全駅間歩きのすすめ
(効能書きとマイルール)
 
 1.はじめに 

 皆さんは、どのような鉄道旅行をされていますか。

 明確な目的地があり、そこまでの移動手段として鉄道を使う旅行でしょうか
 明確な目的地があるわけではないが、鉄道に乗ることを目的とした旅行でしょうか。
 それとも、目的地も鉄道に乗ることも両方大切にした旅行でしょうか。
 あるいは、目的地があるわけでもなければ、鉄道に乗ることも目的ではなく、時間をつぶすための旅行でしょうか

 私自身、いろいろなタイプの鉄道旅行をしています。
 一つ所に丸一日滞在するような旅行もすれば、一日でいろいろな所を巡る旅行もします。
 鉄道ばかり乗ってる旅行もすれば、余った時間をつぶすために電車に乗ることもあります。


駅は物語の始まりであり、終わりでもある
(箱根登山鉄道・箱根板橋駅)
 
 その中でも、今私がはまっているのが「全駅間歩き」です。
 昨今、鉄道趣味の一分野として「駅巡り」が定着するようになってきました。
 しかしながら、ローカル線では一日に数本しか列車が来ないこともあります。
 そんなときに駅巡りの趣味者が、
 効率的に駅を巡る手段として使っているのが「駅間歩き」です。
 その駅間歩きを、路線全区間に広げたものが「全駅間歩き」です。

 多くの駅巡り愛好者にとって、
 「駅間歩き」は手段の一つに過ぎません。
 しかし、一つ一つの駅間歩きには、一つ一つの物語があります。
 駅前の商店街を抜けると、郊外の住宅地が続き、遠くに山が見える…
 そして、また商店が増えてくると、人通りも多くなり、次の駅に到達する…
 まさしく一つの物語です。
 そしてその物語は、駅間の数だけあるのです。


駅間は時として10kmを越えることも…
(宗谷本線・抜海−南稚内間)
 
 全駅間歩きを行っている間は、基本的に鉄道を使いません。
 もしかすると、鉄道趣味というよりは、
 ウォーキングの一種に位置づけられるかも知れません。
 しかし、全駅間歩きは駅がないと始まりません。
 つまり、鉄道がなければ始まらないのです。

 ここでは、そんな「全駅間歩き」を紹介したいと思います。

 
 2.駅間歩きとの出会い 

 それでは、私が駅間歩きにはまるようになったきっかけを紹介したいと思います。

 大学に入った年の夏、私は旅行で函館まで行きました。
 列車を乗り継ぎ、北海道の木古内までたどり着きました。
 木古内からは函館に直接向かわず、江差に寄ることにしていました。
 しかし、目的の列車が発車する時刻を見て愕然としました。
 次の江差行きの列車は、2時間40分後だったのです。

北海道では、特急の停車駅でも、列車の本数が極端に少ないことも…
(石北本線・白滝駅)
 この程度の待ち時間は、北海道のローカル線ではよくあるものですが、
 当時の自分にとってはどうしたらいいのか分からないくらい長い時間でした。
 とりあえず駅近くの海岸まで足を伸ばしましたが、
 30〜40分くらいしかつぶせませんでした。

 まだ列車の出発まで2時間近くあります。

 さて、どうしようと思ったとき、足は自然と次の駅の方向に向かっていました。


 30〜40分ほど歩き、渡島鶴岡駅に着きました。
 小さな駅でしたが、駅の待合室は駅隣の小学校の児童が掃除をしていました。
 夏の北海道の無人駅といえば、
 蛾やその他昆虫類の住処になっていることが多いのですが、
 この駅の待合室はとてもきれいだったことを今でも覚えています。
 (これを書くに当たって、Wikiで確認してみると、その小学校はすでに閉校したそうです。少しショックでした。)

 まだ歩けると思い、もう1駅先の吉堀駅を目指しました。
 1時間弱歩いて、吉堀駅に着きました。
 駅前近くから伸びる道を進み、橋を渡るとサイロが見えました。
 北と南を山に挟まれた地には、動物避けと思しき発砲音がこだましていました。
 ただ単純に、「北海道に来たんだなぁ」と感じた瞬間でした。

 考えてみれば、もう10年くらい昔の話なのですが、歩いたときのことは案外よく覚えています。


 このときの事が忘れられず…というと少し大げさなのですが、
 これ以来度々「目的としての」駅間歩きを度々するようになりました。

 3.駅間歩きの効能 

 もちろん、列車で移動して、駅を一つ一つ降りることでも似たような経験ができると思います。
 しかし、その駅と駅の間で起こりうる経験は、歩くことなしには十分得ることはできないと思います。

 かつて、私が自動車免許を取るとき、教習所の教官がこんなことを言っていました。

 「人間の視覚は、クルマのスピードには対応していない」

 これは、視覚以外でも同じだと私は思います。
 夏の夜に、どこかの田舎道をドライブしていたとします。
 車に入ってくるその空気は、夏でも意外と涼しいかも知れません。
 しかし、信号待ちで車を止めたとき、あなたはもっと多くのことを感じることができるでしょう。
 道の両側に広がる、ほのかな稲穂の香り…
 辺り一面にたたずむ、虫たちの鳴き声…

 稲穂も虫たちも、あなたが車を止める前からそこに存在していたのです。
 そう、人間の五感は、人間自身が生み出す以上の速度には対応できないのです。


道は、まだ見ぬ次の駅まで続いている…
(釧網本線・止別−知床斜里間) 
 今の社会では、誰しもが立ち止まることなくせわしく動き回っています。
 そして、「最も効率的な交通機関」を使って素早く移動します。
 だからこそ立ち止まり、ゆっくり歩む時間があってもいいのではないでしょうか。
 もうすでに鉄道路線がそこにはあるのに、敢えてそこを歩くのです。
 そこには鉄道に乗っているだけでは分からない、
 新しい発見がそこには必ずあるはずです。


 さあ、あなたもお気に入りの鉄道路線を歩いてみましょう。

 
 4.「全駅間歩き」マイルール 

 「全駅間歩き」は、読んで字の如くという所があるのですが、
 とりあえず、こんなルールというか目標を立てて歩いています。
 まぁ、今の時点では記録を目指しているわけではないので、あくまで目安みたいなものです。
 見出し後の( )にある★の数は、重要度というか遵守度です。

 1.駅と駅の間を他の交通機関の助けを借りず、徒歩のみで移動する(★★★★★)

 こうじゃなければ「駅間歩き」とはいえない基本的なルールです。
 「交通機関」としていますが、もちろん自転車なども使用しません。
 エスカレーターやエレベーターについてもなるべく使用しないようにしていますが、
 駅構内にある場合やエスカレーター以外の昇降施設がない場合などは使用することもあります。
 また、常識的な手段では到達不可能もしくは危険が伴う場合を除き、駅を飛ばすことも避けています。
 (※全駅間歩き前後の移動は、交通機関を使っています。念のため。)

 2.同一方向に向けて、起点(終点)駅から終点(起点)駅までを歩く(★★★★)

 全駅間歩きの対象となる鉄道は、基本的には始発駅から終着駅まで同一方向に向けて走ります。
 その路線に沿って歩く場合も、やはり同じ方向に向けて歩く方が望ましいでしょう。
 また、1日で踏破できるのであれば踏破した方が達成感も得られるでしょう。
 ただし、行程上の都合など、やむを得ない場合は一部逆順で歩くこともありますし、
 路線距離が長く、1日では終わらない場合は、区切りとなる駅を設けることもあります。

 3.なるべく駅ホームまで入場する(★★★)

 駅巡りとは異なり、全駅間歩きのメインは「駅間」ですから、
 駅前を出発して、次の駅の前まで着けば一応目的は達成したことにはなるでしょう。
 ただ、列車が止まるホームがあって本来の「駅」と言える訳なので、
 厳密に「駅間」といえば、駅のホームから駅のホームまでを指すことになると思います。
 というわけで、駅間歩きをする際は、なるべく入場券等を買って駅ホームまで入場するようにしています。
 ただし、都心部など駅数が非常に多い場所や
 そもそも「入場券」が発売されていない路線では省略する(駅前到着で到達とみなす)ことがあります。


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