る 10:25〜10:33
    休憩 10:40〜樺岱ピーク 10:45〜11:06 休憩(写真) 11:25〜ブナ平
     11:42〜12:10 樺岱登山口(昼食) 13:10〜林道出合 13:13〜林道分
    岐(小岳方面) 13:28〜越路林道分岐 13:42〜14:14 休憩(水場)
     14:28〜取沢林道分岐 14:29〜内川林道分岐 14:50〜小滝橋 15:10〜
    バスに便乗 15:15…15:30 猿ガ瀬園地キャンプ場(キャンプ)

 7/22 猿ガ瀬園地 05:15〜茂谷スカイライン分岐 05:43〜05:56 素波里ダム
  土  06:11〜06:30 素波里神社入口 06:43〜田園地帯に入る 07:05〜橋家
    バス停 07:14〜07:32 熊の岱 08:12…(秋北バス)…09:00 二ツ井駅
     09:46〜10:47 追分駅 11:24…(JR)…12:04 男鹿 12:43…13:13 門前
     14:30…(遊覧船)…15:10 男鹿水族館 15:40…(バス)…15:50
    桜島バス停〜16:00 男鹿桜島荘(泊。FBMAN1の全国オフ出席)
 7/23 男鹿桜島荘 06:40…(タクシー)…男鹿 07:23…(JR)…08:26 秋田駅
  日  09:15…(リムジン)…09:55 秋田空港 10:40…(JAS592)…関西国際
    空港 13:00…(リムジン)…13:45 阪神尼崎 13:50…14:15 帰宅

 「白神山地に行く」と言いながら、何故か日本海に突き出ている男鹿半島が行程に付け加わっている。これには少々説明が必要かと思う。一つの動機が「白神山地行き」。もう一つの動機が「ビジネスマンフォーラム(FBMAN1)の全国オフ出席」。そして「山も海も好きである」という性格と、いったん動いたら、何倍も楽しもうという欲張りな性格が、この旅に起因している。形は『みちのく一人旅』ではあるが、実はそうではない。

 過去のFYAMA とFBIRD ぷるねらの山行報告も読ませていただいた。数々の友人から、白神の新聞記事や雑誌の紹介も戴いた。ブナ原生林を保護する団体のこと、現地のパンフレットや地図、現地に連載された白神の話題なども頂戴した。これらを読むにつけ、さらに白神への思いがたぎった。

 山の中では、鳥や動物、植物も仲間。風や花や昆虫も友達。海に出たら、カモメやフナムシも友達。森や大海原は母であるかな?。情報を寄せていただいた友人の顔が浮かぶ。男鹿ではそういう人達との出会いもあった。そう、一人旅であって一人ではなかった。


《7月19日/夜汽車にて》

 昨夜準備していたザックに野菜や肉などの食料を詰めて自宅を出る。帰宅する通勤客を尻目に山行き姿で通り抜ける。JR大阪駅で切符を買うのは時間がかかる。もちろん特急寝台券は購入しているが、乗車券はまだ。勤務地が変わったこともあり、うまく調達できてなかったのだ。入場券を調達して、遥かみちのく行きの「日本海」に乗り込む。窓から眺める向かいのホームは通勤客でごった返している。

 会社を昼過ぎで抜けて、買い物して帰宅、風呂に入って食事してと慌ただしい思いをしたなと、ホームで調達した缶ビールを、ゆるりと呑み始める。窓の外には、並行して走る満員の通勤電車が写っている。出発直前に届いた現地の白神山地の新聞記事を読みながら、もう心は現地へと飛ぶ。しばらくして車内販売の幕の内弁当と缶ビールを調達すると、もう睡魔に身を任せる。

 4時30分に起床。もう外が明るくなっている。初めてのみちのくだが、あいにくの雨らしい。小雨程度か外が濡れている。羽後本庄に止まる。おばあさんが一人、ホームで待っている。じいさんが一人降り立ち、にこやかにホームを歩いていく。朝早い出迎えとは心が暖まる。ふたたび新聞記事に目を通す。見てると係員さんが駅に着く前に一人一人、起こして回っている。こういう風情は良いものだと思いながら、昨夜買っておいた弁当を食べる。電車からは日本海がよく眺められなかったが、後日に楽しみを残しておこう。

 東能代で特急日本海を降りる。朝早くに現地に着くブルートレインは有り難い。1日が有効に使える。トイレを借りて顔を洗う。新しくて手入れが行き届いているとは有り難い。秋田杉の展示も鑑賞して青森行きの各駅停車に乗り込む。この辺の電車はボタンを押して乗り降りするようになっている。冬も夏も無駄のないように工夫されているようだ。


《7月20日/鎌田孝一さん》

 二ツ井駅に降り立つ。生徒が多く慌ただしい。駅にはスジギボウシが咲いている。バスはどこから出ているのかと確認していると大粒の雨が降ってきた。雨の中を真名子行きのバスに乗り込む。乗客は自分一人。山行きの格好を見て、運転手さんが声をかけてくれる。大阪から来た、岳岱を見て駒ヶ岳に登る、特急日本海に乗ってきた、などと話していると、藤琴の鎌田写真館に是非立ち寄るようにと、家まで教えてくれた。

 鎌田写真館のすぐ手前のバス停で降ろしてもらったが、ちょっと探索にと手前に戻る。町役場やタクシー会社を確認して、おもむろに鎌田さんを訪ねる。しばらく鎌田孝一さんと談笑する。ブナの話や鳥取大山に行ってきたことや奈良・大峰の話をする。FYAMAの宣伝も(笑)。岳岱に関するパンフレットを頂戴し、岳岱の様子、樹齢 400年と思われるブナの位置も教えていただいた。おまけに岳岱から駒ヶ岳の登り口でキャンプする場所はないだろうかなどと質問して、キャンプサイトまで教えていただいた。

 傍らにはブナの鉢植えがある。オオバブナではない。盆栽だからとのことだった。自分の予定をお話すると、帰りのタクシーも予約しておいたらと、薦められたのだが、ありがたく聞き流させていただいた。天候不順の中の自然観察であるし、どこで予定を変更するかもわからない。制約を受けて行動に支障が出ても困るし、もともと歩くつもりで来ているから。そして次の日にもお会いするとは思わず、お礼を述べて辞したのだった。


《7月20日/岳岱風景林》

エゾアジサイ 町役場に立ち寄って登山届を行ない、新聞店で朝刊を調達してタクシーに乗る。太良峡には天然の秋田杉があるというが通り過ぎてしまった。料金、\7,290を支払って、運転手さんの『熊には注意してくださいね』という声を背に、岳岱教育風景林に入る。入口にはアジサイが咲いていた。どうやら、エゾアジサイらしい。さっそく雨が降ってきて、雨のブナ林を観察とする。ここは1周30分と聞くが、自分はゆっくり見て回りたい。

ギンリョウソウの実 傘をさしながら、ブナの二次林、杉の植林を過ぎるとブナ原生林が広がる。トチノキ、サワグルミ、ホオノキと姿が見える。岳岱内の標識がある。見上げるとオオバブナだ。落ち葉だけでなくブナの実も落ちている。殻だけでなく実も入っている。キノコ類が数々あり、その横には、ギンリョウソウ?が白くポツンとまん丸の実をつけて立っていた。「岳岱は白神の森、自然の宝庫」などという言葉が思い付く。

 いつしか岳岱の東の端に来ている。大粒の雨が降っているらしく、はるか上の方でバタバタと雨音がする。が、傘にはほとんど落ちてこない。ブナは葉で雨を集めて幹を伝って落とすという。しばらくすると幹が濡れてきた。北の端にザックを置き、別の道を入口へと戻る。西の端には水場があった。「岩のトンネル」という場所もあり、そこではブナが大きな石を跨いで立っていた。

 最初の標識があるところに戻り、すぐ近くにあると鎌田さんに教えていただいた樹齢400年のブナを見る。何本ものブナが寄り集まったような輪郭があるのは太いブナの常だ。このブナにはコブもあった。岳岱で、ブナによく絡み付くイワガラミとツルアジサイ、ツタウルシが見分けられた。ツタウルシは3出複葉。ツルアジサイは飾り花が4枚に対してイワガラミは1枚花。ちょうど花の時期であることも幸いした。

オオカメノキ ブナだけでなく、オオカメノキやハウチワカエデの葉も大きい。雪深いところの植物の特徴だ。「オシダに花か?」と記録していたら、図鑑によるとどうやらヤマソテツのようだ。ここ岳岱の林床には笹がほとんどない。これも西日本と違う特徴のようだ。雨が続いているようで、清水の流れも心なしか生き生きとして感じられる。そんな岳岱を楽しんで、北の端から続く山道に足を踏み入れる。


《7月20日/藤駒湿原へ》

【岳岱奥の出口周辺で出会った花たち】左から、ヤマブキショウマ、アキノハハコグサ?、ヒメジョオン。

ヤマブキショウマアキノハハコグサ?ヒメジョオン

 岳岱の北の端からの山道を抜けると林道に出た。少し登ったので暑い。雨も止んだ。シロツメクサ、オオバコ、ニガナ?が咲き誇っている。フキも、いっぱい。少し休んで黙々と林道を歩く。岳岱ではホトトギスの声を確認しただけだったが、林道歩きでもウグイスのみ。雨が降っていたこともあり、出足は遅いようだ。サワグルミが見事に花を咲かせている。ちょっとパンでもかじるかと一休み。モンシロチョウとトンボが飛んできた。どうやら鳥も鳴き始めたようで、シジュウカラの声が聞こえる。なんとなく生き生きとしてきた。

 歩き始めると林道の終点に着いた。仮設トイレがある。ウグイスの声が近いなと思って探すと、木のてっぺんで鳴いていた。さらに歩くとオオバクロモジだ。葉っぱが大きい。確認にちょっと枝を戴く。良い香りだ。ノートに挟んで持ち帰ることにする。やがて駒ヶ岳登山口に着く。左手に幅の狭い林道が続いているが、これはどこまで行くのか…?。

 藤駒湿原に入ると、木道がある。ハクサンシャクナゲが咲き終わろうとしている。湿原一帯にニッコウキスゲが多く、最後の花を咲かせようとしている。ほとんどは緑色の実をつけていた。夕刻でもあり、なんとなく寂しい湿原に見えた。木道を過ぎたところでザックを置ぎ、カメラと双眼鏡を持って戻る。ゆるりとしているとモズの類。姿からアカモズか。「腹白、頭と背は白っぽい茶色、羽根が濃い茶。尾も濃い茶で縦にゆっくり上下。鳴き声はギチギチギチ、チョン」と記録していた。

ハクサンシャクナゲニッコウキスゲ

何だろ?何だろ?

 そのうちにアオジか?。「くちばし黄色、顔は黒、背茶、胸黄色。鳴き声はピンヒヒヨチヨ」と記録していた。足の長い黒筋の入ったバッタやハクサンシャクナゲから蜜を集めているミツバチがいる。黄色の花を総状につけたキンコウカ、ピンク色の壺状の花を残しているウラジロヨウラクがある。白花を咲かせたモミジカラマツもあった。湿原の中でミズナラの葉?と思ったら、低木だからミヤマナラのようだ。アサノハカエデか?と思っていたら、どうやらミネカエデなんですね。花が見られなかったのは残念。戻ってザックを背に進むと、まだ湿原は続いていた。中州だったわけだ。

キンコウカウラジロヨウラク

ミヤマナラミネカエデ

 湿原の奥に沢がある。どうやら藤琴川の源流か。この辺りにとテント場を求める。ここでまたギンリョウソウの実?を見つける。ブナの下にテントを張って、さあ食事だ。沢の水が有り難い。何やらガサガサと音がするが、熊ではないだろうな〜。洗って水を切った米に沢の水を入れて炊き、ブタ汁を作る。昨夜電車の中で買った缶ビールを飲む。至福の時だ。豚肉を味噌でくるんで持ってきたが、ちょっと辛いブタ汁となった。野菜は玉葱を入れただけでコッヘルにいっぱいになった。満腹となり、すぐに寝いる。

 夜に雨が降ってきた音で目覚める。フライを適当にかけていたから、ちゃんと張った。そこそこ降っていたのだろうが、ここはブナの下。直接には雨が落ちてこないのが有り難い。雨は気にもせずにふたたび寝いる。明日は、どんな天候なんだろうか。


《7月21日/藤里駒ヶ岳へ》

 4時過ぎ、まだ雨が降っているのかと起きる。ポツリポツリと音がしていたが外に出るとたいしたことない。もう明るくなっているし、外で朝食とする。昨夜炊いた御飯に、茄子・獅子唐を炒めて食す。キュウリは丸かじり。お焦げを食べていたら歯の詰め物が外れた…。ウグイスとシジュウカラの声が聞こえる。みかん2個も食す。林の中だが、5:23に日の出が見られた。なんと晴れ!有り難い。予定どおり歩を進めよう。日が差し込む中でテントを撤収し、出発とする。

サンカヨウの実 すぐ近くに、ハリブキのふさふさした赤い実がある。ヤツデのような葉に鋸歯があり、茎に刺がある。横にはサンカヨウの青い実。実の上に、うっすらと白い粉をまぶしたようになっている。この2つが薄暗い林床に目立った。この辺りにはネマガリダケが多い。オオカメノキの葉が大きいなと1つ戴く。緑色の実をつけているが、その花柄が赤くてサンゴのように美しい。蕾のときから秋の赤い実がなるまで楽しませてくれる木だ。エンレイソウも実をつけていた。ヤマソテツの花?もある。アジサイも緑色の蕾をつけている。鳥の声がする。「ヒーフィッ、ヒーフィチッ」何だろうか。

 そろそろ沢の音を後にして登りにかかる。倒木にはキノコが生えている。ブナにはツルアジサイとツタウルシがからんでいる。見上げるとホオノキに緑色の実が。正面には、ツルアジサイの花が、もう寿命を終えた木を覆っている。やがて東又方面への分岐である。どうやら峠で、足元には一面にオオバコが生い茂っている。尾根道に入ると、細いブナの木が1mほどの高さまでに1回転している。不思議なものだ。

 広めの尾根筋に細いブナが密集している。左右ともだ。鳥取・大山に登った時に、こんな風な景色があり、これが大山の特徴かと思ったのだが、二次林はこんな風になるのかもしれない。少し登るとシラカンバが林立している。シラカンバは伐採した跡などに一斉林を作るという。種族の繁栄方法がそんな環境に合いやすいようだ。しばらく登ると針葉樹が見え出す。杉らしい。ウグイスの声を聞きながら、以前に手入れされたのだろう、丸木の階段が続く道を行く。カッコウの声が聞こえるころ、辺りがブナになってきた。

 ハウチワカエデに多くの翼果が見られる。何度か見掛けたのはタカノツメだったかと思い返しながら登る。すると、樹林帯を抜けた。見晴らしが良くなったら休憩にしようと思っていたから、まずは重たいザックを降ろす。目の前には駒ヶ岳が見える。日が射して暑い。ガサガサと動物の動く音が。先のブナの木の上にニホンザルを見つけた。2匹が日向ぼっこをしていたようだ。双眼鏡で眺めると、どうやらこちらに気付いているようで注目している。足元を見ると、コイワカガミの葉か?。後ろでガサガサ音がするので、どうやらサルの群れが居るのだろうと双眼鏡で見回す。

 居る居る。木の上で休んでノミ取りしている姿も見えた。10匹ぐらいの群れか?。上を見ると、ブナがたくさんの実をつけている。どうりで多くのブナの実が落ちているわけだ。しかし、今頃実を落とすのだろうか。少し早くないのかな?などと思う。トンボが飛んでいる。羽根の先が黒いものとそうでないものとが居る。どうやらマユタテアカネか?。しばらく休憩していたが、サルの居る方向に進まねばならない。「ごめんなぁ〜」などと言いながら歩を進めると相手も動きだす。ところが10mほどに近づいても逃げないサルも居る。双眼鏡で先の木の枝に居るサルの真っ赤な顔をしげしげと眺めた。本当に真っ赤な顔をしていた。

ゴゼンタチバナ 足元にはゴゼンタチバナが群生していた。なるほど6枚葉に花が咲き、4枚葉には花がない。そしてその「花」らしき白い4枚は「総苞片」であり、本当の花は真ん中に集まっているという本の記述を思い出す。サルも気になり、ハエも多いので、よく観察することを忘れてしまった…。ミヤマナラがここにも生えている。左手を見ると、小ザルも居る。ふと見ると、登山道に緑緑しいフンがある。サルのものだろう。自分が動くたびに、回りでサルがガサゴソ動いていたが、これも終わり。どうやらサルのテリトリーを過ぎたようだ。

 間もなく駒ヶ岳山頂に至る。「駒ヶ岳山頂 標高1,157.9m」とある。方位盤も備え付けてあった。すでに南の方角は少しガスが出てあまり見えない。北側はよく見えたので、あれが岩木山かと確認できた。写真を撮っているとサッとガスが出てきて、南側を中心に視界が閉ざされた。残念ながら白神岳は確認できなかった。ここは二等三角点なんだなとガスに覆われて少し涼しくなった山頂を跡にする。これからちょっとした痩せ尾根の縦走だ。左側が切れ落ちている。間もなく二ツ井山の会のポストがあるピークを過ぎる。

【藤里駒ヶ岳頂上付近で出会った花たち】左から、ヨツバヒヨドリ、シシウド、タカノツメ?

ヨツバヒヨドリシシウドタカノツメ?


《7月21日/樺岱コースを降る》

 ロープや鎖のあるまっすぐの降り道があったが、道が崩れていて降りにくい。過ぎて一安心すると、山の斜面にニッコウキスゲが咲いている。ヒガラがやってきた。「ジュクジュクジュク、ツピン!」と。「フイッ、スイッチョ、ピピピ・・・」と鳴く声もするが姿が見えない。トラバース道に入ると樹林帯だった。さて後は下りだ…と言いつつ、そこはブナの森。ウグイスの声を聞きながら休憩したり、ゆるりと降りる。樺岱ピーク辺りで歩きやすくなり、ピッチが上がる。

ショウキラン と、ショウキランを足元に見つけた。もちろん写真に収める。高木はブナ。白神山地は純林が多いと聞いたがそのとおりだ。その次にハウチワカエデやイタヤカエデ。またその次にはネマガリダケとオオカメノキ。ササユリの葉に似たのはオオバユキザサのようだ。シダ類も生えている。とにかく見上げる高木は、ブナ・ブナ・ブナ。まだ登山口に着かないのかと思う頃、ブナ平に着く。この樺岱コースも自然観察で利用されるのか、「ブナ」「シナノキ」「サワグルミ」「ヤチダモ」「トチノキ」などの標識が見られる。ツッピンツッピンというヒガラの声を聞きながら降る。

 昼飯をどうするべかと思う頃、ようやく樺岱登山口に出た。林道に出ると暑い。ブナの森では涼しく感じられたのだが…。林道の先に、車が2〜3台止められる広場がある。そこで昼食とした。うどんを作って七味を入れる。ソーセージとコンビーフもマヨネーズをつけて食す。鳥が姿を見せないなと思ったら、ヤマガラが姿を現してくれた。


《7月21日/林道歩き》

 さて残るは林道歩きだ。鳥見しながらでもゆるゆると歩こう。イチモンジチョウとヒヨドリに出会い、ウグイスの声を聞きながら快調に歩く。途中、小岳へ向かう林道もあった。岩盤のコケの上を清水が流れているのも風情が良い。マタタビだろう白い葉が目立つ。メジロの声もする。1ピッチで水場があり、休憩とする。うまい水だ!。キジか何かが林道の横から飛び出た音がしたが、姿は見えなかった。鳴き声はキジではなかった。カラスアゲハが飛び去った。青い筋が美しいチョウだ。モンシロチョウも飛んでいた。オオルリとヒグラシの声もする。

 「うちかわはし」と銘打った橋でカケスを見た。この道は次々と林道が分かれていたり、橋がある。岳岱の前でタクシーを降りて以降、誰とも出会わない。ま、平日のことでもあるし、こんなものだろうと林道歩きを続ける。ヤマブキショウマの雄花がある。水たまりに、おたまじゃくしがたくさん。「こたきばし」を過ぎたころ、後ろからエンジンの音が。どうせトラックだろうとやり過ごすと、なんと中型の貸切バス。こんな平日に何事か?と思っていると、角を曲がって止まったのか、一人降りて近寄ってきた。

 『良ければ乗りませんか?』と。有り難い!。お礼を言って双眼鏡を下げたままの格好で乗り込むと、なんと目の前に鎌田さんの顔があった。ひょっとして昨日、コースを話していたから止めてくれたのかもと感謝する。岳岱の様子や感じたこと、昨夜キャンプした場所などの話をする。バスの前には「自然保護課」との表示があった。どうやら小岳に調査に赴いていたのかも知れない。ちょうど猿ガ瀬園地に立ち寄ったので、そこでお礼を申し上げてお別れした。


《7月21日/猿ガ瀬園地にて》

 猿ガ瀬園地では、ショウブ、アジサイ、ニッコウキスゲが咲いていた。ゆるゆると園地を眺めて、キャンプの申し込みを済ませてキャンプ場へ。しばらく紅茶缶で喉を潤して駐車場で休憩とした。鎌田さんの乗ったバスが通り過ぎるのを見送ってテントを張る。ここは芝生が敷いてあり、シラカンバが一列に植えられている。今日もたった一人のキャンプだ。ハシボソガラスがごみ箱をあさっていたので食事には要注意だ。

 重いザックを持ってきたのだ。食料に不便はしない。茄子・玉葱・ニンジン・ししとうをベーコンと炒める。持ち歩いていた酒 500mlのポリタンクを取り出して宴会だ。「白神山地の開放キャンプ場にて白山の酒を呑む」。炒めものを2度に分けて作って、大いに呑んだ。シジュウカラも鳴いていたが、夕暮れの中、ガマガエルとハシボソガラスの声の合唱というのは、少し寂しい。昨日タクシーで通過した山向こうのクミル台キャンプ場が良さそうだったと思う。明日も早くから林道歩きが必要だ。もう寝るとしよう。


《7月22日/車道歩き》

 3時45分に、鳥の声で目覚めた。ガマガエルは一晩中ないていた……。ヨタカの声が聞こえる。ホッホッというツツドリの声も聞こえる。川の向こうからカタカタカタとキツツキ類の音がするが確認のしようがない。みかんを2個食べてテントを撤収、借りていた証拠のクマゲラの絵を描いた看板を返して出発とした。2時間ぐらいは歩くことになろう。

 飾り花一つのイワガラミの花、ヒヨドリ、ホオジロが見えた。何やらワシ・タカ類が飛んで行ったが確認できず。オアオ〜・アオというアオバトの声も聞こえた。素波里ダムで休憩。キセキレイ、ハシブトガラス、アオサギを見た。風が吹き通り寒いくらい。この素波里湖はカモも居なくて寂しい湖だ。

 再び歩き出してすぐの橋でオオルリの声。近いぞとどこで鳴いているのか探す。橋に並行したワイヤーロープに留まっていた。双眼鏡で、じっくりと観察。「ヒヒコーヒヒ、ヒーヒーコーコー」と。オオルリはこの「ヒー」という鳴き声が何故か物悲しい。手帳には「腹白、顔・首黒、背瑠璃色、尾黒。飛んだ白斑が美しい。頭瑠璃色、胸黒」と書いていた。一度は近づいたために飛んだのだが、歩いて行くうちに戻ってきて、2度楽しませてくれた。

 素波里神社の前の車道で、ノイチゴ(ナワシロイチゴか?)を見つけて、少々戴く。1つ味わって後は袋に。甘酸っぱくて美味しい。太陽も出たので暑くなりそうだと独り言。茶色いトンボが飛んできた。ミヤマカワトンボだ。「おさわたりばし」の手前でウバユリの蕾か、固まっていた。渡って車道を登りきると、目の前に田園風景が開けた。ツバメが飛んでいる。田圃の傍らで談笑している人達がいる。「端家」というバス停があったが、すぐ先の熊の岱へと歩く。熊の岱バス停は休憩所となっていた。先程のノイチゴの残りを食す。キセキレイを見掛けたが、ハシブトガラスとツバメが多い。

ナワシロイチゴウバユリの蕾

【田園地帯で出会ったもの】左上から、ネジバナ、ヒルガオ、ヒメアカタテハ(蝶)、キカラスウリ。

ネジバナヒルガオ

ヒメアカタテハキカラスウリ



《7月22日/男鹿半島へ》

 熊の岱で予定どおりのバスに乗る。幼稚園児が4人、乗り込んできた。おばあさんも一人。話し掛けられるが適当に「駒ヶ岳に登ってきた」と適当に答える。なにせ方言でチンプンカンプン(笑)。このバスは利用する人がそこそこいて、田舎の大切な交通手段のようだ。二ツ井駅に戻り、男鹿までの切符を買う。追分駅までの田園風景は、流石に米どころだ。

 追分駅で男鹿行きの電車を待つ。時間があるので外に出る。通りに薬局があったので「虫刺され」の薬を買う。ニッカホースのところが蚊に刺されてかゆくて仕方がないのだ。ずいぶん刺されたから。直前に購入した新品のニッカホースなのだが、昔のように分厚いものはなくて薄い。蚊に刺されやすいのも、そんな理由からだろう。困ったものだ。前では生協の建物で、何か賑やかにセールをしている。ジャンボフランクを 100円で調達して食す。これにビールがあれば最高なんだが、ここは押さえて紅茶缶で喉を潤す。

 男鹿行きの電車に乗り、男鹿からバスで門前へ。時間があるので門前港でウミネコを鑑賞した。足元にはフナムシが居る。丘の上にはハシブトガラスとツバメ。男鹿半島を海から眺められる遊覧船に乗る。左手には日本海の大海原の眺め。右手には山がそのまま海に突っ込んだという風の岩礁地帯を眺める。あれが今日の宿の男鹿桜島荘かと眺める。やがて男鹿水族館に着く。30分ほどで走り見をした。人が多い。

【男鹿半島ではこの花がよく見られた】メマツヨイグサ

メマツヨイグサ

《温泉だぁ〜!》
 バスに乗って桜島バス停で降りる。ゆるゆると本日の宿の桜島荘に着く。まずは温泉にと思ったが、まだチェックインできない。ロビーで待っているとFBMAN(NIFTY-Serve )のメンバーが続々と集まる。51名が集まったそうだ。つーさんとも久しぶりの再会をする。同じく白神山地を狙っておられたのだが、仕事で諦められたそうな。まずは部屋にザックを収めて温泉へ。山の垢を落としてさっぱりとする。

 やがて恒例の宴会が始まる。白神山地の現地パンフレットを会社の同僚にまで頼んで手に入れて送ってくれた人、白神山地の現地新聞情報を切り抜いて送ってくれた人、白神山地に行ったのなら是非今度は鳥海山に来て欲しいと話してくれた人。初めてここでお会いするのに、ネットワークとは有り難いものだと痛感する。青森から駆けつけてくれた「ゆきのまち通信」の編集をされている方にもお会いできて、白神山地の話題は尽きなかった。この宴会のトピックスは、何といっても出だしの「なまはげ登場」だった。度肝を抜かれる始末(笑)。秋田の地酒は皆、旨かったし、来て良かった!


《7月23日/帰阪へ》

 朝5時過ぎに目が覚め、日本海を眺めながら朝風呂に入る。日本海を眺めながら朝の散歩。ハクセキレイ、ホオジロ、ハシボソガラス、トビ、ウミネコを見る。早い飛行機を予約しているので、一人タクシーで出立する。そそ、山くんが見送ってくれた。男鹿駅から電車に乗り秋田駅へ。リムジンが出るまでの間に、そそくさと買い物。お土産はヤマブドウの練り菓子。秋田の地酒「高清水の<からくち>」を1本送ってもらうことも忘れない。稲庭うどんも調達した。リムジンに乗って秋田空港に着くと、キリタンポ・ラーメンを食して機中の人となった。

 お土産のヤマブドウのお菓子を、こぶなが喜んで食べてくれた。家族を置いて一人、山旅に行ってきたのだから、これが何よりの慰めになったのは言うまでもない。親馬鹿である(笑)。
 長文のお付き合いをありがとうございました。


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