ばーちゃんとの約束通り、いや、それよりも早くターゲットをゲット出来て、俺は内心かなり機嫌が良かった。
 そして、その時には、すっかり忘れていたのだ。

 そう、『待っていろよ』と自分で言った事を、入り口が見えてから思い出しのだった。

「ずいぶん早かったんだね」

 俺の姿を見て、星馬が少しだけ驚いたような視線を向けてくる。
 まぁ、時間的には、30分も経っていないんだから、早いって言えば、早いよなぁ……。

「まぁ、『夜』の力添えがあったからな」

『ボクは、何もしてないぞ』

 俺の言葉に、『夜』が否定の言葉を口にする。
 でも、俺が言った事は嘘じゃない。
 だって、『夜』が、俺を認めてくれなければ、『昼』がこんなに素直に俺を主としては認めてくれなかっただろう。

『……『魅惑の瞳』を使われたくなかっただけだ』

 俺と『夜』の会話に、ボソリと『昼』が何かを口にした。
 でも、余りにも小さすぎて、何を言ったのか聞き取れずに、思わず聞き返す。

「んっ?『昼』何か言ったか?」

『何も、言ってない』

 聞き返した俺に、『昼』は、そっぽを向いて小さくため息をつく。
 一体何を言ったんだか。

「んじゃ、お前達、送っていてやろうか?こんな所で学生がウロウロしていたら、補導されちまうぜ」

「って、あんたも、俺らと見た目変わんねぇじゃん」

 時間的には、まだそんなに遅い方じゃねぇけど、公園なんかをウロ付いている高校生って言うのは、警察にとっては要注意と見られてしまうのだ。
 だからこそ言った言葉に、星馬弟が、呆れたように返してくる。

 まぁ、事実お前の兄貴と同じ年だけどな。

「俺は、特別。警察にも顔が利くんだ。仕事が仕事だからな」

「そうなの?」

 俺の言葉に、星馬が感心したように問い掛けてくる。
 それに俺は、ニッコリと笑顔で返した。

『送っていくのか?』

「まぁ、これも仕事の一環だからな。最後までちゃんとしないとプロとして失格だ」

 星馬達を巻き込んだのは、間違いなく俺。
 だからこそ、ちゃんと最後まで面倒見なくては行けない。
 仕事をする上で、これだけはとばーちゃんからも厳しく躾られた事だしな。

 『途中で仕事を投げ出す事は、何時いかなる時でもしてはならない』。

 それが、家の仕事をする上での決まり事。
 だからこそ、星馬達をそのまま家に帰しちまったら、その言葉を守らない事になる。
 そんな事がばーちゃんにバレたりしたら、どんな目に合わされるか……。

 考えただけでも、恐ろしい。

「別に、僕達の家は近いから、大丈夫だけど……」

「何も金を請求しようって訳じゃねぇから、心配すんなよ」

「いや、お金払うような事は、してもらってないから、心配しないけど……送ってもらう理由もないんだけど」

 ああ、心配してるかもって思って言った言葉を、キッパリと返されちまった。
 ってもなぁ、送ってもらう理由なぁ……。

「俺が、仕事終わるまで、待っていてくれたからな。俺のお礼だ」

「それは、僕達が、好きで待っていたはずなんだけど……」

 ああ言えば、こう言う。
 だから、頭がいい奴は困るんだよなぁ……

 たく、なら、どう言えば納得するんだよ。

『お前達が、オレとを引き会わせたんだから、仕事の手伝いをしたんだろう?なら、こいつが送っていく理由は、それで十分じゃないのか?』

 俺に代わって、今度は『昼』が呆れたように補足してくれる。

 ああ、そう言えば、そうだな。
 うん、それだと一番理由として確かだな。

?それって、君の名前?」

「ああ、仕事の都合上、フルネームは教えてやれないけどな。俺は。これから、『昼』の事で世話になると思うから、宜しくな」

「あっ!僕は、星馬烈。あっちは、弟の豪。こちらこそ、宜しく」

 今更になっての自己紹介。
 星馬達の名前は、聞かなくっても本当は知っているんだけど、そこは秘密。
 そんでもって、俺のフルネームは、相手も知っているから、教えられない。

 星馬が知っている俺は、俺であって、俺ではないのだから……。 

「そんじゃ『昼』が言うように、俺の仕事の協力者達を無事に送り届けなきゃな」

 ニッコリと言えば、今度は素直に頷いてくれた。
 これで、ばーちゃんにばれたとしても、怒られなくって済むな。
 そんな星馬に、俺が心の中で、ホッと胸をなでおろしたのは、きっと誰も知らない事実だろう。

 こうして、本当の俺と星馬兄弟が、普通ではない猫を通して知り合ったのだった。