○三十路からの日本経済学入門2 〜飲食業編〜
その1 居酒屋修行始める(2000.5.2)
紆余曲折を経て、いよいよ居酒屋修行を始めることとした。ただ、今回は料理修行というより、居酒屋の経営術を学ぶことが主である。
いわゆる”就職(転職)情報誌”からチェーン展開する飲食関連企業をいくつかピックアップし、面接を受け、採用通知をもらった中から面接担当者の印象の良かった所へ入社を決めた。
総じて、飲食業界は就労環境としてはまだまだ立ち後れている。週40時間労働なんて言うのは夢のまた夢、正社員として募集している所の就労形態の多くは、1日11〜12時間拘束(内1〜2時間の食事兼休息時間を含む)、月4〜6日休日といったところだ。給料もお世辞にも良いとは言えない。
それでも、それぞれの会社が口にするのは、1,2年のスタンスで考えて欲しい、という事だ。いずれも数年の内に上場を画策しており、その為には従業員の福利厚生を始めとして、整えなければならない必須項目があるらしい。ちなみに私が入社したところも、今年の秋頃までには1日の拘束時間を11時間から10時間に短縮するという。
さて、私が配属されたのはチェーン店の中の渋谷店である。店の営業時間は夕方5時から翌朝5時までの年中無休、薄暗い照明にジャズが流れる中、客席数160席は枡席風に仕切られた掘り炬燵式のテーブルが特徴である。もっとも、当グループの主流は個室であり、最近オープンした店舗はすべてそのスタイルである。グループ1号店の為スタイルはやや古いが、逆に渋谷という場所には合った形であるかもしれない。
店の就労体系は、ホールとキッチンに2分される。それぞれ数名の社員と、学生やフリーターを中心としたアルバイトで構成される。
ホールの仕事は、営業前の仕込みと準備、営業中の接客、終業事の片付と大分出来る。それを、早番(13時〜24時)と遅番(18時〜翌朝5時)に分けて行う。
当面、私は早番の仕事を前任者から引継ぎ、完全に出来るようになることを求められている。というのも、ホール担当の社員が店長を含めて3人しかおらず、早番担当には1人しか当てられないからだ。
早番の営業前の仕事は、
・レジの立ち上げ、前日の釣り銭のチェック、必要に応じて両替
・店内の清掃(掃除機とモップがけ)
・食材その他の納入品の受け取りと梱包材の処分
・お膳のセッティング
・宴会のセッティング
・パントリーの立ち上げ(ドリンク提供の準備、お通しの盛付けなど)
・その他、仕事の合間に入る予約や納入業者の電話の受付
といったところである。休憩時間は3時半から1時間設けられているが、勿論仕事がこなせなければ、のうのうと休んでいる訳にはいかない。慣れないうちは結構時間との勝負で、食事がとれれば良いぐらいの感じだ。
で、5時からいよいよ営業開始となる。最も忙しくなる時間帯は8時〜10時頃だろうか。週末ともなれば、満席でウエイティング(空き待ち)もかかる。6〜7時台に入ったお客と、次のお客を以下にスムーズに入れ替えられるかが、売上げにも大きく影響する。
仕事を始めて2週間。立ち仕事の為、足を中心に体の痛みは続き、朝起きると一瞬動かせない程だ。でも一日のサイクルには徐々に慣れつつある。第一に今のところ、見ること、やることすべてが新鮮だし、その日その日が完結して翌日に前日の仕事を引きずらないのが精神衛生上、一番良いように思う。
”食”に関わって生計を立てるのが夢だから、帰り際に美味しかった、有り難う、又来るよなどと言われることは本当に嬉しいものだ。たぶん、そういったお客のリアルな反応が”麻薬”となって、飲食業に携わる人々を、いくら雇用条件が悪かろうがなんだろうが、この業界に引き留めているのではないかと思う。