名詞接尾辞 第1類
-'a', -Hom, -oy
- ここでは、名詞の第1類接尾辞について解説をします。第1類ということは、他の接尾辞よりも前に、名詞の直後に付きます。名詞の第1類接尾辞は現在のところ、以下の3種類が確認されています。
-'a' | 拡大辞 | :対象の規模を大きくする。 |
-Hom | 指小辞 | :対象の規模を小さくする。 |
-oy | 親愛 | :相手に対する親愛の念を表わす。 |
- -'a'は名詞に付いて「大きい、強い、偉大な、主な、主要な」等の概念を加えるものです。動詞の疑問形をつくる-'a'(9)と混同しない様に注意しましょう。
クリンゴン語では、その単語が名詞なのか動詞なのかということが非常に重要です。このことは、品詞の種類が名詞、動詞、その他に分けられていることからも明らかです。名詞か動詞かによって、付けられる接尾辞は違いますし、-'a'の様に形は同じでも全く意味が違ったりします。
- 例えば、「偉大な戦士」はSuvwI' Dunという具合に名詞+形容詞(的動詞)で表現出来ますが、-'a'を使ってSuvwI''a'と一語で表わすことも可能です。この場合、日本語では「偉大な戦士」と「大戦士」の違いと思えば理解しやすいでしょう。(SuvwI':戦士、Dun:偉大な)
- 以下に-'a'の付いた例を集めましたので、これを参考にすれば-'a'のおおよその感じが掴めるでしょう。
SuS | 風 | SuS'a' | 強風 |
jIH | 監視画面、モニター | jIH'a' | 主画面、メイン・モニター |
SuvwI' | 戦士 | SuvwI''a' | 大戦士 |
bIQ | 水 | bIQ'a' | 海 |
toy'wI' | 召使い | toy'wI''a' | 奴隷 |
vaS | ホール、会館 | vaS'a' | グレートホール、大議事堂 |
Duy | 使者 | Duy'a' | 大使 |
la' | 司令官 | la''a' | 基地司令官 |
pIn | 監督者、ボス、親方 | pIn'a' | 主人、親方 |
van | 敬礼、賞賛の辞 | van'a' | 賞、賞与 |
- 上の例で、toy'wI''a'は「偉大な召使い」ではなく「奴隷」であることにも注意しましょう。-'a'はその名詞の規模を大きくするものですから、「toy':仕える」度合が強くなって「奴隷」というわけです。
- bIQ'a'は「広大な水」から来ています。直接「海」を表わす単語がなくて、「 bIQ:水」から派生して出来ているところを見ると、クリンゴンにとっての「海」がどの様なものなのかを何となくうかがい知ることが出来る様な気がします。(クロノス星は水が少なく海は狭く、平原・平野が多いそうです。モンゴルの大地のイメージですね。)因みに、「川」はbIQtIqです(「bIQ:水」+「tIq:長い」)。ここら辺、クリンゴン語にはいまだに原始的な造語体系が保存されているとも言えます。
- -Homは-'a'の逆で、名詞に「小さい、弱い、はかない」等の概念を加えるものです。以下の例を見てください。
SuS | 風 | SuSHom | 微風、そよかぜ |
loD | 男 | loDHom | 男の子 |
be' | 女 | be'Hom | 女の子 |
nuH | 武器 | nuHHom | 小型の武器、携帯武器 |
roj | 平和 | rojHom | 休戦、停戦(一時的平和) |
veng | 町 | vengHom | 村 |
yuQ | 惑星 | yuQHom | 小惑星 |
mang | 軍人、兵士 | mangHom | 士官候補生 |
| | lupDujHom | シャトル機 |
- 「町」と「村」の関係は興味深いところです。ここでは「veng:町」が基本で、これから派生して「vengHom:村」が出来ています。実際の集落の発達の順番からすると、先に「村」が出来てから「町」へと成長しますので、「村」を表わす単語が基本で「*村-'a'」で「町」を表わす様にも思えます。勝手な推測ですが、語源的にはvengは「村」を表わし、その後「村」が「町」へと発展した後もこれをvengと呼んでいたのではないかと思われます。時代が下り、「町」と「村」を区別する必要が生じた時に、新たにvengHomで「村」を意味する様になってのではないでしょうか。
- lupDujHomは「lup:運ぶ」+「Duj:船」+「-Hom:小さな」から出来ています。つまり「小型運搬船」といったところでしょうか。因みに、映画の5作目ではクラー船長はガリレオ号のことをDujHomと言っています。
- これで-'a'と-Homを紹介したわけですが、ではどういう場合にこれらの接尾辞を使えばよいのかは、慣れが必要でしょう。例えば、SuS, SuS'a', SuSHom等は理解しやすいのですが、bIQ, bIQ'a'やveng, vengHom等は知らなければ使えないでしょう。より多くの単語が解明されるのを待ちましょう。(「THE KLINGON DICTIONARY」出版後も20〜30語位が追加されています。)
- さて、3番目は-oyです。これは、親類やペット等を示す名詞に付けて、それに対する親愛の情を表わす接尾辞です。日本語の「〜ちゃん」に近いでしょう。
vav | 父 | vavoy | お父ちゃん、パパ |
be'nI' | 姉、妹 | be'nI'oy | お姉ちゃん、かわいい妹 |
- 単に父、姉、妹等と言及するのではなく、実際に相手に呼びかける時等によく使われます。映画の6作目の晩餐での2回目の乾杯の場面で、アゼトバーは父ゴルコン宰相に対して、vavoyと言っているので注意して聞いてみましょう。
- 但し、私たち地球人が何の血縁関係もないクリンゴンに対して、-oyを使うのは馴れ馴れしいのでやめましょう。そもそも相手に媚びることを敬遠するクリンゴンの間では、あまりこの-oyは使われません。
- また、余談になりますが、この接尾辞はクリンゴン語の音声構造上、特別な形態をしています。クリンゴン語の音節(音の単位)はCを子音、Vを母音とすると、以下の3種類が認められます。
音節 | 例 |
CV | Da:振る舞う |
CVC | DaH:今 |
CVCC(但しCV-rghのみ) | Dargh:お茶 |
接尾辞-oyはVCという形をしています。もちろん、接尾辞はそれ自体では独立して現われることはありませんので、必ず他の単語の後ろに付いて、結果的にはCVC-VC=CV-CVC、CVCC-VC=CVC-CVCとなり、問題はなくなります。但し、CV型の単語の後ろに付くと、CV-VCとなり、クリンゴン語の音節体系から外れてしまいます。クリンゴン語では母音が連続して現われることはありません。この場合には間に「’」が挿入されて-'oyになるであろうと推測されています。しかし、今のところそういう例は見つかっていない様です。
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