ノボノルディスクファーマ東京本社の皆さん,東京女子医大糖尿病センターのS先生お世話になりました!

  ステノ糖尿病センタ−における栄養教育と日本での現状との比較  

                       
抄録
  第42回世界保健総会が,1989年5月行われ,糖尿病が失明,心疾患,腎疾患等の重篤な合併症を併発する慢性疾患で,かつ,治療費が高額な疾患であるということが確認された。1)
 糖尿病の治療の目的は,糖尿病的代謝状態の是正を通じて,長期的には糖尿病性合併症(網膜症,腎症,神経障害,動脈硬化症,脳卒中,心筋梗塞など)の発症を予防すること,あるいは,進展を抑制することにある。
 つまり,糖尿病の治療においては,一生にわたり,治療を続ける必要があることを患者に理解させることが,非常に重要であると言える。  
 また,我々医療従事者は糖尿病治療の基本は食事療法にあり,適正なカロリー摂取と栄養配分により,肥満の是正とインスリン感受性を改善させることが重要であると,認識している。
食事療法をおろそかにして,良好な血糖コントロ−ルを得ることは不可能である。
 今回,デンマークに渡り,ステノ糖尿病センター病院を始めとして,一般のクリニック(開業医)での研修の機会が,与えられた。
ここでは,日本での糖尿病に対する患者教育とデンマークでの糖尿病に対する患者教育を,栄養教育の見地から比較検討してみたいと思う。

Abstract
Compare the education of diabetic patient in Japan and that in Denmark

  The 42th World Helth Assembly was held in May ,1989. It recognized that diabetes is achronic disease with severe complications of blindness,heart disease and kidney disease,andthat diabetes is a disease which needs high costs for its treatment. The goals of diabetes treatment are ,in long term,to privent of suppress the progression of diabetic complications, such as retinopathy ,renal disease,neuropathy,arteriosclerosis,cerebral apoplexy and myocardial infarction,through the correctionof diabetic metabolism. In other word,It is most important for the diabetic patient to understand the importance of the life-long treatment.And ,as medical or co-medical workers,we understand that the base of diabetic treatment is diet therapy,with which we can manage obesity and improve insulin sensitivity throughthe intake of appropriate calories and appropriate nutrient.It is impossible to get good blood sugar level without diet therapy.This time ,i had a cance to visit Denmark to study the treatment of diabetes at the Steno DM center and at general clinics.Here,i would like to compare the education of diabetic patient in Japan and that in Denmark,in the aspect of f diabetic education.

キーワード/Keywords
 食事療法,食品交換表,個人指導,集団指導,自己管理

デンマ−クの医療
 デンマークの医療制度は,原則的に無料であり,保険方式ではなく,税金による財政保障によるものである。
 開業医〓家庭医とも呼ばれるドクターが地域の外来医療を担っている。国民は,全員自分の家庭医が決まっており,家庭医のクリニックにおいて,いわゆる一次医療が行われる。
 ここから,病院を紹介され,さらに検査,治療がなされる。これが,二次医療と呼ばれている。
 家庭医では,簡単な血清生化学検査,X線検査,ファイバー等の検査を行い,そして簡単な処置をも行う。ある一般的なクリニック(家庭医)でのスタッフは,医師2名,看護婦2名,秘書2名という配置で行われていた。
 患者数は,週4日の診療で100〜150人程度であり,原則的にどんな患者でも診察し,場合によっては次の二次医療である病院へ紹介する。
 精密検査,入院ベッドの状況などを,コンピューターを使い,インターネットで情報を送り,患者を紹介,依頼する。 逆に病院が,検査と治療の結果を一般開業医に返信したり,治療についての提案も行う。

 写真1家庭医の診察室風景

このため,適切な二次医療が行われ,入院日数を短期間に抑えるという目標を達成する努力がなされている。これにより,今日のデンマ−クでは,保健,医療費を少なくすることが可能となっている。 ヨーロッパでは1000人中1〜3人がIDDMに罹患している。NIDDMは少なくとも,その10倍以上とされている。
 デンマークでの,罹患率は,人口5166,000人のうち,1.9%に相当する105,000 人がNIDDMであり,デンマークの糖尿病の84%を占める。また,IDDMは,人口の0.3 %に当たる20,000人が,罹患している。
 糖尿病については,全国健康管理計画の中に糖尿病治療に対する全国的な計画があり,家庭医がNIDDM患者を管理し,健康センターがIDDM患者を管理している。
 病院は,糖尿病教育センターとして作用し,人口50万人に一か所ずつ配置され,糖尿病患者に対して最善のケアがなされている。
 デンマークでの糖尿病治療において,18歳までの子供に対して必要なものは,無料であり,この他,教育,インスリン療法が無料である。
 また,低血糖症状に対する費用の75%や,シリンジ,血糖測定用ストリップや,血糖モニターの50%は,払い戻しがなされる。2)

ステノ糖尿病センタ−のシステム
 Steno Diabetes Centerは1932年に糖尿病治療専門病院として設立された病院である。
 ステノ糖尿病センターでは毎年5-6,000 人の患者を治療し,そのうち7-800 人が新患者である。
そして,このSteno Diabetes Centerでは,23床のベッドを有してはいるが,糖尿病治療の80%以上を外来治療として,患者の自己管理の増進を図っている。

 写真2ステノ糖尿病センターの受付け外来ロビ−

 このステノ糖尿病センターでの治療の重要な点は,その糖尿病患者に対する継続した教育と捉え,2〜5日間の集中した入院治療には,管理プランが用意され,通院患者や在宅患者にも,必要な教育が与えられるようになっている。ここでのスタッフには,医師,看護婦,foot-care(足治療士),栄養士,ソーシャルワーカーがいる。
 医師は総数32名,このうち,5名が chief−Physicianとして教授,部長職に就いており,また,眼科医,産婦人科医,整形外科医,心臓血管医などの専門医が,週2回もしくは,月1回専門外来で診察するために他の病院から派遣されている。
 ここでの看護婦は,糖尿病の教育訓練を受けたteaching nurseであり,22名で,入院,外来をローテーションで交替し,ケアに当たっている。入院患者14名に対し,日中には3名の看護婦が,夜間には2名の看護婦が対応している。外来患者に対し,24時間対応できる看護婦が,ローテーションで電話応対も行っている。
 栄養士は3名で患者の栄養教育に当たっている。
また,foot-careは医師の資格ではない,ヨーロッパでの専門的な技師である。
足外来では足底圧検査がなされ,糖尿病性神経障害の初期症状を見つける努力を行っている。
入院でもやはり,振動覚検査を行い,深部知覚異常を初期の段階で検出している。
  ソーシャルワーカーは,糖尿病患者が社会福祉給付金を受ける相談にのり,また,患者の財政的な問題に応えている。
 
 写真3ステノ糖尿病センターの足外来風景

日本における患者に対する栄養教育の現状
 患者に対する栄養教育の中心となるのは,食事療法であると言われる。日本での糖尿病の食事療法の歴史は,多くの変遷を辿っている。
 糖尿病の病態生理が明確にされるとともに,その応用として,様々な試みがなされ,血糖のコントロールの改善を目指していたと伺える。3)
 例えば,NIDDMについて考えてみると,過体重を伴うNIDDMにおいて,内因性あるいは外因性インスリンの血糖低下作用に対する抵抗性が存在することがわかって来ている。ここで,低カロリーあるいは,カロリー消費増大,あるいはその両者により過剰な体重が減らされると,血糖値や,インスリン受容体数や組織のインスリン感受性は普通正常に戻る事が,知られている。4)わずかな減量でも,血糖値の改善がみられることもあり,NIDDM患者において,エネルギー制限食では体重減少をみる前にBSコントロールの改善がみられたと言う報告もある。5)
 さらに,疫学調査からみた糖尿病発症の栄養因子として,飽和脂肪の摂取増加と食物線維の摂取低下が,インスリン感受性の低下と耐糖能異常を引き起こすことが示唆されている。6) 
 このように正しい食事への修正をなすこと,つまり食事療法が糖尿病の治療においては欠くことのできないものである。
 NIDDMの食事療法の原則は,糖尿病の原因となっていた食生活を見直し,正しい食習慣へと導く事である。そのためには,まず,過去の食習慣の過ちを見出だし,変容させることより,始める。患者の人柄や性格,家庭環境,日常生活はもちろん,過去の食習慣の把握することを患者と一緒に行い,患者が問題点に気づくように行う。
 患者自ら認識できなければ,食事療法を実行することは,可能とはならない。
このため,まず糖尿病と診断された患者が積極的に治療に取り組むことができるように行うことが重要である。こうした個人指導の中で,問題点について患者自ら自覚することに加え,患者自ら,心に浮かぶ疑問についても理解することも多いようである。
 つまり,なぜ糖尿病になったのであろうかということから始まる,糖尿病という病気に対する疑問,また,血糖値とは何か,薬だけで治るのかという疑問,さらに,インスリン注射が始まると重症糖尿病であるのかという疑問,合併症についての疑問,また,どのようにすれば,早くやせられるのか,また,どの食品を選ぶことで早く治ることが可能であるかという疑問,いわゆる民間療法的な考え方についての疑問。
 このような患者の疑問に対し,一緒に一つ一つ答えを見出だしながら,患者に自覚を持たせ,具体的な正しい食事療法へ導く必要がある。 
そのあたりから,糖尿病の食事療法とは何か,どの食品をどのくらい食べると良いのかという疑問に対する解答のひとつとして,日本糖尿病学会編の食品交換表7)を使用することへ導く。
あくまでも押しつけで話すのではなく,患者自ら動機づけを成し,食品交換表7)を活用し,食事療法を実行するように持って行く。
 日本糖尿病学会編の食品交換表では,食品を栄養素により,6つの表に分類し,食品重量や目安量が示されている。各表の交換基準単位は,食品の常用量またはそれに近い数値を用いることを一応の目安に,1単位80kcalとしている。
つまり,一日摂取エネルギー1200Kcal(15単位)を適正に各食品群に配分するとバランスのとれた糖尿病基礎食が構成され,必要な栄養素の不足はないとされている。
実際の使用に際しては,この基礎食に付加食として個人の好みや外食の場合など食品の交換が可能となっており,患者に対し,とても便利なものとなっている。
 日本の多くの医療機関がこれを用いて患者教育に利用している。
 食事の処方は患者の病態に応じて医師が行い,具体的な栄養指導は管理栄養士が行う。東京都済生会中央病院の場合での外来教室(糖尿病教室)では,新患指導として食事療法の基礎から始まり,食品交換表7)とその使い方,そして食事計画,献立,盛り付け,調味料と続く。さらに,油の使い方,既製食品,外食のとり方へと進み,教育を行っている。所要時間は20分から30分ほどかかるという。松岡らが1989年に調査した結果によると,全国550施設の定期開催している外来糖尿病教室の1シリーズは平均4回で,1回の授業時間は平均1.5時間であるという。8)
 患者にとって集団指導のメリットは,対象者同士の連帯感から,病気に対する不安が解消されることであり,ライバル意識が生じることで教育効果が上がる9)ことであると言われる。
 しかし,集団指導では個人特性が無視された指導になるなど限界があり,総論的な内容は糖尿病教室のような集団指導で,個々の問題は個人指導で教えていくのが良いとされている。
 患者本人がカロリー計算ができるように“目安量”を学ぶ必要がある以上,継続的な栄養指導が必要である。したがって,定期的に数日間の食事記録表を書かせ,食事内容をチェックすることも大切であると言える。
 また,食事療法に対する動機づけが得られなかったケースでも,集団指導(糖尿病教室)でうまくゆくことが多い。継続的な指導を必要性を考えると集団指導の実施も不可欠といえる。
 日本では以前より集団指導を行っている病院もたくさんあり,増えている現状ではあるが,全体的にみると実施は十分とはいえない。平成8年4月の診療報酬改正で集団栄養指導料が新設され,医療機関による積極的な取り組みが期待されているところである。

ステノ糖尿病センターにおける栄養教育
 ステノ糖尿病センターのNIDDM 患者の80%は過体重であり,ほとんど食事療法における自己管理ができるように管理されている。指導方法は,個人指導と集団指導があり,外来においては主に個人指導とし,入院では集団指導を主に行っている。
もちろん,入院中でも個人的な問題に対応できるように個別指導が行われる。
 いわゆる教育入院では4〜5日間の期間に組み込まれ,週ごとにIDDMの食事療法,NIDDMの食事療法,肥満の人のための食事療法などを講義している。
 糖尿病患者に対して,年齢別に分けて教育することもあり,キッチンでの料理教室にあっては対象年齢も6歳から11歳と,12歳から20歳まで,つまり小児糖尿病と若年型糖尿病とに分けて行うこともある。
 小児糖尿病患者の場合,両親と参加してもらい,クリスマス,イースターなど行事を共に楽しむ様にしている。例えば,イースターの際には,イースターエッグにペインティングを一緒に行うなどしている。
 若年型糖尿病患者の場合,インスリン療法をマスターする。料理を作ることはもちろんだが,登山をしたり,散歩をするといった集団指導が行われる。
 
 写真4ステノ糖尿病センターの教育キッチン

 ●食事計画
 デンマークの食習慣では朝食のデニッシュパンから始まり,豊富な種類を持つチーズなどの乳製品を食べ,昼食はサンドイッチであり,コーヒータイム,もしくは,ティータイムにはケーキやクッキーもしくは,チョコレートが出される。夕食は,鰊の酢漬け,小海老,コールドミートのハム,ローストビーフ,またはチキン料理,ポテト,サラダ,デザートと続き,夕食後にはやはり,ケーキが提供される。乳製品,特にチーズが朝食から夕食まで出され,チーズのほかバターの摂取量も多い。
 デンマーク人は肉や脂肪の取り方が多く,デニッシュパン,ケーキ,ポテト,ピザなども好んで食べるため,炭水化物の摂取量も多過ぎ,NIDDM患者の80%が過体重(over weight)であり,いかに糖質を抑え,低脂肪で低カロリーにできるかを教育のポイントにしている。

■理想体重及び栄養所要量の設定
患者と個人面接を行い,栄養所要量が決められる。栄養指導を通しながら運動量,嗜好の傾向を掴み,決定する。
栄養所要量の目標値は炭水化物は全エネルギーの50〜60%,脂質は全エネルギーの30%(多価,一価不飽和脂肪酸10%ずつ,飽和脂肪酸10%),たんぱく質は20〜50%に設定している。
 炭水化物については摂り過ぎを抑えるために,デニッシュパンは甘くないものに,ケーキは,普通の白い食パンに変えることを勧める。そして,白い食パンをライ麦パンや全粒粉パンに変えることを勧め,ファイバーの摂取を促している。
 脂質はいかに30%に抑えることができるかなど本(小冊子)を利用して教育している。 さらに,小児糖尿病患者の場合では,炭水化物について,一日摂取量とその内容を重点ポイントとして指導している。

 ■患者教育の媒体
本(小冊子タイトル A Diet for Diabetics- General Advice)10) ,フードモデル,キッチンでの料理教室,ビデオ,(タイトルlow fat and fiber)を使用することもある。
“A Diet for Diabetics- General Advice”10) を紹介したい。
 1)糖尿病の栄養の実際について
*食事療法は糖尿病治療の中で重要な要素であり,インスリンや服薬の薬物療法を補うものである。*過体重であれば,食事療法をしなくてはいけない。
*脂肪が明らかなものと明らかでないものの両方とも,より減らして食べる。
*ライ麦のパン,全粒粉パン,その他胚芽パンや,米,パスタ,ポテトを食べる。
*野菜は食事の都度,なるべく食べる。
*魚,鶏肉,そして,赤身の肉を食べる。
*果物は一日に多くて2切れから3切れまで食べる。
*牛乳は一日に多くて2杯までにする。
*食事は一日5〜6回に分けて取る。
*普段の料理では砂糖は除く。     
*アルコールを多量に飲むのは止める。
 2)糖尿病患者のための正しい食事
*パン,穀物の種,米,ポテト,そしてスパゲティについて
 ライ麦パン,全粒粉パン,他の粗びきのパンが勧められる。ふるったライ麦粉や小麦粉から作られているパンやロールパン,食パンは少量にするべきである。
 例えば料理には肉汁を使い,小麦粉を使わずソースを作る。
*野菜は生野菜や調理した野菜をなるべく毎食に食べる。
*フルーツは毎日多くて3切れまで(およそ300-350gまで)にする。
*牛乳製品は多くて2杯まで(およそ4dlまで)にする。
*チーズは低脂肪のチーズを食べる。
*肉,鶏肉,魚,卵について。   
 脂肪の少ない肉や鶏肉,そして挽き肉は多くて脂肪分12%までのものにする。  
 肝臓や他の種類の臓物肉を食べる。全種類の魚,水やトマトで煮て作られた魚の缶詰を食べる。  脂肪の少ないスライス肉,鶏肉や魚を食べる。脂肪分10〜12%のレバーのパテやソーセージ類を食 べる。卵は一日1個までにする。
*脂肪では,パンにつけるバターもしくはマーガリンには低脂肪の植物性マーガリンをできるだけ使う様にする。料理には特に少量に抑える。 
*甘味料では,人口甘味料は,例えばチクロ,サッカリン,アスパルテームそしてアセチルフェイムKを利用する。
*飲み物について 
 水,コーヒー,ミネラルウォーター,または砂糖なしの清涼飲料水や,砂糖なしのオレンジエードを。一日に砂糖なしの薄めたフルーツジュースは最大1杯か,2杯までにする。
 ビール,ワイン,スピリッツ(ウイスキー,ブランディー)も同じく1杯か2杯までにする。
 3)糖尿病患者の誤った食べ物(以下の食物は避けるべきである。)
*パン,穀物の種,ライス,ポテト,そしてパスタについて。
 ケーキ,ビスケットや膨らませた小麦の菓子 フランスパンや多量の他の白いパン
 クリスプ,チップス,また,フライドポテト等。
*野菜は,さとう大根,ピクルスしたきゅうり,例えば赤キャベツのような砂糖で煮た野菜を大量 に取る。ピクルス,また別な種類のピクルス。
*果物では,缶詰や砂糖漬けした色々なフルーツ。決められた量より多いフルーツ。
*乳製品は,決められた量より多飲する牛乳,また,クリームミルク,クリーム,ジャンケットなど。 加糖やフルーツが入った脂肪の多い乳製品。
*チーズでは,脂肪含有量30(17%)以上のチーズ,ホエーチーズ。
*肉,鶏肉,魚では,脂肪の多い肉類全部,普通のレバーパテやソーセージ。
*脂肪は,多量のバターやマーガリンや植物性油。マヨネーズ,サラダのマヨネーズ,
 加工されたサラダドレッシング。
*甘味食品では,砂糖の種類全部,例えば精製された砂糖,ブラウンシュガー,ブドウ糖。
 砂糖菓子,チョコレート,アイスクリーム,はちみつ,ジャムなど。
 砂糖で制約されない甘味料については,例えばフルクトース,ソルビトールである。
*飲み物では,砂糖なしも含めて,フルーツジュース,アップルジュース,普通のオレンジジュース,ミネラルウォーター等。非常に甘いテーブルワイン,デザートワインやリキュール。モルツビールや黒ビール。
 4)食事療法の勧め
*朝食では,粗挽きのパン(ライ麦のパン,全粒粉パン)に低脂肪マーガリンをつける。
 低脂肪チーズ。粥やオートミールは砂糖なしで,ただし,人口甘味料は良い。
 シリアル,砂糖の入らない同様なもしくは,モスリーを。
 スキムミルク,バターミルク(牛乳からバター分を取ったミルク)もしくは,低脂肪牛乳。無糖低脂肪ヨーグルト。野菜など。
*昼食では,低脂肪マーガリンをつけた粗びきパン,(ライ麦パン,全粒粉パン)。
 魚料理には例えば,にしん,サバ,まぐろ,えびを。
 低脂肪のスライス肉を使う,例えば,低脂肪の内容のハム,子牛肉,レバーパテ,または,ソーセージを。卵または,低脂肪チーズや野菜を。
 
 サンドイッチの手本としては正しい詰め物やパンの選択を勧めている。

 写真5 A Diet for Diabetics-General Advice のプレートモデル

*夕食
 じゃがいも,ごはん,スパゲティもしくは,パン。野菜は生か,調理されたもの。
 赤身の肉,魚のすべての種類を,少しの油または,マーガリンで揚げるか,とろ火で煮る,焼く,茹でるなどの調理をする。
 低脂肪のグレービーソース,野菜または,じゃがいものスープ,肉のスープ,牛乳ブイヨン
 そして,とうもろこし粉や小麦粉で濃くしたものに薬味を加えたものを。
 新鮮なフルーツもしくは缶詰/さとうなしの氷菓子を利用する。 
 
 プレートモデルにより,じゃがいもや肉,野菜の正しい配分量が勧められている。
*間食では,低脂肪マーガリン,バターもしくはマーガリンをつけた粗ひきのパン,できる限りかり かりに焼いたパン。低脂肪チーズやフィリングにする。また,砂糖なしのジャムを。野菜,たとえばフルーツを食べる。
*その他のものでは,水,ミネラルウォーター,砂糖なしのミネラルウォーター,オレンジエードを。 できる限り人工甘味料でコーヒー,紅茶,ハーブティーを。
 もし認められるならば,1杯のラガービール(弱ビール)か,2杯のグラスワイン,1杯のブランデーかウイスキー。
 砂糖なしの甘草のひし形チャンディー(低カロリーキャンディー),そして,チューインガムを。 
5)実用的な助言   
 プレートモデル
 食事を準備するために良い考えがあり,“洋皿で盛り分ける”というものです。
 次の通り:   
 1枚のプレートの半分にじゃがいも,ご飯,スパゲティ、もしくはパンを盛る。
 もう半分を野菜,肉,鶏肉または,脂肪のほとんどない魚と,低脂肪の肉汁で盛り分ける。
 サンドイッチモデル
 うす切りの食パンを食べる事が最も良い。低脂肪のマーガリンかバターを少しだけ付け,もし,あなたがどうしても必要と思うならば,フィリングは一部分だけにしなさい。
 加えて野菜か,精白しない小麦粉のロールパンとサラダを食べなさい。
 脂肪を切りつめる方法
*あなたが料理された食事を食べる時,いつでもプレートモデルを実践する。
*あなたが冷製の食事を食べる時,いつでもサンドイッチモデルを実践する。
*できるだけ少しの脂肪で料理された食事を食べる。
*チ−ズ,卵,魚,鶏肉,赤身の肉を食べる。
*牛乳は低脂肪の製品を飲む。
*マヨネーズや市販のサラダドレッシングは使用しない。
 砂糖を切りつめる方法
*コーヒーや紅茶には人口甘味料を使う。
*砂糖抜きのミネラルウォーターやオレンジエードを飲む。
*砂糖抜きのジャムを食べる。
*フルーツを食べる。
*チーズケーキやアイスクリームは低脂肪,低糖の製品を食べる。
*砂糖抜き,人口甘味料を使ったチューインガムやラーセンジ(糖のキャンディー)を食べる。
 アルコールを減らす方法
*ワインに水を混ぜる。
*少量のトマトジュースや砂糖抜きのミネラルウオーターを混ぜる。
*軽いもしくは弱いビール,アルコールを含まないビールをよく冷やして飲む。
*一日にいろいろなアルコール飲料は多くて二杯までにする。
*あなたが過体重であれば,アルコールは避けることが一番です。

考察
 前述のように,ステノ糖尿病センターの指導用パンフレットでは絶対的な数字,基準を指導として記載している訳ではない。あくまでも,相対的な数字,目安量であり,患者個々のケースに合せ易いものといえる。
また,必ずしも一方的に押しつけるものではなく,自己管理の重要性を示唆しているものである。患者教育も,患者を個人として捉え,個人面接により患者個々のファクターを考慮し,方向性が定められ,行われている。
このため,同じ患者に対し,何度も何度も繰り返し,個人指導が行われ,患者自ら足を運び,教育を受けるというオープンな医療がなされている。
外来患者の診察を待つ姿も,明るい雰囲気が漂い,日本の姿とは大きく異なることを感じた。
 また,エリスタウバ−ラッセン栄養士によると,糖尿病性腎症の患者の食事療法のために患者各一名に対し,一個の中華鍋をプレゼントし,中華料理による低蛋白食の実践を試みているという。 
 こうしたデンマークのステノ糖尿病センターでの経験と,今までの日本の病院での経験とを振り返ってみた。
 筆者が昨年二月まで勤務していた北海道小清水赤十字病院では集団指導はまだ行ってはおらず,個人指導がのみであった。栄養指導の疾患別の割合は,入院外来とも,糖尿病の占める割合は85%と高いものであった。小清水赤十字病院では内科,皮膚科,整形外科を診察科目とし,内科医三名が,様々な疾患の患者が来院するなかで,糖尿病患者に対し治療を行っている。
 このため,糖尿病治療において,ステノ糖尿病センターのように恵まれてはいない。
今の日本の地域医療の現状では糖尿病の患者に対する診察や教育にかける時間,スタッフの数も十分とはいえない。もちろん栄養士数も,今の日本では100床に対し栄養士は二名という数が一般的であるが不十分である。
 しかし,わたしたちはこの日本の現状の中で常に努力を続けている。
日本の一般的な地方病院ではオールマイティーが要求され,糖尿病患者にしても,初期の患者から,糖尿病歴の長い患者まですべてに対するケアが要求されている。
地方ということで,対象患者も高齢者が多いが,各患者個人の能力レベルに合せ,様々な問題点に一つ一つ対処することで,自己管理の重要性の認識に導かなくてはならない。 
栄養教育を押しつけるのではなく,教育効果を上げるために患者の心を知り,心理学的なアプローチを行ってゆくための知識と技術を私達医療スタッフは修得しなくてはならない。
 さらに知識や技術だけの修得だけでなく,様々な患者が理解しやすい方法や教材などの創意工夫も必要である。

謝辞

 今回,デンマークでの糖尿病の栄養教育を学習できましたことに,財団法人エム・オー・エー健康科学センターに深く感謝の意を述べます。
 また,原稿につきアドバイスを頂きました札幌慈啓会病院,仲野龍巳先生に感謝します。
 合せて,常に地域医療の点から糖尿病の栄養教育について,指導頂いてます北海道小清水赤十字病院,院長株本敞先生に感謝致します。


(澤入 房子,ステノ糖尿病センターにおける栄養教育と日本での現状との比較,RESEARCH REPORT FROM THE MOA HEALTH SCIENCE FOUNDATION,Vol.5.27-36.1996)

 


文献

1)馬場茂明.WHO糖尿病の予防.WHO研究班報告.1-2 .南江堂.1994
2)International Diabetes Federation,Triernnial Report(1991-1994)and Directory 1994  the 15Th IDF Congress. 74-76 .BLUSSELES.1994
3)Diabetes Journal 編集委員会.日本における糖尿病の歴史.234-254 .山之内製薬株式会社.東京.1994
4)山東博之,林正紀,河津捷二,岩本安彦.糖尿病患者管理の実際.77-79.メディカル・サイエンス・インターナショナル.東京.1986
5)伊藤浩子,牧野英一.食事療法−なぜ食事療法なのか.診断と治療.vol80. 1584-1589 .1996.
6)馬場茂明.WHO糖尿病の予防.WHO研究班報告.30-33.南江堂.1994
7)日本糖尿病学会編.糖尿病食事療法のための食品交換表第5版.日本糖尿病協会,文光堂.1993
8)松岡健平.糖尿病教室−開設から運営まで−総論・食事療法・運動療法.36-39.プラクティス別刷.医歯薬出版.
9)寺本房子.集団栄養指導の意義と限界.臨床栄養.vol89.22-25.1996
10)Diabetesforeningen.A Diet for Diabetics-General Advice .Odense . 1995

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