連用・連体修飾格の機能
2014.10.7 国分芳宏
副詞、連体詞、接続詞、間投詞の機能を説明するために、ここで再び連用修飾格と連体修飾格について述べます。名詞と用言の対応関係を「係り受け」といいますが、ここではこれを拡張して副詞と用言の対応関係も「係り受け」と呼ぶことにします。間投詞に代表されるような他の文節に係らずに、文を終了させる格を「独立格」と呼ぶことにします。ここでは動作の主体、対象などを示す格助詞によるいわゆる必須格と呼ばれる修飾格の説明は除きます。
連体詞、副詞はおのおの単独で一つの文節(格)を構成しますが、自立語がいくつかの付属語を伴って連用修飾格、連体修飾格を構成する文節があります。慣用句がそのまま連用修飾格になるものや連体修飾格になるものもあります。
例 誰言うともなく (連用修飾格)
持って来いの (連体修飾格)
その組み合わせは相当な数になります。このような組み合わせはよく使われるためか、メールや会話ではくずれた形のものも多数見受けられます。
例 ていうか、てゆうか、っつーか、てゆーか、ってゆーか、っていうか、
っちゅうか、てか、ってか
必要に応じて、連用修飾格にも、連体修飾格にもなる用語があります。
連用修飾格になる場合 |
連体修飾格になる場合 |
さっぱり (する) 制度上 (禁止する) きらきらと (輝く) |
さっぱりの (状態) 制度上の (問題点) きらきらした (表面) |
体言は助詞によって、連用修飾格になる場合と、連体修飾格になる場合とがあります。用言は連用形が連用修飾格になり、連体形が連体修飾格になります。
元の用語 |
連用修飾格 |
連体修飾格 |
独立格 |
単独の用語の品詞 |
副詞 |
連体詞 |
間投詞 |
名詞 時の名詞(副詞) 数量詞 副助詞による 接尾辞による 形式名詞による |
学校で 今朝 (食べた) 5人 (来た) 学校より(大きい) 制度上 精度のため |
学校の |
学校だ |
動詞 |
連用形 動いて |
連体形 動く |
動くよね |
形容詞 |
連用形 青く |
連体形 青い |
青いよね |
形容動詞
|
連用形 元気に 元気で 連用形 堂々と |
連体形 元気な 連体形 堂々たる |
元気よね |
接続詞 |
その上 |
といった |
|
副詞
一部の副詞に係れる用語に制約があります。この制約に注目して陳述副詞、様態副詞、程度副詞に分類します。この分類は排他的なものではなく、多義性のためもあって複数の分類に入る副詞があります。「陳述」という言葉はあまり聞きませんが、モダリティーと呼応するので呼応の副詞という言い方もあります。本書では他の書籍と一致させるために陳述副詞と呼びます。
例 なかなか素晴らしい。 様態副詞
なかなかない。 陳述副詞(否定)
また2つの受けを持つ副詞もあります。
例 あまり大きくない。
「あまり」は程度副詞として「大きく」が受けます。と同時に陳述副詞として「ない」も受けます。
様態副詞(ぐんぐん-上達)の係り受けが、陳述副詞(きっと-でしょう)の係り受けに囲まれた例
様態副詞
例 きっとぐんぐん上達したためでしょう。
陳述副詞(推量)
陳述副詞
モダリティーの意味が受けて、受けと組みになってモダリティーの意味を構成します。
例 どうせ、けっして、まさか、案の定 できない(否定)
ぜひ、できたら、 会いたい(願望)
きっと、おそらく でしょう(推量)
程度副詞
形容詞や一部の副詞が受けて、その程度を示します。
例 かなり 大きい
たいへん ゆっくり
比較の機能をもつ程度副詞もあります。
例 さらに 大きい
もっとも 速い
時間や空間の名詞が受ける程度副詞もあります。
例 ほとんど 正午に
すこし 上に
数量詞は程度副詞として働きます。
例 5本 多い
程度副詞を名詞が受けることがあります。
例 とくに 彼に頼む
誰より 私が仕事を
様態副詞
動作がどのように行われているかを示します。
動きを表す動詞が受けます。受ける動詞によって副詞を分類できます。
例 何とか、からくも、かろうじて やりとげる
なぜだか、何だか、どちらか、どうだか 分からない
どうか、ぜひ、すみませんけれど お願いします
全ての副詞が制約できるわけではなくどんな動詞も受けらる副詞があります。
例 よく、そのまま、すぐ、もう
擬態語も様態副詞に入ります。受ける動詞に制約があります。擬態語は形容詞が受けま せん。
例 ぺろっと、ぺろりと 剥がす、舐める、舌を出す
きらきら、ぴかぴか、てかてか 光る、輝く
自動詞と他動詞が対応している動詞の組があります。様態副詞は動作がどのように行われるかを示すものなので、自動詞か他動詞かによって係る副詞は変わりません。
ぴったり 閉まる(自動詞)、閉める(他動詞)
びしっと 決まる(自動詞)、決める(他動詞)
意志動詞しか受けない副詞と、無意志動詞しか受けない副詞があります。
例 自ら、一心に、必死に、活発に、進んで やる(意志動詞)
自ずから、自然に、何となく、ひとりでに なる(無意志動詞)
数量、時間に係る様態副詞があります。受ける動詞には制約がありません。
例 ほぼ 100本
ときどき 早い時間に
意味によってさらに細分できます。受ける動詞にもある程度の制約があります。この分け方は多岐にわたり、下記の例はそのごく一部です。
回数 およそ、だいたい、ほぼ
時間 いまさら、ずっと、ながらく
数量 たっぷり、たくさん、すこし
未来 ただちに、そのばで
過去 さっき、たったいま
困難 ようやく、からくも、かろうじて、なんとか、なんとかかんとか、
かんいっぱつ、いのちからがら
副詞(副詞句)の生成
副助詞により副詞が生成できます。
程度副詞を構成する副助詞
例 より 弟より多い
ばかり 5本ばかり多い
のみ 体重のみ少ない
ほど 5メートルほど近い
ぐらい 5年ぐらい遅い
~のように
形式名詞による生成
例 ~ため 書いたため
~のほか 調べたほか
~のまま 調べたまま
~あげく 調べたあげく
~さい 調べたさい
~かいなか 食べるかいなか
接尾辞による生成
例 ~よく 都合よく
~正しく 礼儀正しく
~上 制度上
~中 変換中
~以上 制限以上
~どおり 予定通り
時の名詞は副詞として働きます。接尾辞が時の名詞を作ります。
例 ~来 先週来
~末 先月末
~前 変換前
~以来 納入依頼
接続助詞による副詞の生成。副詞というより接続詞と考えたほうが良い場合があります。
例 学校だけれど
早朝なのに
副詞による係り受けの制約が構文解析の精度を上げるための手助けになります。
例 「てっきり飼っていた犬が死んだと思った」
てっきり─┐ てっきり────┐
飼っていた┐ 飼っていた┐ │
犬が┐ 犬が┐ │
死んだと┐ 死んだと┐│
思った 思った
間違った解析の例 正しい解析の例
「てっきり」という様態副詞は直近の「飼っていた」という動詞ではなくて、副詞との係り受けによって「思った」という動詞に係ります。
単独で連体修飾格になります。
例
大きな、小さな、おかしな
こんな、どの (こそあどによる連体修飾格)
ある、来る (動詞の連体形由来)
~に関する (拡張助詞による連体修飾格)
~すべき (助詞による連体修飾格)
ほとんどの場合、直後の体言を修飾します。複数の連体修飾格が連続した場合に前の文節が、直後の文節に係るか、一つ飛び越した先の文節にかかるかを判断するという問題が起こることがあります。
「白い頭の老人が」
「太った白髪の老人が」
前の例では「白い」という連体修飾格は「頭の」という文節か、「老人が」という文節かのどちらに係るかという問題があります。どちらに係るかは意味的に修飾できるかを調べて決めます。この場合でな「白い」という文節は意味的に「頭の」には修飾できますが、「老人が」という文節は修飾できないので「頭の」に係ります。
一方後ろの例では、「太った」という連体修飾格は意味的に「白髪」には係れませんので、「老人」にかかります。
エピソード
皆さんもご存じの佐佐木信綱の和歌です。
ゆく秋の大和の国の薬師寺の塔の上なる一ひらの雲
佐佐木信綱
この和歌は七つの連体修飾格が順次直後の文節に係り、
最後の2つの連体修飾格が「雲」に係っています。
ゆく
秋の
大和の
国の
薬師寺の
塔の
上なる
一ひらの 雲
その時点での内容を継承して、後ろに関係付ける機能を持つ用語を接続詞といいます。
係り受けの受けになることはありません。あえて言えば、前の文全体を受けています。直前には句読点などがきます。
下の例では「その」の部分を連体詞としてより小さい形態素に分解することもできますが、構文上の働きが異なるのでまとめた形で全体を接続詞と考えます。
例 その上、
その一方、その一方で
という
接続助詞がついた形の接続詞があります。
ところが
書いたにもかかわらず
構文上の強さは強くなります。
例
では
すると
とはいえ
あるいは 注 「AあるいはB」というときは複合助詞で構文上の強さも
強くありません。
連体詞のように体言を修飾する接続詞もあります。
と言われる 「と言われる(事件が)」
と言った 「と言った(話が)」
文字列的には、文末と同じ形をしているものが多く見受けられます。前文をそのまま繰り返すのを避けて、文末だけを残って前の文全体を省略したとも考えられます。文中にあるときとはアクセントが異なるものが見受けられます。下段が接続詞のときの発音です。
例
文末 依頼すると イライスルト 学校でしょう ガッコーデショー
接続詞 すると スルト でしょう デショー
接続詞は大きく次の7つの意味に分類できます。これと同じ意味は様態副詞の分類にもあります。
順接 従って
逆説 だが
添加 さらに
対比 一方
転換 さて
同列 すなわち
補足 ただし
間投詞
独立して他の文節と係り受け関係を持たず、それ自体で文を終了させる用語を間投詞と呼びます。
例 あはは
あれれ
ヤベー
挨拶の用語も間投詞です。
例 おはようございます。
間投助詞、終助詞で終わる文節も間投詞と同様に独立しています。
例 天気だよ。
彼は元気だよ
不明の用語は別稿「日本語の文の仕組み」を参照されたい。
ご興味のあるかたはお問い合わせください。
参考図書 朝倉日本語講座 5 文法Ⅰ