1999年 今月の1枚


December

Sherylcrow andfriends/live from centralpark
最近、ライヴ・アルバムを出すアーチストは少なくなった。「GlobeSession」に引きつづいてリリースされる彼女のライヴ・アルバムだ。 裏ジャケットの彼女の大きく背中の開いたコスチュームはセクシーであり、ギターをかかえた姿はカッコいい。このアルバムは エリック・クラプトン、キース・リチャーズ、スティーヴ・ニックス、クリッシー・ハインドと豪華な顔ぶれでリラックスしたなか にもツボを押さえたパフォーマスが聞き物である。なかでもクラプトンの歌う「ホワイト・ルーム」等はクリーム時代とは違った渋い 味を出していてソソられるものがある。来年2000年を迎えポピュラー・ミュージックの歴史もおそらく50年経過し、音楽のスタイルも 出尽くしてしまったと言えるかもしれない。そうした中で、ナチュラルに片意地張らずに演やるほうも聞くほうもリラックスできるものはやはり よいものである。1900年代音楽のスタイルがROCK/POPSという形で世界的なものとなったが、インタ−ネットそしてデジタル化の波で 発信方法も含めてよりプライベートなもの、民族音楽的になっていくのかもしれない。


November

FionaApple/When the Pawn
クラシックのJAZZのアルバムのジャケットにまだデビューして数年しかたっていない新しいアーチストと不釣り合いさを感じたりしていた。 しかし、聞いてみるとはち切れるような若さを主張するものではなく、しっかり地に足をつけたJAZZYなフォーリングのサウンドで レコード・メーカーの宣伝する内容とはちょっと違ったような印象を受けた。しかも、新鮮なものも感じさせてくれた。 やっていることは決して新しくはないのであるがアプローチの仕方が少し違うのであろう。今年出たアルバムの中で傑作の1枚である。


October

UA/TURBO
R&B系(?)とか言われる女性シンガー花盛りである。実力のあるアーチストが若い人たちに評価される時代になったのは非常に良いことである。 そうしたなかで、UAは独自のスタンスを保ち続けている。どちらかとというとパワー全開のシャウト系のアーチストが多い中、UAは フィーリングを感じさえてくれる。今回のアルバムも期待どおりの充実した内容であり本人の書いたと思われる自画像もいいし、内容も非常にシンプル なリズムにさりげなく歌を乗せているというリラックスした内容であり疲れずに楽しむことが出来る。


September

忌野清志郎/冬の十字架
これぞ「オジサンのためのロック」だという気がする。さすがにコマーシャリズムに妥協しないロック・スピリットを感じさせてくれる。 「君が世」のロック・バージョンを入れてこれが理由にポリドールから発売中止になり、インディーズで自から発売したというアルバムだ。 聞いてみると、「君が世」などほんの一部であり、アルバム全体の内容は我々の世代が身につまされる内容でその方がセンセーショナルである。 「ミュージック・マガジン」に11月号にそのへんのインタビューを含めたいきさつが書いてあるのでそれを読むと面白い。


August

タジ・マハール&トゥマニ・ジャバティ/ミシシッピ・マリ・ブルース
すでに40作近いアルバムをリリースしてきたタジ・マハールのアフリカの楽器コラの達人トゥマニ・ジャバティとの競演作品である。 他の7人のミュージシャンも西アフリカからやってきた。なんとも言えない「うねり」とシンプルなリズムに身を委ねていると不思議な感覚 になってくる。「ブルース」と「ジャズ」はアフリカからやってきたと言われているが、こうしたアフリカの古い楽器とタジの音楽が融合す ると現代から古代を呼び起こす霊媒師のような神秘な力を感じることが出来る。沖縄音楽にも通じるようなメロディさえ感じる。生まれてきた 地域の差こそあれ、人はみな根を一にするのだと思う。


July

井上陽水/ゴールデン・ベスト
井上陽水、ユーミン、矢沢永吉、等のアーチストはやはり凄いと改めて思う。いまも現役であり、彼らのオリジナリティ、個性は新しい アーチストを圧するものがある。<才能が時代と出逢った>とも言えるのであるが、井上陽水の30年間の作品を一挙に聞くと脱帽!という 気になってしまう。陽水がさらにラジオかなにかにゲスト出演して、余裕で過去を語ったりするとさらにそんな気にさせられる。 今年の夏は、暑い日が続いて、大雨が降ったり、近年にない<夏らしい夏>だった。しかし、都会の夏は暑いだけで本当の夏ではないよう な気がする。このアルバムの1曲目「少年時代」の「夏がきて風あざみ.....」というフレーズを聞くと普遍的な日本の夏のイメージが 彷彿としてくる。そして、ぼくらの夏のを思い出す。このアルバムはベストとはいえ、それを越える何かを感じさせてくれる。


June

TOM WAITS/MULE VARIATIONS
アメリカのインディ・レーベル「エピタフ」から晴れてリリースされた約6年振りのニュー・アルバムだ。アサイラム・レーベル時代の 「クロージング・タイム」は名盤だと言われ当時は知る人ぞ知るというアーチストであった。ジャジーな演奏に毒のあるようなしゃがれ 声で歌う彼のスタイルは独特であり、どんな音楽のジャンルにも当てはまらない感じであった。しかし、我々は彼のそうした音楽にロックを 感じていたのだと思う。今回、彼に似つかわしくないとも思えるパンクのレーベルから出るということで妙な期待感があった。「レコードに針を落として見ると ...」と言いたいところだが、CDプレイヤーのボタンを押して見ると、彼のロック的な部分が全面に押し出された内容であり、そのサウンドには いまだトンがって前に進もうとする男の姿があった。


May

PRITENDERS/VIVA EL AMOR
「プリテンダーズ」の約5年振りのスタジオ・レコーディングのオリジナル・アルバムだ。期待に応える充実した内容である。 クリッシー・ハインドのロック・スピリットも健在である。現実のところ女性ロックン・ローラーは結婚、出産等の生活の変化 もあり、音楽に対する自らの意識を持続するのは大変であろうと想像する。このアルバムはプリテンダーズの20周年を記念する アルバムであり、クリッシー・ハインドはそうした数少ないアーチストであると思う。小気味よく乾いたギターのカッティングを ベースにルーズなヴォーカルを乗せたシンプルなスタイルは最近の国内アーチストの過剰なサウンドに比べ心地良く伝わってくる ようでもあり、むしろそのメッセージは明確でさえある。9曲目の「リーガライズ・ミー」は、最近また健在振りを見せてくれた ジェフ・ベックと競演しており、明らかにベックと解るギター・サウンドとクリッシーのヴォーカルを聞いていると「ブリティシュ・ ロック」の歴史さえ感じさせてくれる。


April

ROBERT CRAY/Take your shoes off
ロック・ミュージックは一般的にブルースに端を発し成長してきたが、「ブルース」そのものを現役でやっているアーチストは少なくなってしまった。 スティーヴ・レイ・ボーンもそうしたアーチストの一人であったが、いまや亡き人となってしまった。単純なコード進行のブルースという形式に 現代的なエッセッスを盛り込むのには限界があるのかも知れない。最近の「プロレス」と同じようにテレビ゙で見るのにはちょっと耐えられないが ゲタ履きでビール片手に会場に足を運べばけっこう楽しめることがある。ブルースというスタイル自体新しいものを持ち込むのは難しいのでライブと いう形が最高の方法である。1983年にローバト・クレイが発表した「バッド・インフルエンス」を聞いた時に衝撃をおぼえた。こんなに ノビノビとギターを弾いて歌うブルースマンがいるのだろうか!と。まだ、ブルースは健在だと思った。このアルバムはロバート・クレイの デビュー25周年を期するアルバムであり、メンフィスホーンを従えて相変わらずの心地良いブルースを聞かせてくれる。ピーター・バラカン氏も絶賛で 久々に思わず購入してしまった。

「DRAGON ASH」がカッコいい。「EASTENDXYURI」以降、日本語のHIP HOPで余りメジャーに浮上してくるアーチストはいなかったが、彼らを越え 本格的な何かを感じる。特にジョーン・ジェットとブラック・ハーツの「I LOVE ROCK'N ROLL」をサンプリングした新曲の「I LOVE HOPHOP」 はお気入りの曲だ。


MARCH

Cassnadra Wilson/TRAVELING MILES
カサンドラ・ウィルソンの「ブルーノート」レーベル移籍後4枚目、そして4年振りのアルバムだ。いまは亡きマイルス・デイビスの ために捧げられたアルバムだ。そして、1999年のスイング・ジャーナルのゴールド・ディスクを獲得したアルバムだ。 CDプレイヤーのボタンを押すと張りつめた糸のようなトーンの高いトランペットのイントロから入る。マイルスの曲「RUN THE VODOO DOWN」が 1曲目だ。そして、カサンドラ・ウイルソンの引き締まったヴォーカルが入ってくる。このあくまでも深く落ち込んだ感じのヴォーカルが単なるポピュラー・ミュージックではないと 言っているようでもある。このアルバムは、多彩なミュージシャンが参加し、アコースティックな部分があったり、ヴァリエーションに富んで いて楽しめるが、「ブルーノート」なりの一筋芯がとおったものを感じさせられる。

また3月に買ったアルバムで「ヴァン・モリソン/バック・オン・トップ」もなかなか良かったし、」「TLC/FANMAIL」も楽しませて くれた良いアルバムであった。


FEBLUARY

XTC/APPLE VENUS vol.1
アンディー・パートリッジ率いるXTCの7年振りのニューアルバムが発売になった。自分にとっては87年に発売された「スカイラーキング」 が印象的で、彼らの音楽は常に暴力的な衝動みたいなエネルギーを内包しており、ガンと頭を殴られたような感動を感じさせてくれた。 久々のアルバム「アップル・ビーナス」は、ビートルズの「WHITE ALUBUM」の1999年版だなと感じた。そして ポップでありながら、アナーキー なほどの彼らのロック対するコダワリを感じさせてくれて爽快であった。



JANUARY

下田逸郎と内田勘太郎/いきのね
シンガー・ソング・ライター下田逸郎と活動を休止した「憂歌団」のギタリスト内田勘太郎のコラボレーション・アルバムだ。 下田逸郎は作曲家故浜口庫之助に師事し、その後、東京キッド・ブラザースに作曲家、音楽監督として 参加、アルバム「飛べない鳥、飛ばない鳥」でデビューした。これは大好きなアルバムであり、日本の音楽シーン のモニュメントとなる作品であると思う。また、彼の名曲「踊り子」も永遠の光を放っており今でも好きな作品だ。 当時は<ラヴ・ソング>を唄わしたら、下田逸郎と言われていた。 下田逸郎は、永いブランクの後、「漁師」をしながら、今も全国各地で唄い続けているという。

内田勘太郎は、ブルースに限らずなんでも弾きこなしてしまう器用なギタリストだ。ディープ・パープルのようなロックから、 グループ・サウンズ、そして、もちろんスライド・ギターなども上手い。「憂歌団」のコンサートに行くとそんな自由気ままな内田勘太郎に 出会うことができる。

そんな2人がどうして出会ってどんなキッカケでこのアルバムを制作したのだろう。ふとそんな気にさせられる。

アルバムの内容は極めてシンプル、2台のギターの音色とヴォーカルの味わいだけである。このアルバムはギターを中心としたアコースティックなサウンドをバックに、ナチュラルなヴォーカルの 心地よさがある。人間は年を重ねるにしたがって余計なものを捨て去って、極めて<素>に近い形を求めていくものである。そんなことをこのアルバムは語りかけているようである。 恩師浜口庫之助の「夜霧も今夜もありがとう」、桑名正博の名曲(作詞:下田逸郎)と言われる「月のあかり」等も収録されている。



MAINページに戻る