後期木曜4限

社会心理学概論   解答

※正答だけ残して文章を完成させてあります(赤字部分)。

 

問1.以下の問いについて、 授業で説明したもっとも適切な解答を一つ選んで マークしなさい(番号を一つ塗りつぶしなさい)。 一問2点×50問=100点
 

 

 

0.社会心理学の成立

 20世紀初頭、 問1(@ワトソン) は、自著『行動主義者の立場からの心理学』の中で、意識を研究する学問としてではなく、問2 (D行動) を研究する学問としての心理学を主張した。彼は生理学を強調しながら、生活体の環境への適応について、特に生活体から反応を引き出す刺激について研究した。
 しかし、彼の主張はやや極端すぎる傾向があり、生態内部の過程である、 問3(B認知) は直接観察できないことから、科学的研究にはなじまないとされてきた。しかし、心理学が本来対象としてきたのは精神過程である。これらは行動主義下ではブラックボックスとされていたが、やがて心理学本来の関心に立ち戻ろうとの気運が高まり「認知革命」が起きた。社会心理学においては、 問4(@フェスティンガー) が認知社会心理学の流れを確立した。

 

1 服従実験

 問5(Bミルグラム) は、自身がユダヤ人と言うこともあり、ヒットラーの虐殺に胸を痛めていた。大戦後アメリカに亡命していた彼は、命令に従った下級兵士の心理を再現する実験を行っている。実験に応募してきた 問6(B一般市民) の被験者たちは、「罰が暗記学習の成績向上に有効かどうかを調べる」と嘘の説明を受け、生徒に電気ショックを与えなければならない教師役を任じられる。生徒が課題を間違えるたび、電圧を 問7(B15ボルト) ずつ上げていかねばならないのだが、“危険−激烈なショック”と書かれている以上の、最大450ボルトの電圧スイッチを押した被験者は 問8(B65%) にも上った。人が、これほどまでに命令に弱いことを証明したこの実験は、全世界に大きな衝撃を与えた。しかし、もっとも衝撃を受けたのは実験を受けた被験者たちであり、精神科にかからねばならない人も現れた。この実験を機に、アメリカ心理学会では、心理学験の倫理的な問題をとりまとめた 問9(A倫理綱領) が定められることとなった。

 

 

2 同調行動

 同調とは、集団の中で構成員間に意見や態度の対立が生じたとき、相手の主張が 問10(A正しい) かどうかは無関係に、他のメンバー に自分の意見や行動を合わせてしまう現象をさす。同調研究で有名なのは 問11(Bアッシュ) である。彼の実験では二枚のカードを用意し、被験者(実験を受ける人)は二枚のカードを見比べて、左のカードの線分と同じ長さの線分を、右のカードに書かれた三本の中から選ぶという課題であった。普通に選ばせたら、この問題の正答率は99.9%以上であった。しかし次に、一度に7〜9人の男子大学生を一つの部屋に集めた上で同じ問題を出し、 一人ずつ頭から答えさせていった。しかし何も知らないのは最後から2番目の人だけで、あとは全員がサクラであった。サクラ全員がわざと誤った答えをすると、本来ほとんど誤答をしない課題なのに、自分よりも前の人が誤答すると、実に 問12(A36.8%) もの人が、それにつられて(本当は「あ、あれ!!??」と思いつつも)わざと誤答をした。この実験では、周囲に合わせないからといって制裁が科される訳でもなく、従うことへの 問13(C強制力) は存在しなかった。その他の追試実験では、二人組( 一人がサクラで一人が被験者 )ではほとんど同調が起こらず、 問14(@三人組) になると同調率は急上昇した。また、サクラの全員が誤った答えをするのではなく、 問15(@一人でも) 正しい答えをすると、同調率は激減した 。

 なお、一見、実験室の中だけの世界のように思えるが、実際には日常的に見られる現象である。例えば喫茶店などでお昼をみんなで食べるとき、「なんにする?」などとメニューを見る。自分は「パスタとコーヒー」と思っているのに、他の人がみんなが「日替ランチ」といったら、自分は別にランチを食べたいわけでなくても、「・・・じゃ、私も日替ランチ」といってしまう。これも、仲間はずれにされる訳でもないのに、パスタとコーヒーを食べたくても、なんとなく日替わりランチを頼まなければならないような気がして仕方がない。こうした同調のプロセスは、 問16(D規範的影響) と呼ばれる。もっとも、別に何を食べたい訳でもないときの「じゃあ、私も日替ランチ!」というのは、メニューに悩む必要がなく、同調した方が楽であり、こうした同調のプロセスは、 問17(@情報的影響) と呼ばれる。よって、心理学的に同調プロセスはこれら二つに分類されることになる。

 

 

3 責任の分散について

 詐欺まがいの金セールスを行った豊田商事会長が殺害された事件が、今から30年ほど前に社会を騒然とさせたことがある。この事件が衝撃的だったのは、事件がマスコミの前で“公然と行われた”殺人事件であった点にある。まわりに人がいるのに誰も何もしないのは、一見すると非常に不思議であるが、実は逆で、人が大勢いるからこそ誰も何もしないのである。これを明らかにしたのが 問18(@ラタネ) らであった。この実験では、リサーチ会社の一角に被験者が訪れると、女性職員が出迎え、作業をするよう求められる。被験者は一人だったり、赤の他人だったり、友人やサクラと共同で、ある作業をするよう求められる。しかししばらくたつと、アコーディオンカーテンで仕切られた隣室から、女性職員がイスから落ちてけがをし、呻いている声を録音されたものが流される。この実験において、一人で来室した、サクラと一緒といった条件操作が 問19(@独立変数) となり、援助行動をするか、するまで何秒かかるかが 問20(C従属変数) となる。この実験では、サクラが緊急事態に 問21(D無関心を装っている) 場合、援助行動の喚起が大きく妨げられてしまうことが示された。

 

 

4 社会的手抜きについて

 一人ではなく何人か協同で作業を行う仕事の協同化は、社会を構成する人間にとって重要なことである。チームワークで作業に当たることで、大きな目標をより容易に達成することが可能となる。しかし、協同作業には 問22(Aフリーライダー) と呼ばれる、自分の能力を出し惜しみする存在が伴う。リングルマンはは実験場面として綱引きを用い、一人の力を基準にすると、二人で引くときは一人の力の93%、三人では85 %、さらに8人になると、 問23(C49%) しか各人が力を出さなくなることを明らかにした。ラタネらはこれについてさらに追試を行い、被験者に目隠しと消音ヘッドホンをつけさせ、大声で叫ばせるという実験を行った。この実験では、声量の測定が可能か不可能か、一人で大声を出すか二もしくは六人で声を出してもらうといった教示が 問24(@独立変数) となり、各教示条件下で測定された声量が 問25(C従属変数) となる。この結果から、単独時と比べ、疑似二人条件では約20%の声量の減少が見られた。実験結果より、一緒に叫ぶ人数に関係なく、 問26(D個人評価) が可能な状況では社会的手抜きが起こらなかった。つまり、場合によっては個人単独で作業をした方が効率的であるといえる。

 

 

5 情動二要因理論について

 たとえば、「涙が出た」という生理的反応が喚起された場合、それが何故「涙が出た」のかについて、この状況下ならどんな情動を感じているはずなのだろうか、、、という、環境的な情報を手がかりに、自分の情動喚起を認識する。簡単に言えば、「好きな人を見たからドキドキする」のではなく、「なんだかドキドキしているが、これは前にいる人のことを自分が好きだからに違いない」というように、通常で我々が考えているようなメカニズムとは逆の手順を踏むこともあるのである。これをダットンとアロンは、性的感情とは何の関係もない 問27(B恐怖)でさえ、性的興奮を強める効果があることで示した。この実験は、女性の同伴がいない18才から35才の、吊り橋を訪れた男性を対象とし、橋の真ん中か渡り終えてしばらくたってから女性が話しかけると言った操作が 問28(@独立変数) となり、女性がその場で測定した性的興奮度や後日かかってきた電話の数が 問29(C従属変数) となる。その結果、 問30(@橋の真ん中で) 声をかけられた場合の方が性的興奮度が高く、この理論は実証された。

 

 

6 世間って狭い?・・・について

 世間は狭いとよく言われるが、これを実際に測定した研究もある。三隅・木下(1992)の社会的ネットワークの研究では、無作為に抽出した実在のX氏(知名度の高い企業)とY氏(知名度の低い企業に勤務)を対象とした。この操作は、本研究の 問31(@独立変数) となる。両方とも男性で40歳前後、大卒課長で家族構成も同じである。実験は、それぞれ100名ずつの家にある日突然、依頼状・目標人物に関する情報・謝礼品のセットが届けられ、そこで実験の趣旨説明と「X(or Y)氏という人があなたの知人なら紹介して欲しい。もしも知人でないのなら、自分の知人の中からX(or Y)氏にもっともよく知っていると思われる人物を一人紹介して欲しい」とお願いされた。知人を紹介された場合、今度はその人に同様のモノを送付し、「X(or Y)氏がもしも知人であるのなら(以下略)」という具合に聞いていき、何人目で目標の人物に到達するのかを検討した。その結果、いずれのケースのステップ数も 問32(@10ステップ) を切る程度であり、到達率は 問33(A30%程度) であった。この研究の元は、ミルグラムの“Six Degrees of Separation@狭い世界”というタイトルで発表された研究であり、 問34(C6人) の知人の連鎖を介せば、世界中のどんな人にもたどり着けるとされています。我々が想像している以上に、“世間は狭い”のである。

 

 

7 報酬のパラドックスについて

 認知的不協和は、 問35(Dフェスティンガー) が提唱した理論であるが、非常に広範な様々な、一見日常的な常識に反する現象を予測・説明できるなどの理由により、多くの研究が行われている。この理論の骨子は非常に単純で、「個人の心の中に互いに矛盾するような二つの認知があると 問36(B不快感) を感じ、人はその不協和を低減するために、比較的変えやすい方のどちらかの認知を変化させる。」というものである。彼の実験ではまず、「達成動機の実験だ」とウソの教示を受け、凄まじくつまらない課題二つを30分ずつやらされるというものだった。これが終わると、待機している次の被験者に、「実験は非常に面白かった」とウソをついてもらい、1ドルもしくは20ドルの謝礼を支払う(この操作は 問37(@独立変数) となる。)と提案された。その後の評価では、20ドルのグループは、「ウソをいうかわりに20ドルを得た」と自身を納得させることができる。しかし、1ドルのグループはそれができない。・・・といっても、退屈でつまらない作業をしたことも、面白いといったことも取り消せないので、「面白いと言ったのはウソではない」と認知を変容することで不協和を 問38(A解決した) と解釈できる。実験結果はこれを支持するものであり、その後いろいろな方面にこの理論は応用されていった。

 

 

8 入会儀礼について

 認知的不協和理論に裏打ちされた、もう一つの有名な実験が、入会儀礼についてである。我々が様々な団体やクラブに入会する際、入会儀礼がある場合が多い。中でも、厳しい入会儀礼をこれからそのクラブでの活動を楽しみにしている新入生に科すことがよくある。しかし、そういうしごきを受けた2,3年生の中には、部活動などに深くのめり込んでしまい、自ら進んで過酷な試練をやったりしているケースも多い。アロンソンらは入会儀礼が過酷で辛いと、そうでない場合よりもその集団を 問39(C魅力的な) 存在と認知することを実証した。実験は、架空の性交渉に関する討論クラブの入会募集に応募してきた女子大学生を被験者とした。被験者は 問40(@独立変数) の操作として、1.入会儀礼なしで入会が認められた群、2.性交渉についての穏便な言葉のリストを男性の前で読み上げさせられた群、3.極めてひわいな小説の濡れ場を男性の前で読み上げることを求められた群・・・以上3群に分けられた。その上で、どの学生も、最終的には全員が入会を認められた。その後彼女たちは、一回目は討議に参加せず、会員になっている人たちの性交渉に関する討論を別室からインターホンで聞くことになっていた。しかし、これは作り物のテープで、内容も動物の生殖行動に関する退屈この上ない内容の、期待(!?)を大きく裏切る代物であった。テープを聞かせた後、 問41(C従属変数) として、今の討論をどの位面白いと感じていたか、またクラブのメンバーについてどう感じたか、、、などの評価を行った。結果はこれを支持し、厳しい入会儀礼を経た方が、つまらないテープを面白いと回答する傾向にあった。中学・高校生時代に激しい部活動を経験してきている場合、クラブの厳しいしごきには、実はこんな心理学的メカニズムが働いていたのである。

 

 

9 ちょっといいですか?のからくり・・・説得について

 認知的不協和理論の応用編として、協力承諾の実験に関する3つの理論が開発されている。訪問した家で、相手が自分をセールスマンだと見るなり「うちはケッコーです」と言ってドアを閉めようとされることがよくある。このようなとき、戸口につま先を入れて「話だけでも聞いてください」と粘り、追い出されなければ、そのことが相手を少し買う気にさせる・・・というものがある。これは、セールスマンの隠語の一つで 問42(@フット・イン・ザ・ドア・テクニック) と呼ばれるものである。この理論に基づけば、一般には承諾を得にくい要請を行う前に 問43(A同種の小要請) を行い、一度承諾を得ておくと、肝心の要請に対しても承諾が得やすい、、、ということになる。セールスマンを玄関に入れてしまった場合、相手を玄関に入れたという認知が、「この商品を買う気がない」という認知と不協和を起こす。しかし、相手を玄関に入れた事実は変えにくいため、その商品を買う気がなかった、、、と言う認知を変容させ、不協和の低減を果たすことになる。
 この他、初めに本当に承諾させたい要請よりも大きな要請をしておいて、わざと相手に一度拒絶させ、その後本来の要請をする 問44(Aドア・イン・ザ・フェイス・テクニック) と呼ばれる方法もある。要請された相手は、最初の大きな要請を断ったことに対する罪悪感(負い目)のため、相対的に小さな要請には応じやすくなる。妥協してくれた相手にお返しをしなければならない、、、と申し訳なく思う、 問45(D返報性) の原理を巧みに用いている。知り合いに、「100万円貸してくれ」といきなりいわれたとしたら、普通の人なら面食らって断る。そこで「そりゃ無理だよな、、、じゃせめて悪いけど生活費が必要なんだ、1万円貸してくれないかな、、、」と言われた場合、財布の中に2,3万円入っていたら、相手に渡してしまうことはあり得る。さらに、アメリカの自動車セールスマンが実際によく用いるテクニックである、新車を300ドル値引きしますと言い、客に一度は買うことを決心させた後で、「実は急な事情で値引きができなくなった」「上司に話したら怒られてしまい、値引きができなくなった」などと言い訳をしながら元の価格に戻し、それでも良ければ買っていただけますか?・・・などというと、客の多くが結局正価で買ってしまうという、 問46(Bロー・ボール・テクニック) と呼ばれる方法もある。いずれにせよ、いざというときに冷静に判断できるようになることである。

 

 

10 監獄実験について

 監獄実験も、非常に有名な実験である。この実験を行ったのは 問47(@ジンバルドー) であった。この実験は、人の 問48(@役割取得) に関する実験である。この実験は有名であるが、実験として失敗している点は特筆される。この実験は、倫理的に問題になって中止せざるを得なくなったのである。彼の実験は、スタンフォード大学心理学部で実施された。実験に用いた模擬監獄は、地下実験室を改造したもので、当初は 問49(C2週間) の予定だった。1日15ドルのアルバイトに75名の市民が応募し、心身ともに安定した、反社会的行為に関係したことの無い人を選んで被験者とした。最終的に、囚人役(10名)と看守役(11名)にくじ引きで割り当てた。看守役には、囚人と看守の役割はくじ引きで割り当てられたことを明確に告げ、囚人に対する身体的懲罰や暴力を厳禁し、事務的な最小限の注意事項を伝達した以外は指示を与えなかった。しかし次第に、看守役は自ら囚人役に罰則を与え始め、反抗した囚人の主犯格は独房へ見立てた倉庫へ監禁し、その囚人役のグループにはバケツへ排便するように強制された。やがて、囚人役の被験者は何の反応もしなくなっていき、二日目には囚人役10名の内5名が、抑鬱、号泣、怒り、不安などの病的兆候を示し始めたため、釈放せざるを得なかった。他にも様々な問題が生じ結局実験は6日間で中止された。この実験では、看守役の中でもっとも 問50(A攻撃的) な人物が、自然にその輪番でのリーダーになるといった傾向が観察された。

 この研究そのものは、途中で中止されたこともあり、明確な結論が出たわけでもないが、この研究が契機となって開拓された研究分野は多岐にわたっており、歴史的な研究であった

 

 

 

 

問2.本講義を受講した感想を解答用紙の指示にならって記入しなさい(最低5行)。

 

・最低でも5行は書くこと!一言「つまらなかった」「面白かった」というのは何が原因か判らないので不可とします。

・話して欲しいトピックがあれば記入しておいて下さい。来年以降の参考にさせていただきます。

・ほめても加点しないし、けなしても減点しません。それは保証するので正直に感想を書いて下さい(問題点は修正したいので)。

・つまらなかったトピックがあったら書いておいて下さい、折を見てはずす方向で検討します。

・その他要望等があれば記入しておいて下さい。こうしたプリント形式による授業についてのコメントは参考になるので嬉しいです。

 

 

 

 

・・・ただいま採点中・・・

心理学の採点は以下の手順で行います。

1.まずマークシート部分についてのみ得点を出す。

2.調査協力得点を加算することによって評価が変わるケースにのみ加算して、成績(AA〜D評価)を算出

3.ざっと感想が何行書かれているかだけを見て、5行以上書いてあって不合格圏得点であった場合、60点に補正。

4.全員最後まで評価を記入した後、感想を一通りチェックする。

 ・・・という訳で、感想に何が書いてあろーと機械的に得点は算出しておりますので、それが評価に影響することはありません(あってはいけないとも思いますし)。

 

自分の点数を聞きたい方は、必ず学籍番号と名前を書いてメールを下さい、このHPは試験申し出期間まではリンクを張っておくつもりです。

長くなるので携帯メアドは不可とします。

・・・点数と評価が対応しているか確認し、「AのつもりなのになぜBなんですか!」・・・なんて言う具合に不満があるなら、早めに連絡を下さるか、研究室までお越し下さい。「BのつもりだったのにAでした」なんていうのは、クソ正直に出てくる必要はありません(そういう間違いはしてないつもりですが)。また、上のコメントに対するご意見、反論等もお待ちしております。

 

 

・・・私からは以上です。

 

Mailはこちら(kitaori@kinjo-u.ac.jp) まで、質問・疑問等があったら遠慮なくどうぞ。