○三十路からの日本経済学入門

その6 不動産屋への道(6)(2000.4.3)

 このページは2年ぶりに書くが、今回で一応の締めくくりとしておきたい。

・進退

契約社員としての期間が満了になったこと、また結果的に営業成績が振るわなかったことで、3月末をもって退社した。”営業マン”として反省すべき点も多々あったが、結局の所、不動産業に馴染みきれない自分を自覚するに至った次第。

まず、営業職について。当然ノルマなり予算なりといった目標が定められるが、所詮会社から与えられた目標でしかない。しかしながらその達成如何ですべて(場合によっては全人格までも)を評価される因果な職種である。従っていかなる営業職も理由無く勝ち負けにこだわれる事が資質として不可欠となろう。また、不動産仲介業の特質として、扱うものが一定ではないということがある。売買においては1千万のマンションも1億の戸建も、不動産仲介業としては仕事の質も量もほとんど変わらないのに、受け取る仲介手数料は10倍違い、そのままそれが成績の差となる。正直、同じ商品を扱って差がつくなら実力の差と納得も出来るが、扱う不動産の価格が違うだけでそれだけの差がつくというのも、自分が高額の物件を取引している時は良いが、その逆の場合は何ともやり切れない。

そして、不動産業界についてだが、2年前に感じていた違和感を払拭できなかった。退社する一因に、契約寸前にまで行っていた案件が壊れたことがあり、それは他社の”抜き”に遭ったのだった。”抜き”とは他者がほぼまとめていた話に割込み、自分の方に話を持っていくこと。道義的に許されないようなこんな行為も、不動産業界においては常(当然、私が居た会社の営業マンも逆の立場であれば”抜き”行為を行い、それについて特に後ろめたさは感じないようだ)である。自分はそこまでしてこの世界でやっていこうとは思わなかった。これを一例にしても、この業界で何のために仕事をしているかというと、お金のため、としか言うほか無いほど仕事自体にやりがいを感じることが出来なかった。

・何かを作る場に携わっていきたい

仕事にやりがいを求める、そのポイントは人それぞれだろう。それが自分にとってはお金では無く、目に見える達成感なのだ。結局の所、ものを右から左に動かし、それに対して一分の付加価値もつけないような仕事は消耗でしかない、常にむなしさが伴うのである。

商品にせよ、情報にせよ、それが形に残るにせよ、その場で消費されるものにせよ、何かしらを生み出している場に身を置いておきたい。それが、これから職種を見極める上での要素である。勿論、当HPが食に関するものである以上、そういった業界を第一に考えていることは言うまでもない。

・不動産仲介業の未来・”オンライン業者”構想

そんな訳で、今後積極的に不動産仲介業に携わるつもりはないのだが、ここの所の消費者の動向や情報産業の急激な発達を見据えた上で1つの構想を持っている。

インターネットは様々な分野で流通革命を起こしている。不動産業界も例外ではない。不動産に関する情報が不動産屋の扉を叩かないと得ることが出来ない時代は過ぎ去った。現にこの1年、インターネットで物件情報を見て、といった問い合わせが急増していた。

そういった時代で、いわば情報提供の代価として仲介手数料を法定金額(売買価格の3%)の上限一杯請求するのは時代遅れとは言えないか。

そもそも買い手から仲介手数料を取るのは世界的に見れば圧倒的に少数派(日本以外には1,2国)らしい。時代の流れとして賢いエンドユーザーは相手方との直接取引(物件に特に問題が無ければ司法書士による所有権の移転で事足りる)を画策するだろう。それに沿った戦略を考えて良い時期(というか既に遅い)に来ている。

余計な経費(店舗の開店・維持費、宣伝・広告費、人件費等)を削減出来るなら、仲介手数料は、売り主から法定手数料の半分ももらえば十分であり、買い主からはもらう必要がない。買い主から取るにしろ、パーセンテージではなく、調査費用とか売買契約書作成費用といった明確な項目に基づいた一定価格であれば、買い主も納得して払うだろう。

インターネットに特化すれば、以上のようなシステムの不動産仲介業は可能である。とりあえず”オンライン業者”とでも称しておこう。

不動産の売却にあたっては複数の業者に依頼する事が出来る(だからこそ前述のような”抜き”行為が横行するのだが)。売り主は従来の形で一般の業者に依頼しかつ、”オンライン業者”にも依頼する。買い手は、折込チラシや情報誌、各社から送られてくる資料などで物件情報を得ることもあろうが、”オンライン業者”の物件一覧に載っていないか確認する。当然、”オンライン業者”が扱っている物件であれば、そちらを介してという事にあろう。さらには、買い手から”抜き”の依頼があるかもしれない。売り主買い主とも、仲介手数料を節約できるのだから利害は一致する。”オンライン業者”は、いわば広告は他社にやってもらっているようなものである。

不動産取引は高額のものであり、専門知識を要することから、単に手数料の高い安いだけではない、仲介業者に対する信頼への代価という意味合いもあるだろう。だからこそ、”オンライン業者”は、宅建業者のみならず、権利関係を実務として司る司法書士、弁護士、不動産取引に密接する税金関係を司る税理士といった専門家集団を擁する組織である必要がある。しかしこれもオンラインであれば容易なのだ。それぞれ事務所を構えている専門家でも登録制にすれば参画は可能なのだから。

こんなことを考えていると、不動産仲介業もこの5年から10年で様変わりするような気がしてならない。その過渡期こそ、ビジネスチャンスである。

どなたか一緒にやってみませんか。