日本百

深田久弥氏に対抗する無謀企画 !!


1. 高安山  ( 487.5m )

  大阪府の東、奈良県との県境をなすのが、生駒山脈である。その主峰は生駒山(642m)であるが、頂上付近には遊園地があり、また近畿一円にテレビの電波を送出する電波塔が林立している。大阪市内の高層ビルや通天閣から東を眺めると、一続きの峰がある。それが生駒山脈であり、その山の向こうは奈良県である。その中で一番高く電波塔が林立する生駒山から峰づたいに南に行くと、いくつかの峠を経て、小高いピークがあり、よく見るとその頂上に白い建造物が見つかるであろう。それこそが高安山である。山頂にあるのは、大阪管区気象台の気象レーダーである。台風の時期になると、テレビで気象レーダーの映像をよく目にすることと思うが、そこで活躍する大阪レーダーが設置されているのが高安山である。
  私の育った八尾市の東端に位置する山で、幼い頃から一番身近な山であった。麓のため池にフナ釣りに行ったり、親に連れられてセリ採りに歩いたり、山からの水の冷たいプールに行ったり、多くの思い出がある。また、家から少し遠くに遊びに行っても、高安山の見える角度と距離を目安にすれば、家まで帰ってくることができた。
  多くの人にとっては馴染みのない山かもしれないが、歴史上に登場するのは古く7世紀、白村江の戦いに敗れた朝廷が唐・新羅の侵攻に備えて築いた城の一つが高安城であった。最近ようやく発掘が進み、高安城の全貌が明らかになりつつあるが、まだまだ新発見が相次いでいる。また伊勢物語の中に高安の女という話がある。在原業平が生駒山脈をこえて高安に住む女のもとに通っていたが、ある日尋ねる前にひょいと家の中を覗くと、女が手掴みでごはんを食べていた。それを見て業平は興ざめし、急いで山を越え大和へと帰った。この話の舞台となったのは高安山の北西麓の八尾市神立(こうだち)、水越の辺りだそうだ。
  業平が通った道は、十三越えといわれ峠には十三塚と呼ばれる塚があり、大阪側の中腹には弘法大師ゆかりの水呑地蔵がある。休日ともなればハイキングがてらに水呑地蔵を訪れ、水を汲んで行く人でにぎわう。他に岩戸神社から登る信貴(しぎ)道は毘沙門天で有名な聖徳太子ゆかりの朝護孫子寺(ちょうごそんしじ)へとつづく。

  高安山は街から近い割には登山者が少なく、静かな登山が楽しめる。その代わり、それほどコースが整備されている訳ではないので、地図としっかりした靴、それなりの軽登山装備は必要である。登山コースとしては、近鉄恩智(おんぢ)駅からの恩智道をたどるのが分かり易い。恩智からは山が間近に迫り、山頂の木々の一本一本が確認できるくらいである。ここからの高安山はなかなか迫力がある。恩智神社の左手から山道になるとすぐに道標があり分岐になる。右に行けば緩やかな道を上り高安山霊園の南に出ると平坦になり、車道に出る。そこにのどか村というレジャー施設が近年できた。車道を進めば信貴山(朝護孫子寺)へと行ける。ここでは道標から、左に進む。道が狭くなり、季節によってはヤブこぎに近い状態になるし、朝早く登とクモの巣だらけである。分岐から道が急になり、あえぎながら小一時間登り、傾斜が緩やかになると左から岩戸神社からの道を合わせる。岩戸神社からの道は、谷沿いを進む静かで苔むした道である。合流すればすぐに高安山霊園に出て、視界が開ける。霊園の脇の道を北に進むとやがてケーブルの駅に出る。駅近くから、大阪平野の景色が楽しめる。高安山の頂上へは、駅の裏の道を少し歩く。木々の間の心地いい道を歩くとすぐにレーダーの前に出る。三角点はさらに少し行った左手にあるが、道はない。
  帰りはケーブルでもいいが、少し縦走してみると楽しい。平坦な道を北に進む。左には大阪平野から、六甲山、淡路島も運がよければ眺められる。大阪側の斜面が急であるのに対して、奈良側が緩やかであるのが、よく分かるであろう。典型的な非対称稜線を形成している。これは地層が原因であり、北アルプスの山々のように積雪が原因ではない。ちなみに六甲山も神戸側の斜面が急な非対称山地である。途中何度か信貴生駒スカイラインの車道と交叉する。通行料が高いことも在り、車はさほど多くはないが、注意。山上の池の脇を通り過ぎると十三峠につく。ここから大阪側へ急坂を下って行くと水呑地蔵。たっぷりと名水と最後の景色を楽しんだら、コンクリートで固められたハイキング道を一気に下る。集落に出ると視界が開け、八尾の街並みの向こうに梅田のビル群も眺められることだろう。南に目を移すと高安山が急な裾を徐々に緩やかに展ばし、素朴な神立の集落とあいまって、なかなか風情ある眺めである。ここから眺めた高安山が、私は一番好きである。この辺りの古い家は、東側に窓がない。業平が東から覗いたので、東に窓があると嫁に行きそびれるとの言い伝えがあるそうだ。
  時間があれば、玉祖(たまおや)神社や、こじんまりと美しい前方後円墳の心合寺山古墳、八尾市の民俗資料館を尋ねてみるのもおもしろいだろう。駅へは南に進めば、近鉄服部川駅につく。このコースのフィナーレにふさわしい単線ののどかな駅である。