最近の推理小説には,謎解きをその本分とする新本格派と称される推理作家たちがいる。我孫子武丸もその一人である。 初めて自分で買った本がシャーロック=ホームズの「銀星号事件」という私は,そうした謎解き小説は大好きである。島田荘司や綾辻行人などもずいぶん前にあらかた読んだが,我孫子武丸には手が出なかった。 「8の殺人」・「0の殺人」・「メビウスの殺人」の「我孫子武丸」,そう聞いて,何やら暗い印象を持ってしまったのだ。「数学」「難しい論理」「読んでもわからない」「喪黒服造」「大橋巨泉」そんな暗い言葉が脳裏を駆けめぐった。 暗くて,難しくて,重い推理小説なんだ…… そして何年もの時が過ぎた。最近になって,たまにはそういうのもいいか,そう思い直し,「8の殺人」を手にしたのだ。 それだけに驚いた。ユーモア小説だったのだ。 一体,何度笑ったことだろう。軽く10回は声を出して笑ったと思う。げらげらと,アホのように笑った。そんなことは漫画でも滅多にない。 肝心の謎解きの部分も悪くない。 さほど奇抜でもないし,少々簡単かもしれない。しかし,私はそれでもいいと思う。この小説のトリックは確実に先を読み進むための動機として機能したし,気持ちよく頭を使うことができた。私は謎解き自体を確かに楽しんだのだ。 何より,トリックを解く手がかりをフェアに提示していること,また,提示のタイミングも程良いこと,この2点を評価したい。 フェアであることは推理小説の条件でもあるが,それが守られていない,あるいは,アンフェアとは言えないけれど……,と感じる作品は多いような気がする。もっとも,この作品でも2カ所ほどそう思った。 推理小説自体が嫌いなら話は別だが,そうでなければ読んで損をすることはない。非常に優れた作品だ。
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